ソラチエース誕生祭でビールの楽しさを再発見!ホップでビールを選ぶ時代に
1984年9月5日は、サッポロビール株式会社(東京都渋谷区)(以下、サッポロビールとする)が開発したホップ「ソラチエース」の誕生日です。北海道空知郡上富良野町生まれの同ホップは、今年で36周年を迎えました。
目次
2回目を迎えた「ソラチエース」 誕生祭とは?
今年は、「ソラチエース」を使ったビールを醸造している3社、サッポロビールとキリンビール株式会社(東京都中野区)のグループ会社であるブルックリンブルワリー・ジャパン株式会社(以下、ブルックリンブルワリー・ジャパンとする)、木内酒造合資会社(茨城県那珂市 以下、木内酒造とする)が音楽ビヤプラザライオンに集まり、その誕生を祝いました。
昨年から始まった「ソラチエース誕生祭」。日本を代表する大手2社が業界の垣根を超えて共同で行うイベントは、他ではあまり見られません。今年は新たに、日本のクラフトビール業界において海外でも知名度が高いブランド・常陸野ネストビールを製造・販売する木内酒造も参加することに。この異例ともいえる3社の集まりが実現したのは、彼らに「『ソラチエース』というホップを日本で広めたい、ビールの楽しさをもっと多くの人に知ってほしい」という共通の想いがあったからです。
新型コロナウイルス感染症拡大を懸念して、イベントはオンラインでの開催となりましたが、無事に2回目を迎えることができました。
誕生祭は17時からの三部構成。第一部では、先に述べた3社のトークショー。第二部は、「オンライン開催でもリアルと同様に楽しんでほしい」というサッポロビールの粋なはからいで、アルプス音楽団によるオクトーバーフェストソングの生演奏が行われました。
第三部は、「ソラチエース」が1984年生まれであることにちなんで、19時8分4秒に視聴者含めて参加者全員で乾杯。あっという間に2時間半が経過した盛りだくさんのスケジュールでした。
「ソラチエース」がなぜ「伝説のホップ」と言われるようになったのか?
日本におけるホップの収穫量は世界の生産量の100万分の1未満です。そのような状況のもと、国産ホップの「ソラチエース」が1984年にサッポロビールによって開発されたことは奇跡的な出来事でした。しかし、当時は「ソラチエース」の特徴である、ヒノキやレモングラスのような独特の香りが日本では受け入れられず、日本産のホップとして脚光を浴びることはありませんでした。
この後、35年の時を経て古巣であるサッポロビールに戻り、「SORACHI1984」として商品化されるまでの間に、同社も知らない時間が経過します。一歩間違えればそのまま誰にも気付かれずに一生を終えていたかもしれない──
トークショーには、サッポロビール「SORACHI1984」のブリューイングデザイナー新井健司氏とブルックリンブルワリー・ジャパン 代表取締役社長の山田精二氏、木内酒造ビール醸造部醸造課 課長の谷幸治氏が参加。「ソラチエース」が辿った36年の経緯を、この3人の登壇者が解明していきます。
3人とも「個人の感想です」と前置きをつけながら、「ソラチエース」への想いや同ホップを使用したビールがどのように誕生したのか、またオススメのペアリングについても語ってくれました。
サッポロビールの新井氏によると、
1994年にサッポロビールの研究員であった糸賀裕氏が日本のビール事情に合わなかった「ソラチエース」をアメリカオレゴン州立大学に持ち込みます。けれども、当時クラフトビールブームであったアメリカにおいても、ソラチエースはしばらく日の目を見ることがありませんでした。
その後、2002年にワシントン州ヤキマ地方でホップ農場を営むダレン・ガメシュ氏がその良さを見出します。ダレン氏が、アメリカのブルワリー(ビールの醸造所)に同ホップを紹介したところ、「ソラチエースを使用することでビールの完成度が1ランク上がる」「違いを作ることができるホップだ」と評判になります。
次にブルックリンブルワリー・ジャパンの山田氏が、2008年にアメリカの同社のブリューマスター(ビール醸造責任者)であるギャレット・オリバー氏に「ソラチエース」が渡った時の様子を紹介してくれました。
「このホップが俺にビールを造れと言っている」 詩人でもあるギャレット氏は初めてこのホップを嗅いだ時にそう表現しました。
翌年に同氏が推薦する限定品「ブルーマスターズリザーブ」として発売したビールが「ブルックリン ソラチエース」。瓶のラベルは、「ソラチエース」の名前にちなみトランプの「エース」をデザインしたもの。
最初は限定品で作ったビールでしたが、「また飲みたい」と言う顧客の声が多く通年品に。その後、ヨーロッパでも販売され、特にスウェーデンでブレイクします。そして、今や日本でも人気を博す商品となりました。
続いて木内酒造の谷氏が、どのような経緯で「ソラチエース」を使用した常陸野ネストビールの「ニッポニア」が誕生したのか、開発者であるサッポロビールも知らなかった「ソラチエースの空白の時間」について語ってくれました。
「ソラチエース」を木内酒造に紹介したのは、ブルックリン・ブルワリーのギャレット氏。両社の出会いは1999年にまで遡ります。木内酒造は自社のビールを輸出して、アメリカのブルックリン地区のレストランで提供できるように準備を進めていました。当時、ブルックリン・ブルワリーはニューヨーク地域でビールの卸売りを行う問屋のような業務も担っていたため、両社はビジネスパートナーとして関係を築いていきます。
その後、日本のある企業が「ブルックリン」をテーマにした飲食店を日本で開店させるという話が浮上。木内酒造は、ブルックリン・ブルワリーの「ブルックリンラガー(同社の人気定番ビール)」をその店で提供したいと考え、日本国内で同ビールが醸造できるようにライセンス契約を提案します。それが受け入れられ、2010年から日本国内の「樽生のブルックリンラガー」を木内酒造で生産することになりました。
ブルックリン・ブルワリーは、木内酒造で委託生産する上でレシピや水質を含めた醸造環境や品質を確認するために、本国の醸造責任者であるギャレット氏を日本に派遣します。そして、ギャレット氏が来日した際に、面白いホップがあると偶然紹介したのが「ソラチエース」のホップだったのです。
日本では、ビールの原材料のほとんどを輸入に頼っています。木内酒造も例外ではありませんが、ギャレット氏が「ソラチエース」を持参した時、谷氏は国産ビール麦の原種「金子ゴールデン」を使用したビールレシピを開発中でした。日本らしいビールが造れないか取り組んでいたその最中に「ソラチエース」の存在を知り、偶然に組み合わせたら素晴らしいビールのハーモニーが誕生。こうしてブルックリン・ブルワリーから木内酒造へと「ソラチエース」のバトンが繋がっていきます。
そしてついに「ソラチエース」は古巣のサッポロビールに戻ってきます。2014年に同社の新井健司氏がドイツにビール留学した際に、自社が開発したホップ「ソラチエース」が海外で人気を博していることを知ります。新井氏は「ソラチエースは、海外で流行るくらいだから、可能性のあるホップに違いない。日本生まれなのに、日本で楽しめないのはおかしい」と考え、日本でも同ホップを使用したビールを造りたいと様々な人を説得します。「日本で多くの人に気軽に飲んでもらいたい」と願い醸造したのが、昨年発売した「SORACHI1984」です。
日本で生まれたホップであるのに、日本人が全く知らない間に世界で有名になっていたホップ。35年の時を経て、生みの親であるサッポロビールから待望のソラチエースを100%使用したビール「SORACHI1984」が発売されました。
今後の目標は、国産ソラチエースを100%使用した「SORACHI1984」を販売すること。現在は、使用しているホップのほとんどがアメリカ産ですが、今年の7月に日本国内での生産量を拡大するために故郷である上富良野町で新たに栽培を開始しました。
「ソラチエース」は、このホップに関わる人の想いと偶然が重なり、数々の困難を乗り越えて「伝説のホップ」として日本に帰ってきました。36年目を迎える「ソラチエース」は人間で言えばこれから益々脂が乗ってくる時期。今後同ホップを使用したビールが増えて、日本のオリジナルスタイルとして受け入れられると、ビールがもっと楽しくなるはずです。
各社のビールの特徴とオススメのペアリングとは?
ソラチエースの36年の歴史を振り返った後は、ビールの特徴とオススメの料理とのペアリングを紹介します。ソラチエースの良さを引き出すことができるペアリングは必見です!
■「SORACHI1984(サッポロビール)」
ソラチエースを100%使用したゴールデンエール(アルコール度数5.5%)。杉やヒノキ、レモングラスを感じる「凛とした香りと味わい」で、お客様からは、「王道だけど個性的な味わい」 つまり、飲んだことがない味だけど、大手メーカーらしい飲みやすさ。爽やかな飲み口で何杯も飲みたくなるビールであると共感を得ています。
ペアリングは、マンゴーやクリームチーズ、お刺身、ジンギスカンと合わせるのがおすすめです。(サッポロビール 新井氏より)
■「ブルックリン ソラチエース(ブルックリンブルワリー・ジャパン)」
ソラチエースを使用したセゾンスタイルのエールビール(アルコール度数7%)。柑橘系の香り、レモングラスやレモン、ハーブでディルを思わせる味わいがあります。複雑なフルーツの香りがするので、飲むとフルーツレモンのような味わいが。
魚料理やお寿司にもよく合います。ハーブの爽やかな風味が、タイ料理やカレーにもマッチするので、ぜひ試していただきたい。(ブルックリンブルワリー・ジャパン 山田氏より)
■「常陸野ネストビール ニッポニア(木内酒造)」
ソラチエースと日本のビール麦の原種といわれる「金子ゴールデン」を使用したベルジャンスタイルゴールデンエール(アルコール度数8%)。「金子ゴールデン」は、100年前のビール麦の品種。今の麦との違いは、非常に高タンパクである点。
味や香りが濃厚で、レモンのようなホップの香りとフェノール香(ピートの爽やかな香りが強い、燻製のような匂い)の相乗効果でインパクトのあるビールに仕上がっています。
デザートビールとして、チョコレートやナッツと一緒に食べると美味しいです。(木内酒造 谷氏より)
同じホップを使用しても、造り手の想像力で味が全く異なるのがビールの面白いところ。これをきっかけに「ホップ」でビールを選ぶ楽しさを味わってみてはいかがでしょうか?
3回目の誕生祭は?
トークショーの後の質疑応答で、「お互いコラボするならどんなことがやりたいか?」という質問がありました。
「一緒に同じコンセプトでビールを造ってみる、お店を運営してみる、今後伝説になるようなホップを3社がそれぞれ使ってビールを造ってみる」など、三者三様で楽しい発想が次から次へと紹介されました。
会社は違っても、ビールを心から愛していて、業界全体で盛り上げていこうという姿勢が強く感じられた今回の誕生祭。来年はさらにビールが楽しくなるイベントの開催が期待できそうです。
まずは、今年のソラチエースのビールを思う存分堪能して、ホップでビールを選ぶ楽しさを体感してみてください。
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。