2020年ビール市場予測(後編)ークラフトビールをフックに若者を巻き込む
おそらくは日本の歴史の中でも記録と記憶が残る2020年がスタートした。
そんな年に描くビールの未来に向けて、ビール各社も動き始めている。主な各社が1月に発表した事業方針などから透けて見える、2020年の具体的な戦術をまとめる。(後編)
2020年ビール市場予測(前編)ー酒税法改正に向けた各社の戦術
2020年。クラフトビールでビールの価値を多様に広げる
国内のビール市場が縮小を続ける中、市場拡大を続けているのがクラフトビールだ。キリンビールの調査(※1)では、日本国内でのクラフトビール認知率は2019年6月時点で90%を超え、クラフトブルワリーの数も2019年4月時点で381社と3年前の約1.5倍に増加している。
大手4社の中で、2020年の主力課題としてクラフトビールを取り上げているのは、キリンビール、サッポロビール、サントリービールだ。
〔キリンビール〕
2014年からスプリングバレーブルワリー(以下、SVB)、そして、飲食店向けに開発したビアサーバー「Tap Marché」が2017年から順調に推移し、さらに加速させるのが2020年だ。2020年の新規取扱店舗数は昨年と同じレベルの6,000店舗と設定し、より身近な飲食店でメニューにラインナップされることが期待される。また、サーバーで提供するビールの種類も20種類以上となり、さらに続々と新規投入や期間限定ビールなども登場予定だ。
また、キリンビールの扱うブルックリンブルワリーの2019年の販売を前年比163%と予測。好調の要因の一つは、このブランドスタイルに共感した主に20〜30代の若年層ファンを獲得できていることと分析。その勢いを加速すべく、2月1日(土)には日本橋兜町に世界初のフラッグシップ店「B(ビー)」をオープン。ここでは、本国ブルックリンのようなビール文化を日本橋兜町に根付かせることも視野に入れている。
さらに、「庄や」や「やるき茶屋」などを展開する株式会社 大庄による新業態居酒屋「トリクラヒーロー」が、1月10日(金)目黒にオープン。こちらは、ブルックリンブルワリーと「Tap Marché」を組み合わせたカジュアルな居酒屋として、内装やメニューにブルックリンブルワリーを押し出し、リーズナブルな価格帯で今後多店舗化を予定している。
その他、CSV経営の一環である地域社会・コミュニティへの取り組みとして、多様なクラフトビールの魅力を生み出す日本産ホップの品質向上や安定調達として2027年に日本産ホップ調達量100tの実現を目標として掲げ、引き続き行政や農家との持続可能な生産体制構築に取り組む。
〔サッポロビール〕
サッポロビールが2020年に掲げたビジョンは、「誰かの、いちばん星であれ ひとりひとりの心を動かす物語で お酒と人との未来を創る 酒類ブランドカンパニーを目指す <プレミアム&リーズナブル><グローバル&パーソナル>」。<>の前者が前編での戦術であるとすれば、後者がクラフトビールに関わる戦術を示すものだと分析する。
そこで注目するのは2点。1つ目は、当初子会社としてスタートしたクラフトビール事業の中から生まれたInnovative Brewerブランドだ。サッポロビールは世界で唯一、大麦とホップを育種し、農家とともに協働契約栽培を行うビール会社。その歴史の中で、その後世界を席巻することとなるのが、1984年に開発したホップ「ソラチエース」で、開発から30年余りの時を超えてホップを100%使用して造ったのが、このブランドの看板である『SORACHI 1984』だ。『SORACHI 1984』は昨年、ソラチエースのホップを軸に、これまではほぼありえなかった、ブルックリンブルワリーを抱えるキリンビールとの合同プロモーションを実施。そんなことからも、これまでの枠にとらわれない展開が今後も大いに期待される。
そしてもう1つは、2017年にサッポロビールの傘下となったアンカーブルーイングのビールの販売を今年3月3日からサッポロビールが担うこと。アメリカのクラフトビールの原点であるこのブランドがどのように相乗効果となっていくのかも注目していきたい。ちなみに輸入ビールの銘柄は、昨年11月に発表した『クローネンブルグ1664ブラン』の取り扱いが追加となっているが、その際にさらに新たなブランド追加も予告されている。
その他、まさにクラフトビールの原点とも言える地元に根付いたビール『サッポロクラシック』は、北海道限定でありながら全国に熱烈なファンが多く、19年連続売り上げアップで推移。サッポロビールが掲げる ”多様化ポートフォリオの確立” に揺るぎない一面を作っている。
〔サントリービール〕
東京・武蔵野工場で作るのが「TOKYO CRAFT(東京クラフト)」ブランドだ。2020年は特に世界的なイベントやスポーツの祭典が開催される“東京”で造るビールとして、前年比142%の16万ケースを目標に設定。中味・パッケージのリニューアルも予定する。
全国のクラフトブルワリーの動向も目が離せない
大手4社が課題として掲げる、若年層のビール離れ。ちなみに、ヤッホーブルーイングが成人式に開催した「よなよなエールの飲み会成人式」では、成人大学生に実態調査も実施。まさに若年層の入り口である20歳の嗜好は、お酒も料理もコストパフォーマンスよく自分たちのペースで楽しみたい、という傾向が浮き彫りとなっている。ちなみに、日頃の飲み会でのお酒に対して不満のある人の飲みたいお酒の第1位はクラフトビールが選ばれていて、興味の高さがここでもうかがわれる。
1994年の地ビール解禁からスタートした全国のクラフトブルワリーは、長いところはすでに20年前後の歴史を重ねている。主だった人気ブルワリーは工場の拡張を行い、より安定的な醸造体制を整えるところも増加している。そして、今年成人となった世代は生まれた時からクラフトブルワリーは存在していて、親世代がクラフトビールを飲んでいる世代でもある。
それぞれのブルワリーの規模や歴史に合わせた動向も注目していきたい。
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