横手産ホップで、より強く「秋田」を発信するブルワリーへ【ブルワリーレポート 秋田あくらビール編】
現在、5つのブルワリーがある秋田県(2019年11月1日現在)。「秋田あくらビール(以下、あくら)」は、1997年11月に創業した秋田県で2番目に歴史のある醸造所だ。東北はもちろん関東のビールイベントにも積極的に出店しているので、ご存じのファンも多いだろう。今年で22周年を迎えた東北を代表する彼らを紹介していきたいと思う。
■何事も蔵が基本。その思いから名付けられた名前
「昔は、この場所で日本酒をつくっていました。日本酒事業は第二次世界大戦中の企業合同により1つにまとめられ、戦後もそこに留まったため、いまは行っていません。長い間、この場所は使われていなかったのですが、現社長が1994年の小規模醸造解禁(地ビール解禁)のときにビール事業へ参入を決め、蔵を改築して醸造所とレストランをつくりました」と、経緯を教えてくれたのは、醸造長を務める長谷川信氏。
日本酒を醸造していた蔵は、現在はなくなってしまったが(中庭の場所にあった)、ブルワリーやレストランの建物は倉庫などの蔵をリノベーションして使われており、当時の雰囲気を感じることができる。
「『あくら』の名前の由来は『蔵』からきています。『あ』は1つという意味で、ロゴは『a蔵』と表記しています。これは理念でもあるのですが、何事も蔵が基本であると。製品の良し悪しも蔵ひとつにかかっているという思いが込められています」。
日本酒からビールへ。蔵への思いはブルワリーの名前や理念として受け継がれている。
■創業当初のドイツスタイルから地域色をアピールするラインナップへ
「あくら」では、カテゴリーに捉われず、「舌にも身体にも美味しい、さまざまなクラフトビールを醸造しています」と長谷川氏。しかし、最初はへレス、ボック、デュンケルとクラフトビール創生期に多くつくられていたドイツスタイルのビールをラインナップとしていた。
これは、ドイツから醸造設備を導入したからだ。オープンファーメンター(開放型発酵設備)は、そうした理由から採用をしている。この設備は世界的にも取り入れているところは少ない。
「この設備は、発酵タンクが解放されているので、発酵の状況が目に見えてわかりやすいこと、ドライホッピングのしやすさや副原料を吊るして仕込みやすいメリットがあります。逆に解放されているので、酸素に触れる機会が多くなり、酸化や雑菌汚染、異物混入のリスクがあります。管理が難しい設備ですから衛生面にはとても気を使いますね」。
時代とともにレギュラービールが移り変わっていくことは珍しくない。「あくら」の場合は、どのような流れがあったのだろうか?
「現在のラインナップになっていったのは『秋田県総合食品研究所(現・秋田県総合食品研究センター)』の方と一緒にやるようになってからですね。新しいビールを発売すると反響もあって、製品が増えていきました。ただ増えていくと似たようなビールも生まれてきて、そのなかで取捨選択した結果、いまのラインナップになりました」と教えてくれた。
フラッグシップビールは、「秋田美人のビール」と「なまはげIPA(旧名キュウイIPA)」の2つ。「秋田美人のビール」は、ミュンヘナーへレスをベースとし、秋田県総合食品研究所と共同開発したホップポリフェノールをビールに残存させた商品。「特許を取得した製法を使っていて、加齢とともに増えるコラゲノーゼにより破壊されるコラーゲンを抑制してくれます」。もう1つの「なまはげIPA」は、キィウィ産(ニュージーランド)ホップを使ったビール。ニュージーランド産ワイメアとカスケード、ネルソンソーヴィンの3種類を使用。柑橘系のアロマとネルソンソーヴィンの白ワインに似たキャラクターが素晴らしい香りを放ち、ジワッと広がる苦味は飲み終わる頃にはスッと消えていくのが特徴だ。
このほかに、創業当初から続く「川反ラガー」や吟醸酵母とビール酵母を掛け合わせた「あきた吟醸ビール」、古代米を使った「古代米アンバー」の5種類を定番ビールとしている。
商品名に地域を打ち出した特徴的な名前を付けているのは、イベントに出店するとお客様から「どこから来たの?」という話から。「お客様に説明するときに地域色がわかる商品名の方がビアスタイルよりも伝わりやすく印象に残ると思ったからです」と理由を話す。
しかし、最近はクラフトビールの催事をするデパートからは「地ビール色が強いネーミング」と言われてしまうこともあり、「そういうときは悩みますね(笑)」と難しさも語る。
飲み手から好評なこと、秋田県内で最も歴史がある「田沢湖ビール」はドイツスタイルが中心であり、「県内でIPAをつくるブルワリーがなかった」こともあり、限定ビールはIPA系スタイルを多くつくっている。
■横手産ホップを使い、「秋田」を強くアピールしていく
クラフトビール業界では古参である「あくら」。長谷川氏は飲食部門の「ビアカフェあくら」に大学在学中にアルバイトとして働くようになり、大学卒業と同時に入社。厳しい時代の業界も見てきた。「残念ながら廃業してしまったブルワリーもありますが、皆さん乗り越えようとして頑張ってきました。これまで継続できたのは飲食部門に助けられた時代もありますし、地道に美味しいビールをつくり続けて積極的に東京のイベントにも参加して飲んでもらって、評価されてきたこともあると思います」と、これまでを振り返る。
地元では「クラフトビアフェスティバルin AKITA」をはじめ、年3回のビールイベントを開催。市内には「酒場 戸隠」や「BEER FLIGHT」をはじめ、クラフトビールが取り扱う飲食店もある。さらに「地元スーパーでの販売数も伸びてきています。イベントでもIPAは人気ですし、キャッチーなビールもよく飲まれています。アロマの強いビールは人気がありますね」と、少しずつであるが、秋田でも多様なビールを楽しむ文化が広まっている。
最後にこれからのことについて聞いてみると、「ボトル販売に力を入れていきたいですね。これまで限定ビールはボトル販売をせず、イベントや飲食店で販売してきました。今後は、今まで飲むことができなかった地域の人にも味わってもらい、『秋田あくらビール』のファンになっていただければと思っています。どんどんファンを増やしたいですね」と話す。
そのほかに昨年から「なまはげIPA」以外のビールは、横手産の『IBUKI』ホップを使ったレシピに変更。より地元色を出している。特に「秋田美人のビール」は、「今年の春から岩手県の『遠野麦酒 ZUMONAビール』のピルスナーと同じレシピに変更して、横手産100%と遠野産100%の生産地違いのビールを楽しんでもらえるようにしました」というから驚きだ。
同じブルワリーでホップやモルトを変えたレシピ違いのビールはあるが、異なるブルワリーが産地の違う同品種のホップ以外、同じレシピでビールをつくる試みは聞いたことがない。秋田県横手市も岩手県遠野市も東北だけではなく日本を代表するホップの産地であり、日本産ホップを知ってもらう重要な取り組みになるのではないだろうか。
地元産のホップで「秋田」を強くアピールする「秋田あくらビール」。これからの活躍も注目していきたい。
★12月1日(日)は「秋田あくらビール創業周年感謝祭」を開催!
キャッチコピーに「タンクのビールを飲み尽くせ」とあるように、4,000円で3時間秋田あくらビール飲み放題と料理(バイキング形式)が堪能できるイベント。当日は、22周年記念醸造ビールや秘蔵ビールも登場する予定だ。参加するにはチケットが必要。詳細はこちらのサイトを参照。
◆秋田あくらビール Data
住所:〒010-0921 秋田県秋田市大町1-2-40
電話:018-862-1841
FAX:018-862-1982
E-mail:aqula@aqula.co.jp
Homepage:http://www.aqula.co.jp/wp/
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。