[ビアバー,ブルワー]2018.12.7

ベトナム ダナン発。クラフトビールを通じた地域初のインパクトブルワリー

先日、ベトナム第3の都市、ダナンに行く機会があった。ダナンは長い海岸線に面しており、アジアの高級リゾート地として急速に発展している一方で、周辺には旧王朝のあったフエや、かつて日本が鎖国するまで交易をしていた街、ホイアンがある。そんなダナンに美味しいクラフトビールがあることを知り訪ねてきた。7 Bridges Brewingのタップルームは、ダナンの街の東部を流れるハン川沿いに位置し、そのルーフトップバーからは、ダナンの街の絶景が望める。アメリカ人で弁護士でもあるCEOのスタンレー・ブーツ氏に話を伺ってきた。

7 bridges brewing tap roomのルーフトップバー

タップルームのルーフトップ (Photo by 7 bridges brewing)

自分のブルワリーをつくることが夢だった

筆者:7 Bridges Brewingを始めたきっかけを教えてください。

スタンレー氏:私はアメリカ生まれですが、成人してからの大部分をアジアで過ごしてきました。21歳の時に合気道・柔道を学ぶため日本に住み、練習後の道場仲間とのビールはいつも楽しみでした。その後、米国オレゴンの大学院に進学し、現地のクラフトビールにどっぷりハマってしまい、自然と自分のブルワリーをつくるという夢をもつようになりました。

2011年に弁護士として大きなプロジェクトに関わることとなり、ベトナムに移住しました。その当時、まだ無かったクラフトビール、マイクロブルワリーがベトナムにも必要だと強く思いましたが、専門の知人たちと調査した結果、市場が未成熟であると判断し断念しました。しかし、2015年に、ホーチミンのマイクロブルワリー、Pasteur社がベトナムで初めてのIPAをローンチした時、私はこの国でクラフトビールを始める絶好のタイミングだと思いました。

実は、ベトナムのビール市場は、一人あたりのビール消費を基準でみると世界で10番目です。これは日本の数字よりも高く、特にベトナムの若い人たちはビールを好んで飲みます。更に、近年の経済成長に伴って国民の収入レベルも年々増加傾向にあり、消費者が裕福になればなるほど新しい体験を求めます。私たちは、クラフトビールがその一つになるのではないかと考えました。2016年の終わり頃、私は小規模な醸造設備を購入し、ドイツ人の醸造家と実験的なレシピ作りを始めました。2017年4月にこの会社を立ち上げ、最初のビールを大好きな街ダナンでローンチしました。

7 Bridges Brewing CEOのスタンレーさん

CEOのスタンレーさん  (Photo by 7 bridges brewing)

良いビジネスには、「なぜそのビジネスをするのか?」という哲学的な答えが必ずある

筆者:7 Bridges Brewingの特徴、取り組みを教えてください。

スタンレー氏:もし良いビジネスをするなら、そのビジネスの中心には、「なぜそのビジネスをするのか?」という哲学的な答えが必ずあると思います。「世界でベストなビールを作りたい」、「世界で一番大きなビール会社になりたい」というのも素晴らしいゴールですが、私達が目指すのは、アジアで初めてインパクトを与えるビール会社になりたいと考えています。具体的には、この地域が抱える環境問題や社会問題へ取り組むことを活動の中心としています。では、その活動をどのように実践していくのか?それがビール作りです。私たちは、良いビール、面白いクラフトビールを作りたい。そして、更に良いビールのために常に改善を続けています。

筆者:環境問題、社会問題への取り組みとは具体的にどのようなものでしょうか?

スタンレー氏:いま世界中で問題となっている海洋プラスチック汚染ですが、ベトナムは世界で4番目にプラスチックごみを排出しています。私たちは、この問題への取り組むため、ビールを通じて様々な国際的企業や組織とイベントを企画しています。また、社会問題への取り組みとして、ベトナム戦争で精神的な病に苦しむ人々や、地域の孤児への支援等も行っています。

7 bridges brewingのクラフトビール

7 bridges brewingのクラフトビール (Photo by 7 bridges brewing)

ヨーロッパとアメリカのベストプラクティス × ベトナム産の素材

筆者:先程からいくつかビールを飲んでいますが、何故、ベトナムでこんなに美味しいクラフトビールを作ることができるのですか?

スタンレー氏:理由の一つは、現在の国際的にベストだと思われるプラクティスを用いていることだと思います。ヨーロッパとアメリカのスタイルを組み合わせた私たちのビール哲学をアメリカ人のブルワーが深く理解してビール作りを行っています。また、私たちは、現地の素材で醸造所を設計したため、決してアメリカや日本のように素晴らしい設備を持っているわけではありませんが、清潔な環境作りには徹底的に取り組んでいます。そうした取り組みが、私たちのビールにつながっているのではないかと思います。

例えば、あなたが今飲んでいるVietnam Red Aleは、その典型的な例です。50%がヨーロッパ・英国スタイルのAmberで、残りの50%が、アメリカのRed IPAのハイブリッドビールです。実はこのビール、まだ一回目のバッチです。そして実験的にドライホップを少なめにしています。正直、期待していた味には近づかなかったのですが、いろいろ改善点も見つかりました。次回のバッチでは、よりIPA色が強い華やかな香りのビールになる予定です。(※筆者的には、この初回バッチのred aleは香りこそ控えめではあるが、ソリッドなテイストで美味しかったです)。

筆者:ヨーロッパやアメリカのビール作りのプラクティスを取り入れているということですが、ベトナム産の素材を取り入れたりしていますか?

スタンレー氏:はい、地域の素材を私たちのビールに取り入れています。地元産のトロピカルフルーツであるランブータンや、グレープフルーツやオレンジなどの柑橘類などを使っています。定番ビールの一つの、Sunset Weizenにはオレンジを取り入れています。

熱帯気候の暑さを克服したクラフトビール・野生動物の保護活動・国内外のブルワリーとのコラボレーション

筆者:今後の展開について教えていただけますか?

スタンレー氏:大きく3つのことに取り組んでいます。
1つ目は、醸造設備の改良と醸造ボリュームを増やすことです。これまでクラフトビールを作る上での問題は、ベトナムの暑さでした。この熱帯気候の下で未だ完璧なクラフトビールを作った会社はないと思います。我々は、創業当初からこの問題に取り組んでましたが、ようやく解決策が見つかりました。近いうちにリリースする新しいビールに反映される予定です。2つ目は、先述の環境問題への取り組みですが、現在ベトナムで危機に瀕している動物の保護に力をいれようとしています。自然保護団体と協力し、売り上げの一部で、森で動物を保護するレンジャーの雇用に役立てたいと考えています。その他にも、様々な取り組みを予定しています。3つ目は、他の醸造会社とのコラボレーションです。現在、ベトナム、日本、韓国の醸造会社とコラボレーションの話を進めています。


今回は、スタンレー氏には貴重な話を伺うことができた。環境問題や社会問題に真剣に取り組む姿勢は非常に印象的だった。更に、そこには美味しいクラフトビールがある。これからベトナム、ダナンを訪れるビール好きには、是非オススメしたい。

<店舗情報>

7 bridges brewing taproom

7 bridges brewing taproom

7 Bridges Brewing タップルーム
住所:493 Đường Trần Hưng Đạo, An Hải Trung, Sơn Trà, Đà Nẵng 550000 ベトナム
電話:+84 166 290 0123
メール:info@7bridges.vn
営業時間:16:00〜23:30
http://7bridges.vn

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※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

(一社)日本ビアジャーナリスト協会 発信メディア一覧

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この記事を書いたひと

モリイクオ (ikuo mori)

ビアジャーナリスト / Beer journalist

大阪出身。東京在住。ビアジャーナリスト&ビアテイスター。
学生時代に滞在した北米やヨーロッパで初めてピルスナー以外のビールと出会う。まだ見ぬビールの世界があると思うとワクワクする。主に旅先で出会ったビール、ビールにまつわる話を紹介している。

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