[コラム,テイスティング]2019.12.8

【買ったらすぐ飲むな!?】ビールが何日で「本来の」味になるのか検証してみた。

「お酒を買ってきた当日には飲まない」

 

あるワインのセミナーにてご教示いただき、
以後、私も採用している鉄則である。
ワインの場合、

☑ 数日、特に最低3日は冷蔵で落ち着かせた方が、味が落ち着き、
☑ 不快な香りを容器の上部に集めることができる(分離できる)

というのがその先生の根拠らしい。

では、ビールでも同じことが言えるのだろうか?
ということで、実験してみた。

■ビールは「熱」と「光」そして「振動」に弱い

「味が落ち着く」と書いたが、購入したてのビールは何が問題なのか?

常温で陳列されていたのであれば、まずはそもそも適正な飲料温度まで温度を下げなくてはいけない(ライトラガーの場合6℃から高くても8℃程度)。

また、管理状況によって「熱」による酸化臭をはじめ、さらにボトルの場合「光」による日光臭などが発生している可能性が出てくる。

「振動」に関しては、揺らされることにより液中に溶け込んでいた炭酸ガスが遊離し、ピリピリとまとまりのないマウスフィールや、ハリのない水っぽい味わいのビールになる危険性がある。

 

■「スーパードライ」でやってみた

さて、諸条件は以下の通り。

  1. ビールは「アサヒスーパードライ 350ml缶」を使用。製造年月日は全て同一。
    → 国内での売り上げNo.1。一般的に流通している。全国展開している小売店で購入。
    → シンプルな味わいのため、香味の変化が分かりやすいと仮定
  1. 計測時間はT = 3,6,12,24,48[時間]。計5本を同時購入し、時間ごとにティスティング。
    試飲グラスはISO国際基準規格のティスティンググラスを使用。
  2. どれも15回ほど強く振ってから、冷蔵庫に保管(8℃保管)。
    →購入してから帰宅までの間に、十分に振動が加わったと仮定。振った後はほぼ「しゃかしゃか」という音がしなくなったので、十分に缶の中で炭酸ガスが液中から空気中に充満したと考えられる。

また、

・取り出す以外に冷蔵庫は開けず、静置。ベルチェ式の低振動冷蔵庫を使用。
・グラスは常温(平均24℃)保管、注ぐ際には一度リンス(※)した。
・注いだ際、どの場合でも液温は10℃ほどになっていた。

※冷水でグラス内面を濡らすこと。①摩擦を減らし、泡立ちを細やかにする、②余計な炭酸ガスがグラスとの摩擦で液中から抜けないようにする、③各ビールの適正温度までグラスを冷やす、などの目的がある。

近所の小売店で同一生産日のものを購入。

さて、上記の条件で、実際にどうだったのか?
◆1本目(T = 3[時間後])
・缶はパンパンに張っている。開けた瞬間に泡が噴き出してくる。まだ温度が高い印象(注いだ状況で12℃であった)
・香りはくぐもった印象(オフフレーバーが明確に感じるというより、ビール原料の香りが取りにくい)。DMS(ライトラガーには少なくとも含まれる香気成分。強すぎると「オフフレーバー」として、不快な香りと判断される)が明確に感じる。
・炭酸はピリピリとしていて、粗さがあり、液からすぐ抜けていく感じがある。
・それもあってか、余韻にはべたっとした甘みと渋みが口内に残る感触があった。

◆2本目(T = 6[時間後])
・まだ缶の上部と側面に張りがある。噴き出しては来ないものの、液面を覗くと泡が立っている。グラスに注ぐと泡はまだ粗い。
・スパイシーなホップの香りを取れるようになってきた(まだDMSが優勢に感じる)。
・炭酸はすぐには抜けず、T=3(h)よりは液にとどまり、ビールにハリを持たせながら喉奥まで落ちていく印象があった。

◆3本目(T = 12[時間後])
・表面、および上部を押すと少し凹むくらいには缶の張りは落ち着いてきた。
・開けた瞬間も泡は見られず、注ぐ際もグラスを斜めに傾けて注げば泡が立たないくらいにはなっていた。
・香りはホップに合わせて、モルトの香り(もともと希薄ではあるが)もわずかにとれるようになってきた。缶の上下どこをとっても、原料の香りはまだ隠れている印象。
・ボディに張りが生まれ、いやな甘味のべたつきもなくなり、シャープなのどごしに近づいてきた。
・味も甘みと苦味がそれぞれ立っていたものが、まとまってきた印象を受けた。

◆4本目(T = 24[時間後])
・缶の張り具合は前回と変わらない程度。
・缶から最初に注いだ液50㏄ほどはメタリックやDMSの強い印象を受けた。それより下の液ほど、ハーバルやスパイシーなノーブルホップの穏やかな香りを取ることができた。
・それまでのものより炭酸の刺激が柔らかく、麦の香味やホップの苦味も強く感じることができた。粗い炭酸の印象や甘味のべたつきによる、のどにつっかえる印象はほぼなくなった。

◆5本目(T = 48[時間後])
・缶の張り具合は前回と変わらない程度。
・前回同様、缶上部50㏄ほどはややメタリックやDMSが強く感じるものの、それ以下の部分はノーブルホップの香りや麦の香りを穏やかに、だが確実に取ることができた。
・炭酸も液に溶け込んでいる印象で、のどをつっかえることなくスムースな飲み口。苦味も粗さが取れ、麦の香味が余韻に戻ってくる感覚を覚えた。

個人的な感想としては、T=24(1日後)とT=48(2日後)の検体は、ほぼ誤差範囲というべき変化の違いであったが、T=48の検体の方がより「のどごしのきれいさ」や「香味の後ギレの良さ」を感じることができた(嫌に甘味や苦味、えぐみが残らず飲み進めることができた)。

今回の実験では、T=24(1日後)でも十分な「味の落ち着き」と「不快な香気成分を上部に集める」ことが期待できそうだと感じたが、確かに最低2日、安全係数をかけて3日置いてみてよいのかもしれない。

但し、まだまだ疑問は残る。

今回は「アサヒスーパードライ350ml缶」をサンプルとしたが、

「ボトルなど他の容器や容量ではどうか」「他の銘柄やビアスタイルではどうか」「激しく劣化したビールの場合はどうなのか」など、、なにより、もっと検体数や被験者数を増やして再度行いたいと思った実験であった。グラス温度以外にも基本的に同じ条件下(他に香りの少ない自室、平均室温22℃前後)になるよう配慮したが、今度は同日、同じ場所で異なる試験体を一度にティスティングした方がより確証が得られそうだと感じた。

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

くっくショーヘイ(佐藤 翔平)

フードペアリング インストラクター

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1989年、宮城県出身。岩手大学卒業。
「酸っぱいビール」に衝撃を受け、5000種以上のビールをティスティング。15以上の酒類資格と調理経験を活かし、フードペアリングに関する執筆や「ビアジャーナリストアカデミー」「アカデミー・デュ・ヴァン」「朝日カルチャーセンター」等の講師を務める。
日本地ビール協会公認「シニア・ビアジャッジ」として国際ビアコンペでの審査も行う。

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