5年の歳月をかけて糖質ゼロと美味しさの両立を実現【ビール誕生秘話 10本目 一番搾り糖質ゼロ編】
2020年8月27日、キリンビール株式会社(以下、キリンビール)から「一番搾り 糖質ゼロ」を10月6日(火)に発売すると発表があった。健康志向が強まる中、発泡酒や新ジャンルでは糖質ゼロ商品の人気は高い。ビールカテゴリーにおいても過去に糖質をカットした商品はあったが、糖質をゼロ(※1)にした商品はこれが日本で初めてだという(※2)。
しかも、今回はキリンビールの代名詞である「一番搾り」ブランドから発売をする。今秋、注目の的となる「一番搾り 糖質ゼロ」への思いを知るため、技術開発担当のキリンホールディングス株式会社R&D本部 飲料未来研究所 新価値創造ユニットの廣政あい子さんに話を聞くことにした。
※1 100ml当たり糖質0.5g未満のものに表示可能(食品表示基準による)
※2 Mintel GNPDを用いたキリンビール株式会社調べ
目次
■原料の厳選と一番搾り製法で糖質ゼロとおいしさの両立を実現
このビールの最大の注目点は、なんといっても「ビール」で糖質ゼロを実現させたこと。どのようにして糖質ゼロを実現したのだろうか。
通常、ビールは発酵の段階で麦汁の中にある糖質をビール酵母が食べてアルコールと炭酸ガスをつくる。しかし、実際にはビール酵母は、全ての糖質を食べきることはなく、大きな糖質はビールの中に残存する。
「一番搾り 糖質ゼロ」では、「流通している麦芽の中から、糖化工程で麦芽に含まれるでんぷんを糖質に分解する際、大きな糖質が残りにくく、酵母が食べ残す糖質が少ない麦芽を選んで使用しています」と廣政さん。この麦芽を使用し、糖化工程の技術を突き詰めた結果、これまで以上に効率よくでんぷんを分解することが可能になった。
発酵についても「『淡麗グリーンラベル』や『淡麗プラチナダブル』といった糖質オフゼロ系の商品で培ってきた技術をベースにして、今回、1から技術を見直して製法を築きあげました」と技術を進化させることで糖質ゼロを実現した。
しかし、「一番搾り 糖質ゼロ」は、糖質をゼロだけを追い求めたビールではないという。
「このビールを造るときの最初の目的が、『おいしいビールを気兼ねなく飲んでほしい』ということでした。糖質ゼロの実現と同時に美味しさの追求がありました」
糖質をゼロにすることで、すっきり飲みやすいだけではなく、ビールらしく麦の味わいが感じられることが重要だったという。それを実現させたのが一番搾り製法だった。
「一番搾り製法ならではの雑味のない澄んだ麦の旨味が、私たちが追い求めた美味しさを実現させてくれました」
麦芽の選定と醸造技術の進化による糖質ゼロの実現。雑味のない麦の旨味が味わえる一番搾り製法。この2つが両立することで「一番搾り 糖質ゼロ」は誕生した。
■5年の開発期間は異例。中止になってもおかしくなかった
「一番搾り 糖質ゼロ」のはじまりは、廣政さんの友人の「ビールは好きだけど、体系が気になるから最初の1杯だけにしている」という言葉だった。
「当時、育児休業中で友人たちとお花見をしたときに言われました。それで、ビールが好きな人がもっと気兼ねなく飲めるおいしいビールがあったらいいなと考えるようになりました」
2015年の春、育児休業が明けた廣政さんは、ビールの原材料だけで糖質をゼロにするアイデアを研究所内でプレゼンする。「その時は、アイデアを磨き上げる場でしたので、どのような方法でブラッシュアップしていけばお客様の価値につながるのか色々アドバイスをもらいました」。アイデアを出す中、他の社員から「こういう商品が欲しかった」という声を聞き、「社員が欲しいと思うくらいなら、きっとお客様も欲しいはず」と商品化までやりきる決意を固めたという。
しかし、商品化までは長い時間を要することになった。
「ビールは麦芽使用比率が高い分、糖質を限りなくゼロにするというのは、技術的にも簡単なことではありません。糖質自体はビールのおいしさにつながるものです。ビールのおいしさを構成する要素の1つである糖質をゼロにしながらおいしさも実現させることは本当に難しかったです」
通常は数十回の試験醸造を、5年間で350回に及ぶ回数を重ねて糖質がなくてもおいしい味を追い求めた。
キリンビールでは、商品が開発されるまで長くても2~3年で、5年もかけることは異例だという。廣政さんも「途中で中止になってもおかしくなかった」と話す。それだけキリンビールが「一番搾り 糖質ゼロ」にかける思いが強いことがわかる。
これだけ思いが強い商品だが、同社が販売している「淡麗プラチナダブル(発泡酒)」や「のどごしZERO(新ジャンル)」と競合してしまわないのだろうか。
これについてキリンホールディングス株式会社コーポレートコミュニケーション部の佐藤啓太さんは、「それぞれのカテゴリー毎のニーズに応える商品設計であり、カニバリは限定的だと思っています。そもそも今までビールが好きだけど糖質を気にして飲んでいた方に手に取ってもらいたいと思っています。私たちはメリットの方が大きいと思っています」と話す。
そう。「一番搾り 糖質ゼロ」はビールが好きな人にむけられた商品なのだ。
■糖質ゼロと麦の旨味のおいしさで気兼ねなくビールを楽しんで欲しい
5年と長い時間をかけて発売されることになり、今の気持ちを廣政さんに聞いてみた。
「技術開発の立場にいる者のアイデアが商品化されるケースはこれまであまりありませんでした。貴重な経験をさせてもらったと思っています。気持ち的には、ここまで来ることができて嬉しい気持ちもありますが、ホッとした気持ちの方が強いですね(笑)。
きっかけをくれた友人に、このビールのことを伝えると『やっとビール党に戻れる』と喜んでくれて、私も嬉しい気持ちになりました。同じように糖質を気にして諦めていた人もいると思います。健康を気にして控えている方には、糖質ゼロと一番搾り製法で造られた麦の旨味を両立したおいしさを味わっていただきたいです」
「一番搾り 糖質ゼロ」は、缶商品のみの販売となる。自宅で飲んで「おいしい」と感じた人が、ハレの日の外食を楽しむときに、「一番搾り」を選んでくれるのが理想だという。
糖質を気にせず、一番搾り麦汁の旨味のおいしさを味わえる「一番搾り 糖質ゼロ」の発売日は10月6日(火)。
どんなビールなのか? 皆さんの五感で体感してほしい。
一番搾り 糖質ゼロ Data
発売日:2020年10月6日(火)
発売地域:全国
容量・容器:350ml缶・500ml缶
価格:オープン価格
アルコール度数:4%
製造工場:キリンビール取手工場、名古屋工場、岡山工場
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。