ビール片手に旅へ出よう:5[Derailleur Brew Works]-大阪府-
旅先で訪れたブルワリーでご当地グルメとビールを楽しむ。ひとたび地元の皆さんと乾杯すれば、素敵な輪が広がり忘れられない思い出となる。本連載では、旅行で一度は訪れたい魅力的なブルワリーの情報を発信してまいります。今回は大阪府大阪市に誕生した「Derailleur Brew Works(ディレイラ ブリュー ワークス)」についてご紹介します。
・ビールを通じて西成の文化を発信
Derailleur Brew Works は2017年11月に大阪市西成区に誕生し、2018年3月に醸造免許を取得しました。同ブルワリーは、これまで独自のコミュニティを築いてきた西成区の1990年代に焦点を当て、当時現地で起こっていた暴動を意味する「ライオット」を掲げた「西成ライオットエール」を通じ、地域の文化をビールファンに向けて発信しています。地元の人達との交流がきっかけで立ち上がった醸造所建設の構想。計画当初は店内に醸造設備を有する、ブルーパブでの開業を目指していましたが、模索の結果、専用工場と直営店を運営するという現在の形になりました。西成の街並みと麦を描いたロゴマークに象徴されるように、地域に根差したビール造りを進めるため、設備を含め地元・西成と関わりの深い活動をしています。
・独創的で魅力溢れるビール
Derailleur Brew Worksではこれ(2018年11月1日現在)までに8種類のオリジナルビールを醸造しています。
『西成ライオットエール』 アメリカンペールエール
『けものみちIN THE WOODS』 ブラウンストロングエール
『我はカモメ恋に鳴く』 ペールエール
『DELTA PARK FIGHT CLUB』 ベルジャンIPA
『梅海』 梅のゴーゼ
『新世界ニューロマンサー』 ミルクシェイクIPA
『闖入者たちのピアノレッスン』 グリゼット
『ナイトライダー・ルート26』 セッションIPA
同ブルワリーでは「道を外す者」を意味するディレイラをコンセプトとして、固定観念に囚われない自由な発想を信念に醸造に取り組んでいます。大阪発祥のミックスジュースをイメージしたIPA(新世界ニューロマンサー)や梅干しの塩分のみで作るゴーゼ(梅海)など、遊び心溢れるビールを提供しています。全8種類の中には食店とコラボレーションしたものも多く、特定のフードとのペアリングを前提としたレシピを構築し、それをしっかりと再現した味わいからは高い技術力が窺えます。1回の仕込み量が約500リットルの小規模醸造だからこそ、きめ細かいオーダーにも対応できるという強みを活かして、これからもさまざまなコラボビールを手掛けていきたいとのこと。仕込んだビールは、共同購入であれば100リットル単位の少量から対応可能です。この取り組みを通じて、クラフトビールが益々身近な存在になり、飲食店に限らない多彩なジャンルとの融合を経て、新たなカルチャーを生み出すきっかけ作りになると考えます。醸造設備としても、将来的には既存のボトルだけでなく、缶での流通も視野に、夢の実現に向かって益々の発展が期待されます。
工場で造られたオリジナルビールは、同じ西成区にある直営店で提供されています。朝からお酒を楽しむ街に倣って、営業時間は8:00~18:00まで。木材を基調とした明るさと開放感溢れる店内は、カフェテリアに立ち寄るような気軽さから、地元の方や観光客で賑わいをみせます。大阪を訪れた際には、遊び心満載のDerailleur Brew Worksのビールを楽しんでみてはいかがでしょうか。
・カルチャーとしてのクラフトビール
Derailleur Brew Works代表の山﨑昌宣さんが目指しているのは、「ビールを媒体として、面白くてカッコいいことをする集団」です。文化的なアプローチとしては、文章やイラストを活用した新しい表現を模索。その一例として挙げられるのが、同ブルワリーのビールそれぞれに紡がれたストーリーです。今回は、ビアカクテルのベースにもなるような第3弾ビール『我はカモメ恋に鳴く』を題材に、混じり気がないからこそ染まりやすい、純粋な少女の気持ちを綴った恋の物語を取り上げ、その魅力に迫っていきます。
わたしは、生まれつき心臓が弱いらしい。ほんとうかどうかはわからない。
パパは、わたしと同じ心臓の病気で、わたしが生まれてすぐに死んだんだって。
おじいちゃんが、わたしを海に連れてきては、ビールを飲みながらいつもその話をする。
もう飽きちゃうくらいに、その話を聞かされて。
‐中略‐
おじいちゃんは海に来たら鼻歌混じりに、餌をあげながらかもめに話しかけてた。
かもめは、あたりまえだけどかもめなんだよ、きらびやかな他の鳥になんかなれないし、ならないんだよ。ひとりで飛んでいけばいいんだ。
誰かの望みにあわせて、素直な素振りなんかするより、
ひとりで空を飛んでいけばいいんだよな。
鼻歌交じりにビールを飲むときは、おじいちゃんは、ビールにレモンを絞って、砂糖をひとつまみ入れていた。わたしに買ってくれたはずのレモネードをそのまま入れるときもあった。
フランスで仕事をしているときに教えてもらった飲み方なんだ、っていつも言っていたな。
おじいちゃんから餌をもらい終わったら、おじいちゃんの独り言に飽きたのか、
かもめがキラキラと照り返す海面を、ただ、ひとりで飛んでいったのをいつも思い出す。
わたしもそうやって飛んでいけばよかったのかな。
かもめは、かもめか。わたしはそんなに強くはなれないのかな。これからおとなになったらなれるのかな。
うみねこだったらなれるのかな。大きな声でも鳴けないもんな。わたし。
あの人が離れるってわかってても、泣けないもんな。
おとなになったら、泣けるのかな。
おじいちゃんが美味しそうに飲んでた、ビールの味もわかるのかな。
おとなになったら、わかるのかな。
おとなになったら
Derailleur Brew Works Face Bookより引用
皆さんはこの物語からどんな味わいを想像されますか? 少女の感情のようにほろ苦く、海のようにほのかに塩味が漂い、レモネードに合うスッキリとした――文章を読みながらさまざまな味わいを思い浮かべることができます。ビアスタイルの説明に物語を添えるのは、山﨑さんの「ビールに飲み物として以外の付加価値をつけることを大切にしたい」という想いから。味わいはもちろん、文章やイラストを通じてひとつの作品としても楽しんでもらいたい。原材料のみの説明からはわからない、作り手が作品に込めた想いや考えが伝わってくるようです。実際に飲んでみると、自分が思い描いたイメージとは違う雰囲気に驚きます。なによりレモンを絞って口に含んだ瞬間に、海辺の風景が目に浮かぶようで、単純に味わう以外の新しい楽しみ方がとても刺激的でした。
最近では、音楽などのカルチャーとコラボレーションするイベントは数多く企画され、注目度は年々高まっているように感じます。その中で、醸造したビールを作品として取り上げるというチャレンジが、新しい表現の形としてどのような発展を遂げていくのか、今後も注目していきたいと思います。面白くてカッコいいことをするには、主役となるビールのクオリティも伴ってこそ、と話す山﨑さん。これからも新たなカルチャーを発信されていくとのことで、いい意味で「いちびる(=ふざける)」同ブルワリーの今後の活動に期待が高まります。
・おわりに
ビールの新しい楽しみ方を提案するDerailleur Brew Works。次回はどんな方法で飲み手を楽しませてくれるのか、新作が発表される度に期待が膨らみます。皆さんも物語が紡ぐビールの味に想像を膨らませながら、答え合わせをしに西成の街を訪れてみてはいかがでしょうか。
Derailleur Brew Works
FB https://www.facebook.com/Derailleurbrewworks/Ravitaillement(直営店)
FB https://m.facebook.com/ravitaillement
住所 大阪府大阪市西成区花園北2-12-28
営業時間(土,日曜日 定休)
月~金曜日:8:00~18:00
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。