【Beer Muse】ビールとアートデザインを模索する
桃や梅の開花で季節を感じるとともに、花粉の到来も鼻が感知する今日この頃。
私は花粉症ではないのですが、花を見るのは好きです。
そして芸術に触れるのも好きです。
突然ですが、
普段ビールを飲む際に、みなさまは缶や瓶のデザインを気にされたことはありますか?
以前から六本木アートナイト、デザインあ展や美術館を回るのが趣味だった折、
最近ふとした疑問が湧きました。
「自分はビールに触れる機会が多いからあまり考えたことがなかったけど、
普段あまり飲まない人からすればラベルデザインからビールを決めることは自然。
日本ならまだしも、それが言葉がわからない海外ならなおのこと。
するとデザインはとても重要になってくるけど、
ビールのラベルデザインって誰がどう決めてるんだろう」
普段ビールを飲む際に、みなさまはデザインを気にされたことはありますか?
お気に入りの王冠はありますか?
どんな風にブリュワリーのロゴが決まっていくか興味はありませんか?
ビール好きがビールを語るのもいいですが、
ビールの顔でもあるラベルは、
アートの観点からビールは、
一体どう見えているのだろう。
そんなことを考えていたところに、ビールのイラストレーターTOAさんの展示のお話を耳にしました。
幸運なことにTOAさんと、
さらにビールに溺れる展で展示をされたeikoさん、
お二人に直接インタビューをする機会を得られたので、
アートで活動される方々から見たビールの世界について、色々とお話をお伺いしてきました。
アーティストへのQ&A
場所は様々なコンペティションで賞を獲り続けている新潟のクラフトビールブリュワリー、スワンレイクブリューイングの、
代々木上原にあるスワンレイク パブエド カフェドテテさんです。
今回の展示はアルファベットのAからZをすべてビールにまつわる単語でイラストにしてみるという企画。
入口向かって右側のスペースにて展開されています。
※第一弾A~Mは6日までで終了、
現在は第二弾N~Zの展示に切り替わっております
プロフィール
TOA(右)
まんが「恋するクラフトビール」、ビール雑誌「ビール王国」、
「奈良クラフトビールマップ」など多岐にわたる活動とイラスト掲載実績を持つ
instagramアカウント:@sktoaworks
https://instagram.com/sktoaworks?igshid=4au139xtqyzt
eiko(左)
元々イラストレーターとして活動していたが、
KONAビールや「ビールに溺れる展」などでビール関係のお仕事も増加
クラフトビール自体は最近飲み始めた
instagramアカウント:@eiko_0212
https://instagram.com/eiko_0212?igshid=e5tsj3vcqwe
※ビールに溺れる展とは、アーティストを招きビールのイラストなどのライブペインティング、ARなどをクラフトビールを飲みながら楽しめるイベント
図らずもお二人とも女性なので、ビール好きの女性を取り上げる私の企画、「Beer Muse」としても機能してしまいますね!(笑)
それでは、スタート!
私がオーダーしたホワイトスワンヴァイツェンは小麦を使った白ビールですが、サマーウィートのようにスッキリ爽快でどんどん飲める一杯!
こちらは8%という度数を感じさせない、かぼちゃビール。様々なスパイスを含んでいるため漢方というか複雑な香りがツボにハマります。
さて、インタビューに移りましょう!
Q:TOAさんに質問です。まずは、今回このような展示を行うことになったいきさつを教えてください。
TOA(以下T):知人を介してカフェドテテ店内のスペースを有効活用できないかと持ちかけられました。
Q:ビールにまつわるアルファベットをイラストに起こしていく、というアイディアはとても興味深い発想です。
どのようにして思いついたのですか?
T:様々な人が見ることを想定した時に、アルファベットなら自分のイニシャルにも必ずどれかの文字が使われていることから、
どんな人でも自分事にできると思ったからです。
なるほど。確かに自分のアルファベットがどう使われているかに目がいってしまいますね!事実自分もそうでした!
Q:お二人に質問です。好きなビール銘柄はありますか。
eiko(以下e):元々はエビスビールが好きで、最近はビールの仕事が増え様々なタイプに触れる機会も増えました。
最近は先日アンテナアメリカさんとのお仕事を通じて知ったベルチングビーバーのミーソーハニー ブロンドエールが好きです。
ビーバーのイラストが特徴的なアメリカのブリュワリーですね!
見ていて楽しいラベルが多いんです。
T:…(熟考)ビールを飲みだすきっかけになったのはベルギービールですね。
(展示スペースには彼女の初期作品とも言えるZINEが置いてあり、その中にリンデマンスなどのボトルの緻密な写生が見つかります。
要チェック!)
※ZINE(ジン)とは自主制作した個人誌、冊子のことでオシャレな同人誌のような存在として巷でブーム
ベルギービールは果実やホップの妖精の描写が多い印象があります。
大自然への感謝なのでしょうか。
と、スタッフさんにメニューを聞くために思わず身を乗り出すeikoさん笑
カフェという店名とは裏腹に豊富で手の込んだメニューは魅力的で、
どれも素晴らしいものばかりでした!
フードにここまで力を入れているお店はビール店では珍しい方かも?!
Q:eikoさんに質問です。
アート活動は元々されていたようですが、ビール業界との関わりのきっかけは何だったのですか?
e:イラストや、LIMITS(リミッツ)などで活動していました。
※リミッツは制限時間20分の間にバトル形式でイラストを書き上げる「協議型デジタルアート」
従来の見るアート以上にエンターテインメント性が高く、youtubeにも動画があるので気になる方はチェック
う〜む、リミッツというコンテンツ自体知りませんでした…イラストをいつも通り仕上げるだけではなく、
会場の熱気から即応的なアクションとスピード感も求められる企画ですね!
e:ある時、ha za maブランドのテキスタイルを手がけた竹谷嘉人氏から「ビールに溺れる展」に出展しないかとお声かけがあったところから密にビールとの関わりが始まりました。
直近ではアンテナアメリカ関内店で始まるイベントにも参加予定です。
※ha za maは前衛的なデザイン洋服ブランド
※前回のビールに溺れる展では、プロアマ問わず広くクリエイターを募集
なるほど。eikoさんとは「ビールに溺れる展」で初めてお会いしたのですが、
まさかeikoさんの方も初の参加とは思っていませんでした!
eikoさんは今ではブロンドエールがお気に入りのようでした。
彼女のようにクラフトビールに密に触れだすと、実はビールの種類が多彩であることを知り、よりまた興味がわいてくる気持ち、わかります!
デザインとはブリュワリーの色
お二人のイラストのタッチが違うようにアートデザインと一口に言っても表現は様々です。
参考までに私の方でもブリュワリー側にお話を伺ってみました。
・私の出身地横浜を代表するブリュワリーの一つ、
横浜ベイブルーイングの代表、鈴木真也氏の場合…
ビールラベルのアイディアは真也氏が提案→
その後は外部に委託。
・三重のブリュワリーながら東京駅八重洲口店も好調で新店舗オープンも控えている、
伊勢角屋麦酒の代表、鈴木成宗氏の場合…
ビールラベルは成宗氏の思いつきからスタートすることが多い→
社内チームでデータ起こしを行う。
因みに印象的なロゴデザインはご自身の色鉛筆で書き起こしたものをベースにしてチームで仕上げたとのこと。
また、TOAさんからは、いわて蔵ビールの缶デザインはnendoのデザイナー、佐藤オオキ氏のプロデュースということを教えていただきました!
※nendoは佐藤氏が立ち上げたデザイナーオフィス
各ブリュワリーによってまちまちですが、思いついたアイディアをブリュワリー側が外注するケースが多いようです。
マイクロブリュワリーではなかなか手が回らない分野かもしれませんが、
ビールごとにポスターデザインを用意する大阪のディレイラブリューワークスや、
毎回ポストカードを発行している奈良醸造のようなスタンスなども注目したいところです。
参考までに、
「ビール デザイン」で検索エンジンで調べると特定の該当はなし、
「ビール アート」ではサントリープレミアムモルツの泡アート
「ビール アート ラベル」ではこぶし花ビール、湘南ビールの大仏ビールなどがヒットしました。
私見ですが、想像以上に少なくやや残念。
ビールラベルを調べてみると
ラベルデザインにフォーカスしてみると、いくつかのタイプに分類が出来ます。
①ビールの説明はなくほぼビール名のみ
②ビール名とワンポイントデザイン(トレードマーク)がセット
③ほぼイラストのみ
①トラピストや王室とも関わりがあったドイツの古参ブリュワリーなどによく見受けられる。
デザインを含めこれまでの伝統を守るため、
歴史が長く名称の認知が一定以上ありビールの内容を説明する必要がないことから名前ですぐ分かるようにすれば十分なため、
などの理由が多い。
ex)シメイ、パウラナー、ギネス、富士桜高原ビール
②ビール名も視認しやすく表示があるが、知名度があるロゴやイメージキャラクターも同じくらい印象的なパターン。
クラフトビールとしての認知度もあったり、限定ビールが多いことも背景にあり、
マーケティングの結果とも考えられる。
ex)ブリュードッグ、ミッケラー、京都醸造、志賀高原ビール
③一見してそもそもビールかどうかもわからない、アーティスティックなケース。
それ故に熱狂的なファンを持つためクラフトブリュワリーに多いが、当然味の説明もなく中身は想像するしかない。
デザインに力を入れているブリュワリーが多い裏返しでもあるが、外部の有名なデザイナープロデュースであることを売りにしていることもあり、経緯は様々。
こういったブリュワリーはグッズの人気も高い場合がある。
ex)コレクティブアーツ、アザーハーフ、オムニポロ、プヤラ
…カナダのコレクティブアーツは毎回毎回広くアーティストを起用するので同じラベルが存在がしないのが売りであったり、
投稿した写真をラベルに載せられるというデュベルの取り組みも興味深く、ブリュワリーによって本当に多種多様です。
因みに自分がラベルで衝撃を受けたのは絵画のような美麗なイラストのヒューガルデン禁断の果実、
アメリカらしい自由なタッチのロストコーストブリューイングのタンジェリンウィートです。
これらに出会ったのはビールに興味を持ち始めた頃だったので、私自身ビールにハマっていくきっかけになりました。
皆さんにもそんな経験、ありませんか?
アーティストとして日本のビールシーンはどう映るのか
海外は自立性の高さが自由なアプローチに寄与しているようですが、日本に話を戻しましょう。
「ビールに溺れる展」ではアーティストの作品を展示するだけではなく、音楽やライブペインティング、
泡に入れる疑似体験(!)ARを導入し来場者も参加できる巻き込み型の姿勢がとても楽しいですが、
eikoさん曰く今後もさらにパワーアップするそうです。
楽しみですね。
最後に、的を得ており今回最も脳裏に焼き付いたTOAさんのコメントをご紹介します。
T:海外はアートに対するサポート、費用のバックアップが強いんです。
日本のマイクロブリュワリーは醸造量に限りがあるため、定番を作りにくい側面もあり、決まったラベルを決めにくい。
一回だけならデザインにかける費用も掛け捨てでも許せるかどうか…といった壁もあるんです。
なので、零細企業がデザインに出資できない背景を一概にダサいとは断じきれないないことも。また、(上記のZINE内にもあったように)ベルギービールを自分でイラスト化したときに、女性、男性化してその銘柄の先入観が(意図していない方向へも)固定されてしまうデメリットがありました。
そのため今は自分自身が発信するよりは、何か(誰か)の役に立つことを主眼に置いて活動するようになりました。
TOAさん自身、現場のことを知るためにベルギービールの飲食店、「ブラッセルズ」で実際に働いたこともあったそうです。
なるほど。TOAさんが自分自身のイラストを押していくことよりマンガやイラストでビールに携わるように移行していったのは、
そのような思いの強さが起因していたのですね。
カフェドテテに飾られている優しい展示といい、ビール愛を垣間見た瞬間でした。
新しいブリュワリーが増えている国産クラフトビールシーンですが、
お二人のインタビューからも透けて見えたように現場ではアートデザイン費用が満足に捻出できるのはまだ一部というのが現実。
しかし今はアパレルやグッズもファンになってもらえる時代ですし、
ビールに溺れる展のように映像技術の進歩からビールの魅力を打ち出していくことも出来るようになりました。
アートからビール、ビールからアート。
相互の交流を増やしていけたらアルコールが苦手な人にも興味を持ってもらえるのではないでしょうか。
参加型イベントのムーブメント、ビールもアートも今後の盛り上がりに期待したいところです。
―あなたのお好きなビールのラベルはどんなデザインですか?
スワンレイク パブエド カフェドテテ 渋谷代々木上原店
【住所】東京都渋谷区大山町46-9
【TEL】03-5738-7347
【HP】https://www.swanlake.co.jp/main/pubedo_tp.asp
※現在TOAさんの展示は第二弾N~Zのみに切り替わっております(今月いっぱいまでの予定)
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。