トラピストビール
トラピストビールとは、トラピスト修道会(厳律シトー修道会)修道院が所有する醸造所で醸造されるビールのこと。
修道院制度は中世、イタリアのモンテ・カッシーノ修道院を設立した、聖ベネディクトによって始まり、「聖べネディクトの戒律」に従って自給自足の生活を行っていました。
もともとローマなど南部ヨーロッパの修道院では主にワインを醸造して飲んでいましたが、修道院がぶどうの採れない北部ヨーロッパの冷涼な地域にまで広まると、穀物を利用したエールビールを醸造するようになりました。
これが修道院でビールが造られるようになった始まりだとされており、キリスト教の布教活動とともに広まったと思われます。
修道院は当時旅館としての役割を持っており、宿泊客にパンなどの食事のほか、ワインやビールなどの飲み物を提供していました。
ペストが流行するなど、水が安全な飲み物でなかった時代、ビールは醸造の課程で必ず煮沸されるので、水よりも安全な飲み物でした。
また修道院は、医学、薬品、農業などあらゆる分野の学問の殿堂でもありました。
ビールに関する発酵や醸造の研究についても、修道僧によって大きな貢献がもたらされたのです。
やがてベネディクト会から厳格な教義を持つシトー派修道会が派生し、そのなかからさらに厳格なトラピスト修道会(厳律シトー修道会)がフランス・ノルマンディー地方に生まれました。
その後ナポレオンの時代、多くの修道院が破壊、略奪を受けたため、トラピスト修道士は北の土地、オランダやベルギーに向い、そこでビールを醸造するようになったのです。
現在トラピストビールはベルギーに6ヶ所、オランダに1ヶ所の、世界で7ヶ所のみ存在しており、その名称は法的にも保護されています。
1997年には国際トラピスト会修道士協会(International Trappist Association)が設立され、基準を満たしたものについてのみロゴマークの使用を許可しています。
その基準とは下記の4つです。
・トラピスト会修道院の敷地内の醸造所によって生産され、トラピスト会修道士によってあるいは彼らのコントロールの下でビールを醸造しなければならない。
・醸造所は修道院に依存していなければならない。そして醸造所の方針などは修道院の計画によるものであること。
・ビールの醸造によって収益を生んではならない。どんな利益も修道士の生活のため、そして修道院の維持のために割り当てられる。残った部分は慈善団体や、困った人々に与えられる。
・トラピスト会修道士醸造所は高品質のビールを生産する。
7つのトラピストビールはいずれも個性的で、ベルギービール(オランダもありますが)の最高峰とも言えるすばらしいビールを醸造しています。
昨年末にはこの7ヶ所をすべて巡る機会に恵まれましたので、それぞれの醸造所や銘柄についてはまたの機会に詳しくお伝えしたいと思います。
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