ブラウン&ロブスト・ポーター
今年の夏は実に暑かった。そして残暑も厳しかった。10月の中ばを過ぎてやっと「秋だなぁ」と感じる季節になってきた。
多くの日本人にとって、「ビールは夏の酒」という認識があるようだ。もちろん、夏に冷えたライト・ラガーは爽快だ。
しかし、ビールの奥深さを知るとむしろ「ビールは秋冬の酒」でもあることがしみじみと身に染みてくることだろう。それは、ビール大国と知られるドイツやチェコ、ベルギー、イギリスやアイルランドといった国々が寒いエリアであることからも証明される。
暑くないほうが、ビール自体の味わいをじっくりと楽しめる季節と言っていいのだ。
そんな季節にまずお薦めがポーターである。上面発酵の濃色系ビールで、スタウト(ギネスなど)の原型となったビア・スタイルだ。
ポーターは、1722年に生まれた。ロンドンのパブ・オーナー、ラルフ・ハーウッド氏は当時流行していた「ペールエール、若いブラウンエール、熟成したブラウンエール」をブレンドした「スリースレッド」というミックス・ビールの味わいを再現し「エンタイア」という名で販売しだした。(「いちいち混ぜるのが面倒だ」と考えたのだろうか?)
そのビールは、パブの近くにあった青果市場の荷運び人(ポーター)達が好んで飲んだため「エンタイア」という正式名よりも「ポーター」の名で世間に広がっていった。
もっとも、この”名前の逸話”には異論もあり、世界的ビール評論家の故マイケル・ジャクソン氏は「ビールの樽を運ぶ運搬人が扉の前で『ポーター』と叫んで配達していたから」という説を唱えている。
ポーターは発祥から考えると色合いはダークブラウンだったと考えられる。しかし、現在、ポーターといえばそのほとんどが黒いビールだ。
これは、その後アーサー・ギネス氏がポーターに焦げた大麦を加えた「スタウト(強い)・ポーター」を販売しはじめ、人気を得たために本家のポーターも黒色化していったと考えられる。現在のビア・スタイルガイドラインでは、黒色系を「ロブスト・ポーター」、茶色系を「ブラウン・ポーター」と呼び分けている。
色はブラウン・ポーターが明るい茶色から濃い茶色、ロブスト・ポーターが中程度の茶色から黒。ともに、光にかざすとルビーレッドの色相が見て取れる。
ブラウン・ポーターもロブスト・ポーターもロースト麦芽の香ばしいアロマとフレーバーが心地よく、いがらっぽいような焦げっぽさはないことが重要である。
口に含むとブラウン・ポーターはカラメル、ナッツ、トフィーキャンディーのような第一印象とそれを追うコーヒー、リコリス、ビスケットやトースト、ビターチョコレートにも似たフレーバーが楽しめ、ロブスト・ポーターはチョコレートやコーヒーのような味わいがさらに強く感じられる。苦味に関してはブラウン・ポーターがミディアム・ローからミディアム、ロブスト・ポーターがミディアムからミディアム・フル。
ボディはブラウン・ポーターがミディアム・ライトからミディアム、ロブスト・ポーターがミディアムからハイレベル。
なお、アメリカン・スタイルの場合はホップのキャラクターがアロマやフレーバー、苦味に強く表れているものも多い。
日本で飲むことが出来る海外のポーターは、
フラーズ・ロンドンポーター(英)、アンカー・ポーター(米)など。
また、日本のクラフトビールでもスワンレイク・ポーター、ヤッホーブルーイング・東京ブラックなど優れた銘柄がある。
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