麦酒婆ビアバーの泡話バブルストーリーNo.2 「ハートランド」
麦酒婆ビアバーの泡話バブルストーリーNo.2 「ハートランド」
テレビ番組がきっかけで生まれた
キリン表記のないキリンのビール
<1986年~>
◆ 蔦の絡まる洋館がバブルの六本木に登場
日本中がバブル真っ只中の時代、六本木にはプリンスホテルができ、ディスコが乱立、そして六本木アークヒルズができた1986年、霞町寄りの六本木トンネルに近い静かな地域にできたのがハートランドをハウスビールにしたお店です。10月にビアバー「穴ぐら」、11月にビアレストラン「つた館」がオープンしました。どちらもキリンが発売したハートランドビールの直営店でした。
ビール専門の飲食店といえば、ドイツ風ビアホールというイメージしかなかった当時、音楽イベントなどもできる設備の整った「穴ぐら」に、大正時代にドイツ人が設計したというつたのからまるシックな洋館をレストランにした「つた館」はトレンディスポットでもありました。
定期的にライブも行われていて、私も大学の音楽サークルのOB会や音楽イベントで行った記憶があります。ハートランドビールを飲みながら、いい音楽を聴いたり、アートを楽しむことができる空間。一軒家スタイルも落ち着いた内装も素敵で、Tシャツ・Gパンでは絶対入りにくい雰囲気でした。これまでになかったビールが主役のいわゆる「シャレオツ」な場所です。
まだ昔のテレ朝通りにテレビ朝日がある頃、西麻布から霞町は落ち着いた大人向けレストランなどが多い地域に、落ち着いてビールを飲むという新しい楽しみ方が生まれたというイメージでした。その後、1990年に閉店し、六本木ヒルズが完成するとヒルズ内に「Hartland」というバーとして再開され、2014年に閉店しています。
◆ 「素」をコンセプトにしたアロマホップ100%ビール
ハートランドビールは、テレビ朝日で放送された「愛川欽也の探検レストラン」というキリンがスポンサーだった番組から生まれたビールです。当初はテレビ朝日直営の「たべたか樓」というレストランでのみ飲むことができる、ハウスビールとして醸造されました。
ちなみにこの番組の企画で生まれたものの一つに、小淵沢の駅弁「元気甲斐」があります。東京の料亭も加わって商品開発した当時は珍しい2段弁当。開発の過程も放送していたのをよく覚えています。(もちろん小淵沢に行って購入、美味しく食べた記憶も鮮明に残っています)この駅弁もハートランド同様、今でも販売されていて、テレビ番組が企画、販売した商品がこんなに長く残っているのはすごいですね。
ハートランドは、キリンビールによると「素」(モノ本来の価値の発見)をコンセプトにした、「キリン」という表記のないキリンのビールです。シンプルで流行に左右されない、まるで「無印良品」のようなビールだと私は思っています。また、テレビから生まれたビールとして、当初は「たべたか樓」というテレビ朝日直営店での提供から始まったこともあり、コミュニケーションというキーワードも掲げられ、小さくてもコアなファンを作り、共感型で輪を広げていくというコンセプトのビールでもあります。今のクラフトビールの流れにも似ている気がします。
ネックラウンドラベルだけで、エンボスでハートランドという名前と、木をあしらったデザインが刻印された少し首の長いグリーンの瓶。ニューヨーク沖合の沈没船から発見されるグリーンのラベルのないエンボス瓶をヒントに考えられ、ロゴデザインは、レイ吉村氏。ニューヨークの画家、ラジャー・ネルソン氏の描いたイリノイ州の穀倉地帯の風景(アメリカでハートランドというと、中西部の農園のイメージ)をもとにデザインされたそうです。
1987〜1991年にはシルバーの缶にグリーン1色でプリントされた缶も発売されていました。
モルト100%、アロマホップ100%使用の個性的ではないけれどエレガントな味わいのビールは、今も根強い人気です。また、1988年11月には上面発酵のハートランドアルトビールも神奈川限定で発売されたことがあります。
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