苦労の連続。4年の月日をかけて「GOLDEN RABBIT BEER」が自社醸造をスタート 【自社醸造開始記念インタビュー】
「うちを取り上げてほしい」
日本ビアジャーナリスト協会に問い合わせがきたのが2017年の夏。その紹介記事を担当したことで、代表を務める市橋健氏とのご縁が生まれた。当時は、ファントムブルワリー(※1)として運営をしており、「自社醸造所を構える」ことを将来の目標として語っていた。これを実現すべく、2018年にはブリューパブ設立に向けたクラウドファンディングを実施して、先にパブをオープン。そして、2019年12月24日に念願の醸造免許(発泡酒)の交付を受けた。2015年の会社設立から自社醸造を開始するまで4年。これまでの思いを聞くため、市橋氏に会いに醸造所を訪れることにした。
※1 委託醸造で運営する醸造所のこと。
目次
■苦労の連続だった4年間。待ってくれていたお客さんに感謝し、誠実に歩み続ける
「醸造免許が取れるまで4年。ここまで本当に苦労の連続で長かった。今はつくりたいビールがいっぱいあるんですよ! どのレシピからつくろうか迷っています。でも、焦らず一つひとつ向き合っていきたいと思います」
今の気持ちを聞くと市橋氏はホッとした表情で話をはじめた。これまではフラッグシップである「そらみつ」「あをによし」を委託醸造で。それ以外のビールは、知人のブルワリーで仕込みを行なうことで醸造経験を積んできた。
念願だった自社設備での醸造は、年が明けた2020年1月5日。「感慨深い気持ちもありましたが、バタバタしていて浸る気分にはなれなかった」と、初仕込みは11時間を要し、慌ただしく過ぎていった。
つくったのは、青森県産の青リンゴを使ったフルーツビール「青二才」。これにはお客さんからも「意外だった」と言われた。
「皆さん、最初がフルーツビールとは予想していなかったようです(笑)。僕自身はまったくこだわりがなかったのですが、これまでがスタンダードなスタイルを前面に出してきたので意外だったみたいです」
たまたまフルーツビールがラインナップになかったこともきっかけとなった。「最初は爽やかなビールにしたいなと思っていたので、ちょうどよかったんです」と理由を語り、「お客様や取引先の方々にずっと待っていただいていましたので、大きな反響がありました。これからも皆さんの期待にきちんと応えられるように真剣に取り組んでいきます」と、長く続いていく醸造家人生に誠実に向き合っていた。
■奈良を感じられるビールを醸す
「ブルワリーコンセプトといいますか使命は、クラフトビールを通じて奈良の魅力を届けることです。これは食材としての奈良の魅力だけではなく、歴史や『そらみつ』『あをによし』のように枕詞も奈良の宝だと考えています。こうした魅力をビールから発信していきたい。そして、その魅力を感じた人たちに実際に奈良を訪れてほしいと願っています」
改めてコンセプトを確認するとこのように答えてくれた。話にあるように商品には奈良らしい名が付けられている。そのイメージは味からなのか? それともネーミングからビールのレシピを組み立てているのだろうか?
「どちらもありますね。自社醸造2回目の仕込みでつくった『しろたえ』は、名前からビールをイメージしていきました。『しろたえ』は、白い色、雲、波にかかる枕詞で、そのイメージに合うようなビアスタイルを探っていってホワイトエールを醸すことにしました。ちなみに『あをによし』は逆です。あれはレッドエールをつくりたいからスタートしています」
基本的に定番を考えているビールには奈良にちなんだ言葉を選ぶというが、初仕込みの「青二才」に関しては、「僕がまだまだ青二才だから(笑)」とのこと。
■自分が切り拓いていくことで醸造家の新たな道筋をつくりたい
市橋氏といえば、サラリーマンとブルワーの2足の草鞋を履く兼業ブルワーだ。醸造免許交付を受け、今後はどのように活動していくのだろうか?
「これからも兼業ブルワーは続けます。平日の日中は企業での仕事をして、夜と週末にブルワリー業務をしていきます。今のところ仕込みは土曜日に行い、日曜日にケグ詰めなどを行っています。このライフスタイルでやれるところまでやっていきます」
時間的な制約や体力面などの課題もあるが、そこに挑むのには社会への思いがあるからだ。
「今は終身雇用がなくなり、自分の生き方や生業をもたないと誰かが保証してくれる時代ではありません。こういう働き方や生き方があることを知ってもらうことで、醸造家という職業の裾野が広がるきっかけになるかもしれません。もちろん、ビールの品質を疎かにしてはダメです。きちんとしたビールをつくれることが前提ですけどね」
時間の制約はあるが、今ある形以外にもクラフトビール事業に関心のある人が参入しやすい環境を築いていくことも重要だという。
賛否両論があることは承知している。それでも可能性を広げていくため、敢えてチャレンジをしている。
「本当は仕事をやめてビール事業に専念しようと考えていたんです。でも、会社で兼業を指導してくれる方から『辞める覚悟があるなら辞めない覚悟をもちなさい。辞めない覚悟の方がよっぽど大変だから』と言われたんです」と、身近にサポートしてくれる人たちがいることも大きい。
「会社からは兼業をするにあたり、健康を害するような無茶な働き方はダメとアドバイスをいただいていますし、同僚や上司からは『美味しい』と応援してくださっています」と感謝の気持ちを表す。同時に「決してクラフトビール事業は簡単なものではありません。だからこそ退路を絶って挑んでいるオーナーブルワーさんはすごいと思います」と、専業で活躍している同業者への尊敬の気持ちを話してくれた。
■ビールを通じた社会貢献も積極的に継続していく
自社醸造を開始するまでに4年の月日がかかったが、その間に自分達で育てた奈良県産の二条大麦でのビールづくりや「NPO法人 日本こども支援協会」と連携した寄付活動、SDGsイベントの開催と、市橋氏がクラフトビール事業を通じて社会に貢献できることを同時に進行してきた。
毎年、公募しているイメージキャラクターもその1つだ。
「何を通じて何ができるのか。『GOLDEN RABBIT BEER』をやっていくなかで考えていることです。ポスターに女性を起用する試みは、世の中に出たいと思っている方がいるという話を聞きまして、『だったら、そのきっかけになればいいな』という考えから始まりました。今では4人目になりました。キャリアも皆さんバラバラで様々な活動をされている方たちばかりです。こちらは今後も継続していきます」
一見、ビールとは関係ないようにみえるが、社会に対して何が貢献できるのかを考え、多くの人と連携した取り組みを行いたい意向だ。
ビールについては、「定番となるビールをしっかりとつくっていきたい」といい、流行に左右されるのではなく、自分の信念を表現したビールを「GOLDEN RABBIT BEER」を訪れる人にゆっくりと楽しんでほしいと願っている。
当面、パブの営業は金曜日から日曜日の週末営業のみ。近鉄奈良駅からは徒歩約10分。電車だと大阪からは約1時間。京都からは特急電車で約35分とアクセスもいい。少し足を伸ばして寺院巡りをしたあとに立ち寄ってみてはいかがだろうか。
◆GOLDEN RABBIT BEER Data
住所:奈良市東寺林町30
TEL:0742-77-0944
Homepage:https://www.goldenrabbitbeer.com/
Facebook:https://www.facebook.com/GoldenRabbitBeer/
Twitter:https://twitter.com/GoldenRabbitBee
Instagram:https://www.instagram.com/goldenrabbitbeer/
お問い合わせ:https://www.goldenrabbitbeer.com/contact-us
タップルーム営業時間:金曜日19~21時、土曜日13時~21時、日曜日13時~17時
※イベント等で変更の可能性あり
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