日本を愛するBREWERY 【ブルワリーレポート CULMINATION BREWING編】
これまでも日本のブルワリーとコラボレーションしている「CULMINATION BREWING(以下、CULMINATION)」。「Nekonihiki」とコラボレーションしたブルワリーといえば、ピンとくる人も多いのでないか。以前、JBJAではオーナー兼マスターブルワーであるトーマス氏の奥様にインタビューをしたことがある。今度はトーマス氏の話をじっくりと聞きたく、現地を訪れることにした。
ビールは「つなぐ」ためのアイテム
「私たちは多くの人、アイデア、コミュニティが集まって良いものを実現することをコンセプトにしています。文化の違いがあってもビールがあれば交流できます。私にとってビールはそれをつなぐものなのです。『Cheers!』といってビールを飲めば、みんな友達になれます」。
それならば「ビールがあればいいのか」と感じるかもしれないが、決してそうではない。「良い原料を使い、高品質のビールをつくることです。たとえ利益が低くなったとしてもね。お客さんと美味しいビールを提供する約束をする気持ちでやっています」。
そこにアイデアに富んだ品質の良い美味しいビールがあり、魅力的であるからこそ「Culmination」に人が集まり、コミュニティが生まれ、広がっていく。
「安定した経営をしていくためには、売れ行きの良いビールもつくる必要もありますが、自分たちが興味を抱くビールをつくっています」とトーマス氏は在オレゴンの「桃川」という会社で日本酒をつくっていた経験があり、酒米を使用したビールやバレルエイジといったものを提供しています。1回の仕込み量も小規模ということもあり、年間で70回仕込みを行ったこともある。
ブルワー志望は建設から手伝うのがいい?
「オ州酒ブログ」のレッド氏にトーマス氏の印象を聞くと「良い人」と答える。そのためか彼の周りにも良い人が集まってくる。現在、醸造を担当しているコンラッド氏もその1人だ。トーマス氏も彼がいなければ「今の自分はなかった」という。
「出会いはこのブルーパブをつくるときに工事担当の人がなかなか来なくて、人手不足になってしまいました。彼は噂で「CULMINATION」ことを聞き、手伝いに来てくれたのです。このバーはね、2人でつくりました」。「Breakside Brewery」で研修し、醸造技術を学んだコンラッド氏はブルワーになるために来た。はじめは「醸造に関心がある」程度にしか話をしていなかったが、「設備を導入し、チェックをしていたときも彼は釜を自ら洗浄してくれました。そうした姿を見て、仲間になってほしいと思いました」。
取材時にはスタッフがコンラッド氏に作業の確認をしにくる場面が何度もあった。トーマス氏が一緒にいるのに彼に聞くということは、ブルワリーとしても大きな信頼をしていると感じた。
トーマス氏いわく、「ブルワーになりたかったら建築から手伝うといいよ」とのことだ。
5時間のミーティングの末に生まれた「Nekonihiki」
「Nekonihiki」の人気ぶりを伝えると「それは嬉しいね。レシピを作るのは苦労しました。分析をしたりして5時間もかかりました。最終的には『trust me(私を信じて)』と言って決まりました。IBUについてたくさん打ち合わせしましたね。仕込みの前日でしたので大変でした」。通常、コラボレーションビールでは事前にメールなどで打ち合わせをしてレシピを決めておき、仕込む前に30分ミーティングをする程度だという。このときは、ニューイングランドIPAで、ホップを大量に使うため分量について意見を交わし合った。
ちなみに帰国後、「伊勢角屋麦酒」の鈴木社長と出口ヘッドブルワーに話を聞いてみたが、お2人ともそこまで、話し込んだ記憶ではない様子だった。この辺りは文化の違いなのかもしれない。それでも「彼らは酵母の培養技術に長けています。私は尊敬していますし、大好きです」といい、4月21日(現地時間)に行われる「Fuji to Hood」では三度、「CULMINATION」と「伊勢角屋麦酒」はタッグを組み、コラボレーションビールを提供する。
美味しさの秘訣についても話してくれたが、詳細はここでは残念ながら言えない。ただ、トーマス氏のビールづくりはとても科学的であるとだけお伝えしておく。
行政のサポートが発展のキーポイント
「日本のブルワーたちの情熱は、とても好感がもてます。日本のクラフトビール業界は良い方向に向かっていると思います」。
日本のクラフトビールについて聞くとこのように話しはじめた。そして、「行政のサポートがないことは残念です。ホームブルーイングもできませんしね。アメリカには『Brewers Association(以下、BA)』があります。その役割の1つにロビー活動があります」と行政のサポートが発展には必要不可欠だという。
「日本は酒税が高く、卸しなどを通すと、販売価格が高くなります。高いと売れにくく、価格を下げると利益が小さくなります。そうなるとブルーパブ形式でその場でしか売ることができなくなってしまいます。もし行政が酒税を安くすれば、もっとたくさんつくり、流通させることができると思います。BAのロビー活動によりアメリカは今年から酒税が半分になりました。これは行政が売れれば、経済が動くということをわかっているからです。これをやらないと行政は『なぜ、安くしなければいけないのか』がわかりません。これは私たち、ブルワーではできないことです。協会をつくり、活動していく必要があります」。
4月より酒税法が改正され、数年後にはビール系飲料の税率が統一される予定になっている。さらなる発展には「日本も行政に対して活動をアピールする団体が必要」だと語る。すぐに対応することは難しいかもしれないが、こうした活動の重要性を感じた。
最後にトーマス氏にとって、「ビールとは?」と聞いてみると「クリエイティブで無くなってしまうアートです。無くなるというのは注がれて時間が経過すると味が劣化してしまうからです。それとコミュニティをつくるものなので、自分のためにつくるのではなく、他の人たちがつながっていくもの」と答えてくれた。
日本の和食、人、クリエイティビティ。それらすべてが大好きだといい、これからも日本とはお付き合いしていきたいと語るトーマス氏。日本への来日予定もあるので、近くのビアパブでイベントがあれば、ぜひ直接会って、話ながら彼らのビールを飲んでみてほしい。きっとその魅力に惹き込まれることだろう。
◆CULMINATION BREWING Data
住所:97232 ポートランド2117 NE Oregon St
電話:+1 971-254-9114
Homepage:http://culminationbrewing.com/
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。