収穫も課題も。FRESH HOP FEST.について考えてみる
9月から始まった「FRESH HOP FEST.(以下、FHF)」も11月末をもって閉幕した。2015年から始まったこのイベント、回数を重ねるごとに参加ブルワリーも増え、今回は最多の90となった。筆者もFHFのWebページで参加ブルワリーの紹介を担当し、協力させてもらった。今回は今年のFHFを振り返ってみたい。
目次
■ホップ農家の思いを醸造家が受け継いだフレッシュホップビールが増えた
これまでのFHFと比べて1番変わったと感じたのが、生産者からつくり手への流れが強くなったこと。昨年までもなかったわけではないが、限られた時期にしか手に入れることができないため、「フレッシュホップを使ってビールをつくってみたい」という興味の部分が強い傾向にあった。しかし、ブルワリー関係者にアンケートをとると、今年は日本産ホップの普及に取り組んでいる農家の思いを活かしたビールを意識する回答が目立った。
FHFは、その年に国内で収穫されたフレッシュホップを使ったビールを楽しむ祭典であるが、生産者の高齢化や継承者不足などにより衰退している日本産ホップの普及とオリジナルの品種開発が根幹にある。
こうした思いに共感するブルワリーが増えたことで、フレッシュホップビールが「旬のビール」という意味だけではなく、飲み手に生産者のことや国内のホップ事情を知ってもらう機会になったことは意義あることだと思う。生産者から消費者までを1つの流れとして盛り上げたい日本産ホップ推進委員会の取り組みが1歩前進した形となったと感じた。
■昨年の2倍のブルワリーが参加。ビールもバラエティに富み、改めて面白さを体感
次にあげるのが参加ブルワリーの増加だ。冒頭にも書いたが、90の醸造所が参加をした。昨年が55なので2倍近くとなった。それだけフレッシュホップに関心をもつブルワリーがあるということだろう。私自身もいくつかのブルワリーに興味があるか聞いてみたところ「参加してみたい」と名乗りをあげてくれた。フレッシュホップを飲み手に広めるには醸造をしてくれる人たちがいなければ伝わっていかない。
フレッシュホップビールについても、様々なビアスタイルが登場した。昨年まではペールエールやIPAが多かったが、今年はセゾンやピルスナー、レッドエールさらには「Far Yeast Brewing」が、昨年の「Fresh Hop Saison」の原酒を白ワイン樽にて1年熟成させ、ドライホップとしてカスケードのフレッシュホップを使用して醸造した「Fresh Hop Wild Saison」と個性豊かなラインナップが揃った。飲み手からすると1つの種類のビールよりも多種多様なビールが揃っている方が飲んでいて楽しい。東京や大阪では参加ブルワリーのビール集めたFHFのイベントも開催され、来場したブルワーも他社のビールを飲んで様々な感想を聞かせてくれた。いろいろなフレッシュホップビールが世に出たことは、フレッシュホップのジャンルを発展させていくきっかけになったはずだ。今年の経験が来年以降、どのように反映されるのか。楽しみである。
■フレッシュホップらしさって何だ?
FHFは、確実に進展をしてきている。だが、ブルワリーやホップ栽培の現場やイベントを取材して、課題もたくさんあると感じた。
最も強く思ったのが「フレッシュホップらしさって何だろう」ということだ。京都与謝野町でホップ栽培を行っている当協会藤原ヒロユキ代表に聞いてみると、「新鮮なホップの青々しい草っぽい香りが重要だと感じていて、『みずみずしさ』『青さ』というところが表現できるかと考えています」と話す。さらに日本では、フレッシュホップの定義が曖昧のため、整理をしていく必要があると加える。
FHFに参加したホップ生産者も昨年の26から31に増加。栽培する産地も増え、色々な土地で育てられたホップを使って醸造が行われた。バラエティに富んだフレッシュホップビールが登場し、美味しいビールにもたくさん出会えた。しかし、「ペレットホップでつくられるビールとの明確な違い」が分りにくかったのも正直な感想だ。
これには「ホップの品質」と「フレッシュホップを使う経験値」の2つの理由があると考えている。
「ホップの品質」についてだが、FHFに参加をしている生産者は、北海道や岩手県遠野市、秋田県横手市、山梨県北杜市と昔からホップ栽培を続けてきた農家ばかりではなく、ここ数年で栽培を始めた方たちも多い。なかには市民団体のメンバーが育てたホップもある。ホップの収穫量は確保できるようになっても毬花1つに含まれるルプリンの量や成分が低く、フレッシュホップらしさが伝わる品質に至っていない可能性があり、今後、農家は品質向上のために成分分析をしていく必要があるだろう。
そのほかには日本オリジナルの品種開発も不可欠だ。「ソラチエース」のように日本で開発されたホップが海外で評価されるようになれば、マーケットも広がっていく。品質の向上とともに取り組んでほしい課題だ。
「フレッシュホップを使う経験値」については、今回、フレッシュホップを初めて使うブルワリーも多かった。フレッシュホップ自体が、日本でまだ馴染みが薄いうえに、年に1回、良くても数回しか仕込む機会がない。必然的にフレッシュホップを使い、経験値を積みにくい状況なのだ。初めて使うブルワリーからしてみれば、海外の文献や使用経験のあるブルワーからの情報を頼りに仕込むしかないため、試験的要素も強かったと思う(試行錯誤のうえ、あれだけ美味しいビールをつくれるのだから本当に尊敬する)。話を聞いたブルワーからも「難しい」という反応が多かった。
「まだ醸造家たちのなかでフレッシュホップの可能性を、どう活かしていけばいいのか悩んでいるという声も届いています。魅力を最大限に引きだすためのワークショップが必要です。『どのように出荷をすれば使いやすいのか。どの時期に収穫できるのか。どの品種をどれくらいの量、必要なのか』を醸造家と農家が話し合ってつくっていくことが重要でしょう」と、今後はホップ農家も醸造知識が、醸造家もホップ栽培を知る必要があると藤原代表は話す。
こうした課題に対して、日本産ホップ推進委員会では、ホップ農家とともに「ホップサミット」を、醸造家には「ホップセミナー」の開催と、勉強会を年に1~2回開催してレベルアップを図っている。すでに「ホップサミット」は来年2月に次回の開催が予定されている。
来年もフレッシュホップビールに取り組むブルワリーがどのくらいあるかは不明だが、業界全体で課題に取り組み、フレッシュホップビールカテゴリーの確立を目指してほしい。
■ホップを知ってもらう活動を頻繁に行う必要性を感じたイベント
もう1つフレッシュホップを広めていくために重要と考えているのが「啓蒙活動」。東京は5回目ということもあり、少しずつ認知されてきている印象があるが、初めて開催された大阪では、告知や準備期間が短かったこともあり、来場する人が少なかった。また、両会場で気になったのが、ホップの情報や知識を得られる場所(展示物)がなかったこと。ビールに興味をもつ人は増えてきているかもしれないが、原料にまで関心を示している人はまだ少ない。大阪では「ホップって何?」と聞かれることが何度もあった。何かをきっかけに来場した人にホップのことを知ってもらう機会をもっと増やしていかなければ周知されることは難しい。
情報発信はFHFのWebページやSNSが中心であるが、今後はイベント期間中の周知活動のほか、期間外のアピール活動もしていく必要がある。これは日本産ホップ推進委員会の動きに期待したい。
進歩した面もある一方、次のステップに向かう課題も見えたFHF。ホップ農家、ブルワー、飲食店とそれぞれのステージでレベルアップしていくことができれば、日本ビール業界の新たなアピールポイントになる。
数年では難しいが、いつの日か「フレッシュホップ」というジャンルが日本に根付いたとき、今年の取り組みはターニングポイントだったといえる日がくるはずだ。関係者は、今年の反省を踏まえて動き出している。
引き続き彼らの取り組みを追っていく。
◆FRESH HOP FEST. Data
主催:日本産ホップ推進委員会
お問い合せ:https://freshhop.jp/inquiry
Homepage:https://freshhop.jp/
Facebook:https://www.facebook.com/freshhopfest
Twitter:https://twitter.com/fresh_hop_fest
Instagram:https://www.instagram.com/fresh_hop_fest/
※2019年12月9日22:00 参加ブルワリー数が115ではなく90の誤りがあり、文章を修正いたしました。申し訳ございませんでした。
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。