ブルワーの感性により評価される審査会 【JAPAN BREWERS CUP 2019審査会レポート】
今年も多くのビールファンが来場した「JAPAN BREWERS CUP 2019(以下、JBC 2019)」。開催2日目である1月26日(土)には1日の来場者数が約4,500人と過去最高を記録した。なんといってもこのイベントの見どころは、ファンが楽しむフェスのほかにブルワーたちのスキル向上の場になっている審査会があることだ。JBC 2019では、この他にゲストを招いてのカンファレンスを行っている。今回は、フェス前日に実施された審査会の様子をレポートする。
目次
日本全国から集まったブルワーたちが自分の感性を元に評価
今年は全国から約90名のブルワーが審査会に参加。今回の出品ビールは、小麦系ビール部門55(47)、ピルスナー部門47(35)、ペールエール・ゴールデンエール部門63、IPA部門85(76)、濃色系ビール部門63(64)の計313品がエントリーした。審査会の参加条件は、以下通り。
※( )内の数字は昨年の出品数
1.ブルワーとしての職歴が1年以上の現役ブルワー。
2.ブルワーとしての職歴が合計3年以上あり、現役を退いてから3年以内の元ブルワー(以前は醸造職をしていて現在は管理職をされている方などは3年以上経っていても構わない)。
3.国籍は問わない。
4.ブルワリー所属でも、醸造職未経験者は審査員資格がない。
5.1つのブルワリーにおいて4人まで審査員登録が可能。ただし、同じテーブルや決勝ラウンドでは1つのブルワリーつき1人しか参加することができない。
JBC実行委員長の鈴木真也氏によれば「審査会では審査員とエントリーしたブルワリーに結果をすべて公開しています。ブルワーは、審査表を見て『自分のビールがどんな評価をされているのか』を確認することで至らない点が客観的にわかります。お客さんからの意見では分からない細かいところがよくわかるので、今後のビールづくりに活かすことができます」という。
審査会は、「ノーディスカッション・完全順位制」で進行。1つのテーブルに6~12個のビールがブラインドで並べられ、「アロマ」「ボディ」「フレーバー」「ドリンカビリティ」などを踏まえたうえで、「ブルワー目線で、そのビールが技術的に優れていて、かつJAPAN BREWERS CUPとして表彰するに値するか」という基準で審査を担当するビールすべてに順位を付けていく。出品ブルワリーがプライドを持って各部門にエントリーしてきた意思を尊重し、審査を進めていくことも特徴だ。
なぜ、このようなシステムを取り入れているかは、「ブルワーたちが認めたビールが競演するビールフェスティバル」を読んでほしい。
1テーブルに審査員は8名。その順位の合計点(例:8人の審査員が全て1位を付けた場合8点、全て6位を付けた場合48点となる)が低いビールが次のラウンドへ進出。3回戦制(IPA部門は4回戦制)で行い、決勝は6~8つのビールを36名で審査。その合計点数にて争われ、決勝3位以内で同点となった場合には同時受賞となるシステムだ。
どのカテゴリーを審査するのも自由
JBC審査会では、ブルワーに対して審査カテゴリーが決められているのではなく、ブルワーが審査したいカテゴリーを決めることができる。例えば、ウィート系が得意であれば小麦系ビール部門に特化して審査をすることも可能。取材したブルワーのなかには「ピルスナーを中心に参加している」という方もいた。
審査会の間、休憩しているブルワーにJBCでジャッジをする上で大事にしていることを聞いてみた。
「美味しいビールの評価が同等の場合は、スタイルに合っているか。提出したビアスタイルに合っているものを上位に選んでいます」
(T.Y.HARBOR BREWERY 阿部氏)
「バランスのとれたビールを選んでいます。同じような評価になったときは、副原料を使っていないつくりがシンプルなビールを上位に選択しています」
(SPRING VALLEY BREWERY 古川氏)
「自分の中でアロマ、味わい、バランス、オフフレーバー、苦味と評価基準を定めて審査に臨んでいます」
(南横浜ビール研究所 新井氏)
「カテゴリーのなかに色々なビアスタイルが入っているので、オフフレーバーなど自分のなかで判断基準を定めて順位をつけています。接戦になった場合は、自分が世の中に出してほしいビールを選んでいます」
(CARVAAN BREWERY 伊藤氏)
ブルワーのみなさんがオフフレーバーをはじめとする品質に対する基本的な項目に加えて、独自の判断基準を設けていることで独自性を生み出していると感じた。
審査結果は立会人のもと集計し、ブルワーに即日公開
各テーブルの審査が終了すると、スタッフがジャッジペーパーを回収。集計スタッフが立会人のもと(※1)点数を記録。確認ミスがないよう立会人とともに複数回チェックをしている。
※1 JBCの場合は、日本ビアジャーナリスト協会藤原ヒロユキ代表の他、数名のビアジャーナリストが第3者的立場で立ち合いを行っている。
集計された結果は、ファイナリストまで即日中に参加したブルワーに公開される(ただし、口外は厳禁)。自分が審査したビールに対して、他のブルワーがどのように評価したのか。自分のつくったビールがどんな評価だったのかを知ることができる。
審査会後は懇親会も開催され、ファイナリストに残ったビールを試飲することができ、ブルワーたちが意見交換している光景がみられた。
ボランティアスタッフのチームワークがあっての審査会
審査会の主役はブルワーだ。しかし、ビールを準備したり運んだり、会をスムーズに進行していくためには裏方であるボランティアスタッフの地道な支えがある。
会場の裏側では、スケジュールに沿ってビールを準備、運搬、サーバーの洗浄、樽の付け替えなどに分かれて担当。サービングはビールの状態に細心の注意を払うため、ビアバーなどに勤務経験のあるスタッフが担当している。
各担当者が慌ただしい状況のなかでも連携し合い、的確に行動された結果、ほぼタイムスケジュール通りに審査会を終了した。今年で7年目をむかえ、積み重ねられた経験があるからこそ大きなトラブルもなく進めることができるのだろう。
現在、審査会は一般公開されていないので、様子を感じてみたいファンがいるなら来年はボランティアスタッフとして協力してみるといい。
ファイナリストの順位はフェス初日1月25日(金)に発表され、受賞ブルワリーのブースには、賞状とトロフィーが飾られていた。
★審査会の結果は、「【緊急速報】JAPAN BREWERS CUP 2019 審査会結果発表!」で。
★受賞ブルワリーの声は、「JAPAN BREWERS CUP 2019 受賞者たちの声を聞いてきた」で。
今回、フェスに参加していたアメリカ サンディエゴにある「BELCHING BEAVER BREWERY」のブルワーは、「日本のクラフトビールは、まだ歴史が浅いにもかかわらずハイクオリティのビールが揃っていて驚いている」と話してくれた。ブルワーたちが様々なビールに触れ、自分の感性を磨くことができることは品質の向上にもつながっていく。
年を重ねるごとに審査会に参加するブルワーやビールの数が増えており、注目度も高くなっている。審査の合間にはブルワー同士が交流を深める場面もみられ、新たなアイデアが生まれているかもしれない。「自分もやってみたい」というブルワーは、次回参加してみてほしい。
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。