[イベント,コラム]2018.8.6

今年も「ゼウスビター」の季節がやってくるぞ! 【松江地ビールビアへるんホップ収穫ツアー体験レポート】

8月に入り、全国各地でホップの生育状況が伝わってくるようになってきました。熱心なビールファンのなかには各地で行われているホップ収穫体験に参加している方もいらっしゃると思います。今回、ご紹介する「島根ビール株式会社」(通称「松江地ビールビアへるん」。以下、「ビアへるん」)も3年前より一般の方を対象としたホップ収穫ツアーを開催しており、その模様をお伝えします。

自生地域を越えた島根の地での試み

「やってみたいという思いからはじめました。8年前に栽培をはじめた当時は、ホップが自生できる南限は長野県といわれていましたが、やってみて駄目ならば諦めようと駄目もとの気持ちでスタートしました」と矢野学社長はきっかけを教えてくれました。

ホップの栽培は、夏場の平均気温20℃程度が適していると言われています。しかし、「ビアへるん」のある島根県松江市の平均気温は26℃。決して良い環境とはいえない地域で行っています。栽培当初は、α酸などの苦味成分量は品質として問題ない状態でしたが、1株当たりの収穫量が少ないといった課題がありました。

「改善していくために土のつくり方、水のやり方、株の選定時期など、毎年データを取り、より良い生育環境になるように努めています」。

こうした努力もあり、少しずつ収穫量は増えてきています。今年からは、醸造所前以外の場所に圃場を設け、中心として育てている「ゼウス」をはじめ、カスケードやナゲットなど6つの品種の栽培を開始しています。新しい圃場については、「まだ1年目ということもあり、十分な生育には至っていません。来年以降を楽しみにしていてください」と話します。

醸造所前にある圃場。ここではゼウスとセンテニアルを栽培している。

ホップ収穫体験ツアーが行われたのは、平成30年7月28日。台風12号の影響により直前の予報では雨予報でしたが、当日は晴れ模様に。余談ですが、なぜか私が参加するときは台風の影響を受けます。この日は地元以外にも大阪や岡山、さらには富山と遠方から駆け付けた方もいらっしゃいました。世代も大学生からミドル世代まで幅広く、女性の参加者も多かったのには驚きです。

参加者の大半は、ホップをはじめて見る方。生育状況について矢野社長の話を興味深く聞いているのが印象的でした。

ホップについて説明する矢野社長。

ゼウスという珍しい品種を育てている理由については、「当時、既にホップの栽培は、国内でも数社がやっていました。栽培条件も悪い地域で、他と同じ品種を育てても面白くないと思い選びました。当然、『神々の国しまね』ということもあり、神様の名前『ゼウス』であること。既にアメリカなどで商業ベースでの生産をしていなかったことも理由です」。

ホップの摘み方について説明。

一通り説明を終えると収穫体験スタートです。実は今年は猛暑のため、生育が遅く毬花の数も少ない状態でした。それでもはじめて触れるホップに、みなさん楽しそうに収穫されていました。

ホップを収穫してポーズを決めてもらいました。

中国地方では、ホップ収穫体験を行っているブルワリーは少なく、「ビアへるん」の活動は、この地域では貴重な経験になっていると思います。関心が高まっているためか参加者も年々、増加しています。

神山タクロウ ビアジャーナリストもツアーに参加。

工場見学もできてしまいます!

「ビアへるん」のホップ収穫ツアーは、これだけではありません。工場見学もあるのです。こちらは経理担当の矢野亜希子氏が担当。以前は、鳥取県にあったブルワリーでブルワーをされていらっしゃいました。

工場見学は、数班に分かれて実施。醸造設備を間近に参加者のテンションも上がります!

原料や設備を実際に見て、触れながらビールがつくられる工程を1つ1つ丁寧に説明してもらえる機会はなかなかありません。主原料である麦芽では、実際に触れるだけではなく、ピルスナーやヴァイツェンといったビールにはどんな麦芽を使うのか、一回の仕込みでどのくらいの麦芽やホップ、水を使うのかという話がありました。具体的な内容を伝えることで、よりビールを身近に感じているようでした。

ちなみに「ビアへるん」では一回の仕込みに使う水は1.5KL。醸造をはじめた頃は、水道水を水質調整してつくっていましたが、現在は近隣から湧き出る水を使っており、仕込みをする度に汲んできています。

麦芽について説明する矢野亜希子氏。
ビールのスタイルで配合を変える話をきいてよりビールが身近に感じられるようになったのではないか。

工場見学の楽しみといえば、やっぱりビールの試飲。ここでは「ビアへるん」の特徴を説明。現在のスタイルへ至る経緯に、試飲しながらも真剣な眼差しで聞いている姿がありました。

「ビアへるん」の特徴といえば、濃い味わい。これは、大手メーカーと同じビールをつくっても面白くないこと。郷土料理に合うようにしたため。ヴァイツェンは、「日本一濃い」とうたっている。

ツアーの後は、みんなで宴。秘蔵ビールの提供にみなさん大喜びです。この日は昨年末に発売された「おろち 隠岐誉バージョン 」「ゼウスビター 2017バージョン」が登場。「おろち」は発売からさらに7カ月熟成させた他では飲めないビールです。さらに前日発売されたばかりの島根県産麦芽と隠岐の島で栽培された藻塩米を使った「しまねっこラガー(ビアスタイルはライスラガー)」も振る舞われました。

宴の様子。初対面同士でもすぐに仲良くなれるところがビールの良いところ。話が進むとビールも進み、圃場と工場内の2ヶ所で提供された計5種類のビールの樽がほとんど空に。これには矢野社長も驚いていた。

一緒に参加した神山氏に後日感想を聞くと、「ホップの生育を目にし、実際に収穫して香りを楽しみ、ビールに入れて苦味を感じる。ホップを五感で楽しむことができるイベントでした。またスタッフさんとの距離感が近く、参加者がホップやビールについて気軽に質問されている姿が印象的でした」と、なかなか体験することができない機会は、有意義な時間となったようです。

ブルワリーにとっても自分たちが行っていることを飲み手に知ってもらえることは、ブランドの知名度を高めることにもなります。つくり手の考えを理解して楽しめるところが「クラフトビール」の魅力です。

収穫されたホップは、限定醸造の「ゼウスビター」として10月に発売予定です。今年は、「ゼウス」のみのシングルホップでの醸造が計画されていて、どんなビールになるのか楽しみです。

「ビアへるん」のホップ栽培は、試行錯誤を繰り返して続いていきます。その挑戦をこれからも見守っていきたいと思います。

◆島根ビール株式会社「松江地ビールビアへるん」 Data

住所:〒690-0876 島根県松江市黒田町509-1(松江堀川・地ビール館内)

TEL:0852-55-8355

FAX:0852-27-7750

Homepage:http://www.shimane-beer.co.jp/company.html

Facebook:https://www.facebook.com/beerhearn/

ゼウスゼウスビター島根ビール株式会社松江地ビールビアへるん矢野学氏

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

(一社)日本ビアジャーナリスト協会 発信メディア一覧

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この記事を書いたひと

こぐねえ(木暮 亮)

ビールコンシェルジュ

『日本にも美味しいビールがたくさんある!』をモットーに応援活動を行っている。実際に現地へ足を運び、ビールの味だけではなく、ブルワーのビールへの想いを聴き、伝えている。飲んだ日本のビールは4000種類以上(もう数え切れません)。また、ビールイベントにてブルワリーのサポート活動にも積極的に参加し、ジャーナリストの立場以外からもビール業界を応援している。

当HPにて、「ブルワリーレポート」「うちの逸品いかがですか?」「Beerに惹かれたものたち」「ビール誕生秘話」「飲める!買える!酒屋さんを巡って」などを連載中。

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