【前編】美味しいビールの条件-注ぎの極意-
「ソムリエがワインをティスティングするのは、ボトル上面の不快な香気成分がたまった部分をカットしてお客様に提供する意味合いもあります。その前に静置させるのは上部にその成分を集めるためです。」
以前そのようなことを、知り合いのソムリエから伺ったことがある。
自分でも試してみたが、ボトル上面から下にいくにつれて味が変わっていくのを実感できた。
なるほど、プロの所作には全て理由が潜んでいる。
では、ビールはどうだ?
もちろんあるのだ、「同じビールが別物になってしまう」ようなマジックが。
今回は、都内で注目を集めている「麦酒大学(ビールだいがく)」・山本祥三氏と「Highbury-The Home of Beer-」・安藤耕平氏の両名に「注ぎ分け」と「ビールの鮮度管理」について、前編・後編に分けてお話しいただいた。
この2店が「別物」と知らしめるほどにビールを「深化」させている要因はなんなのか?
目次
■同じビールを10種類以上の「味変」で表現する
提供するビールは「キリンラガービール」。
但し、(メニュー記載のものだけでも)10種類以上の「味変」があるといえば、
このお店のこだわりが伝わるに違いない。
「麦酒大学(ビールだいがく)」。
「注ぎ分け」によってビールの味わいに変化をもたらすマジシャンがここにいる。
同大学の学長・山本祥三(やまもと よしみつ)氏だ。
「注ぎ」によってどれだけ味が変化するのか、注ぐ際の注意点とともにお答えいただいた。
■そもそも、ビールの味わいはそんなにも変わってしまうのですか?それは何故ですか?
簡単に変わってしまいますね。空気に触れる「酸化」が代表的です。
麦の糖分は時間とともに比重で沈んでいき、唇の油分に触れても味わいは変化します。
グラスを動かすことでも液体が混ざり合いますし、温度変化やグラスの形状も関係します。「三度注ぎ」はまさに糖分の沈降が関係する注ぎ分けです。
■泡は先につけるべきでしょうか?後付けすべきでしょうか?
先に付けるべきですね。後乗せする一般的なビールサーバーは別の話として(後述)、後から泡を作ろうとすると液体を激しく撹拌するので酸化しやすく、味のバランスは崩れます。宴会のビールが不味くなるのは、注ぎ足しにより激しく撹拌されてしまうからです。
また、ホップの香りを感じたい時は泡をしっかり立ててあげる、飲みやすくするのならばクリーミーな泡にしてみたりと、泡で表現の幅を広げることが可能です。一般的なビールサーバーは後からキメの細かい泡を載せることで口当たりを良くしてます。
■グラスは予め冷蔵庫で冷やしておくべきでしょうか?どの程度冷やすべきでしょうか?
原則として冷蔵庫と冷凍庫はNGです。グラス専用の冷蔵庫があるのならば別ですが、食品の臭いがうつるので避けましょう。冷凍庫はグラスの内壁に霜がつくことで、ビールを注いだ時に余計な泡ができ、かつビール成分が冷却されすぎてしまいます。(夏に凍ったグラスでビールを飲むというエンターテイメントな要素を楽しむのならば別ですが)。
冷やす温度は入れるビールと同じくらいが理想です。ラガービールなら冷水や氷水ですすぎ、エールビールなら常温の流水でいいと思います。軽く水でゆすぐことで内壁が湿り、ビールに余計な摩擦がかからないというメリットもあります。すすいだ水分が気になる方もいるかもれませんが、ビールの原材料のほとんどが水なので数滴で大きく味が変わることはないですよ。
■グラスを傾けて注ぐ方が多い気がしますが、なぜ傾けないといけないのでしょうか? 角度や向きに注意は必要ですか?
傾けたほうが流体としてのビールが影響を受けにくくなるので、傾けたほうが本来の味のままで注げます。「注ぎ分け」では特に角度と向きで液体の回転が変わってくるので、混ざり具合や炭酸の抜け方が変わりますね。
グラスを立てる(角度が垂直に近い)方が液体に衝撃が加わるので抜けた味になり、酸素の供給量も増えてしまうのでエグくなりやすいです。縦に回転するビールの中で起こっている現象は防波堤に波が当たってる時のイメージですね。
エグ味も個性と捉えるならば問題ないですが、クリアな味わいを出すのであれば横に回転がかかるように向きを気にしましょう。炭酸は残り気味になるので縦の回転を少しつけてあげるとガス感が優しくなりますよ。
■かけるガスの圧力にも、気を配っていることはありますか?
ビールが本来もっているガスボリュームに近づけることです。ガス圧で流速が変わるという側面もあるのですが、本来のガスボリュームを崩したくないので当店ではホースの全長を調整することで流速調整しています(※1)。
あとは温度管理ですね。一般的なビールサーバーは冷却機能が強いのでビールの樽を過度に冷やさないようにしています。イメージとしては低めの常温。ビール樽が大量に収容可能なワインセラーがあればいいんですが、当店はエアコンで年中一定に温度管理しています。飲食店で温度が上がって泡だらけになりやすいお店は、樽を冷やしてあげるのとディスペンスヘッド(樽とホースを繋いでいる器具)の部分を保冷剤などで冷やすと気泡の発生を抑制できますよ。
※1樽からタップへのホース長が長いほど摩擦によりビールの流速が減少する。
■大まかに、このように注ぐとこうなる!というような原理原則はあるのでしょうか?
注ぎ慣れていない方でも実践可能なものはありますか?
缶でも瓶でもサーバーでも基本の原理は一緒です。ビールは流速とグラスの角度、液体がグラスに当たるまでの距離で味わいを調整できます。炭酸を抜きたければ速度を早く、距離を遠く。味わいを残したければ流速を遅く、距離は近く、グラスを寝かせて優しく注ぎましょう。
注ぎ慣れていない方が注ぐのであれば、特に缶やボトルの場合
①グラスは立てて置く
②グラスの底面にめがけて勢いよく注ぐ(泡が沢山できますけど失敗ではないです)
③泡がおさまって泡が4、液体が6くらいの割合まで待つ
④グラスを手に持ち、少し傾けながら優しく残りのビールを注ぎ足す
(最後のほうに急にグラスを縦にすると泡が沢山たってしまいます)
以上でマイルドな味わいになります。最初の泡を立てる量と最後に足すビールの量の調節をすることで自分好みの味に近づけられますよ。
泡を後付けする一般的なサーバーでは先に泡をつけるのが難しいので、グラスを45°程度に傾け横回転をかけ、壁面をぐるぐると沿わせるように液体を注ぐとよいです。この場合、よりシャープな味わいになります。最後に壁面を伝うように優しく泡付けしてあげましょう。
また、注ぎ口の先をビールにさして注ぐと鉄のにおいが付くと心配する方もいらっしゃいますが、まず問題ございません。もしビールが鉄っぽいと感じる場合は、もともとビールに含まれていた香りが注ぎ方によって表に出てきた可能性が高いですね。
■クラフトビールのような様々な味わいのビールが増えてきましたが、黒ビールなど味で注ぎ分ける必要はありますか?
注ぎ分けは味わいを変えて楽しむものという誤解が多いのですが、一番大切なのはビアスタイル本来の魅力を楽しむことです。その延長線上に更に個性を引き出すために注ぎ分けがあります。ホップの香りが特徴的なビールのホップ香を強く出す注ぎ方もありますし、麦芽100%のビールを後味の麦感がしっかりとした注ぎ方や甘みを強く出す注ぎ方もあるので、楽しみのひとつとして注ぎ分けて試してみるのもいいと思います。
注ぎの極意、いかがだろうか?最後にもう一度復習してみよう。
<「美味しい」ビールの条件-注ぎの極意->
- 泡を先に付けることで「酸化」を防げる。泡付け機能付きサーバーは優しく注ぐことで酸化を最小限に防ぐことができる
- グラスは水ですすいで冷やす。ビールの提供温度に合わせて温度を変える
- ガス圧はビールのガスボリュームに近づける。但し、高温や凍るような温度は厳禁
- 注ぎは「流速」「角度」「距離」でビールの味を変化させる。マイルドにするならやや泡立ててから、シャープな味わいなら横回転を意識する
- まずは「ビール本来の魅力」を楽しもう!!
最後に。注ぎ分けのロジックについては掲載を控えさせていただいた。
「注ぎ分けを失敗すると雑味が出ることが多いです。造った方々の意図をくみ取りビールの本来の個性を考えて、飲む人が美味しい!と思ってもらえる味わいを引き出すロジックは、目でも学んでから注ぎ分けをしてほしいんです。」
という山本氏の願いだ。
ロジックを学びたい方はぜひ直接来店して、その神髄を伺っていただきたい。
【Shop Deta】
麦酒大学(ビールだいがく)
<所在地>
東京都中野区中野3-34-23 辻ビル 2F
<営業時間>
【月~土】18:00〜翌1:00(L.O.フード23:00 ドリンク24:00)
【日】定休
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→【後編】美味しいビールの条件-鮮度の極意-
https://www.jbja.jp/archives/29273
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