次世代のクラフトビールを日本から発信していきたい!【CRAFT X 1周年記念インタビュー】
テクノロジーを活用して日本のものづくりの魅力を世界に発信していくことを目的にスタートしたMOON-X株式会社のクラフトビールCRAFT X。クラフトビール業界では珍しいサブスクリプションを採用したことも話題になった。フラッグシップであるクリスタルIPAの販売を開始して1年が経過し、今何を思うのか。長谷川晋CEOに話を聞いた。
目次
■心を開いて話し合うことで、お客様に寄り添ったビールを提供できた
「初めてのクラフトビール事業でしたが、お客様からいただいたフィードバックを元にコラボレーションした木内酒造さん、宮崎ひでじビールさんと取り組み、CRAFT X総計で約5万本飲んでもらえたことを嬉しく思っています」
販売開始から1年を長谷川さんに振り返ってもらうと、このように話す。
フラッグシップであるクリスタルIPAは、常陸野ネストビールで知られる木内酒造とコラボレーションをしたビール。顧客からの反応を商品開発に生かしており、販売開始から1年で2回のリニューアルを行った。
「リニューアルは計画通り」というが、明確な時期や回数は決めていなかったという。木内酒造と慎重に議論を重ねて、1年という期間に2回リニューアルできたのは「大きな成果」だと長谷川さんは話す。
大きな成果を上げるために意識していることはあるのだろうか。
「意識していることは、すべてをオープンにすること。本音を隠した状態でコミュニケーションをとっても良いものはできません。お客様からのフィードバックもすべて見てもらっています。内容としてはネガティブなものもあります。そうした部分を隠すのではなく、しっかり伝えることで良い関係が築けるのだと思います」
良いものづくりをしていくためには、お互いを信頼し合うことが重要だと長谷川さん。お客さんに喜んでもらうビールを造るために腹を割って話し合うことで、クリスタルIPAを進化させてきた。
■スピードをもって顧客の声に応える商品やブランドを進化させていく
お互いを信頼し合えたからこそ、次の展開も早かった。プロトタイプ販売時には、「クリスタルIPAの形をしっかりつくりたい」と話していたが、2020年3月にヘイジームーンIPAを、同年6月には宮崎ひでじビールとコラボレーションした日向夏セゾンを季節限定で販売した。
販売当初とは異なる展開。これについて長谷川さんは次のように話す。
「プロトタイプを販売したときは、そう考えていましたが、販売後にお客様から『ヘイジーIPAを飲んでみたい』『季節にあったビールを造ってほしい』というフィードバックがありました。DtoC(Direct to Consumerの略。メーカーが企画や製造した商品を自社のECサイトを用いて直接消費者に販売する仕組み)らしくお客様の声を生かしていくため、早い展開で新商品を販売することにしました」
顧客からの反応を元に開発されたのが、ヘイジームーンIPAと日向夏セゾン。この2つのビールはクリスタルIPAがあったからこそ得られたものだ。木で例えるならクリスタルIPAは幹。ヘイジームーンIPAと日向夏セゾンは、幹から枝分かれした商品であって、流行りに乗るために開発した商品ではないのだ。
この早い対応こそ、スタートアップ企業の特徴だろう。
「早く動けているのは、会社としてスピード感を大事にしているからだと思います。いかに良いものを早く構築できるか。失敗するにしても早い段階で失敗することで、違う視点を取り入れて挑戦する。そうした姿勢でいるから早く動いている印象をもっていただけているのではないでしょうか。
でも、早く動いて変えていくだけが正解ではありません。変えずに継続していくことも素晴らしいことです。色々な視点があって、そのときに合わせた方法を選択できることが大切だと思います」
状況に応じて、適切な方法を選択できるかが重要だと長谷川さん。それができるからこそ短期間で2回のリニューアルを可能にしたと感じた。
話が脱線するが、好評だったヘイジームーンIPAが期間限定で再販をしている。今回は使用するホップを変更。フルーティーなシトラス系の香りで爽やかな風味を実現している。ヘイジーIPAが好きな方は飲んでみてはいかがだろうか。
■やることはシンプル。良いところを加速的に伸ばし、課題は修正する
顧客からのフィードバックをブルワリーと共有してビールを開発してきたMOON-X株式会社。しかし、予想通りに行かず、悩んだところもあったという。
「やはり新型コロナウイルスの影響は大きいですね。当社では1月に開催した試飲会のようにお客様とのタッチポイント(直接、触れ合う機会)を増やす計画でした。春以降は、直接お客様とコミュニケーションをとる機会が失われてしまったことは残念でした」
クリスタルIPAと飲み手の接点は、オンラインショップが中心である。自分たちの存在を広く知ってもらうためには、飲み手との接点をつくる必要がある。現在はクリスタルIPAを飲んでもらい、良さを知ってもらうことで購入につなげるという流れを作ることが難しい状況だという。
その対策として楽天市場にショップをオープン。飲み手の目に触れる機会を増やすことで、CRAFT Xの認知度を高める取り組みを行っている。
他の課題についても聞いてみた。
「1年やってきて手応えがあった部分を、いかに加速して続けていけるか。また、課題を修正していけるかですね。クリスタルIPAで言えば、たくさんの方から届いたフィードバックを木内酒造さんと向き合いながら継続して進化させていかないといけないと考えています」
良い点はスピードをもって伸ばし続けて、課題は修正する。成長に向けてやることはシンプルだと長谷川さんは話す。
■クラフトビールコミュニティにいる人たちと次世代のクラフトビールの魅力を世界に発信していきたい
最後に今後について聞いてみた。
「CRAFT Xの『X』はNEXTから取っています。次世代のクラフトビールの魅力をクラフトビールコミュニティの皆さんと一緒に探して、その魅力を世界に発信して日本のクラフトビールの素晴らしさを世界中に知ってもらいたいですね」
長谷川さんの言う次世代のクラフトビールの魅力。それを実現するための要素を3つ挙げる。
「1つ目がテクノロジーの活用。テクノロジーを活用して発信してフィードバックをもらい、届いた内容を素早く商品に反映させることです。
2つ目はクラフトビールを知っている層の拡大。深く知っている人だけではなくて、ライト層と呼ばれる人たちなど幅広く知ってもらう必要があります。自分がアメリカでIPAを飲んで感動した体験を、クラフトビールを知らない人たちにも知ってほしいです。
3つ目がグローバルにおける日本のクラフトビールの存在感を大きくすることです。ビールと言うと海外のものというイメージが強いです。サードウェーブが日本から生まれたら、とてもエキサイティングなことだと思います。これは私たちだけでは実現できません。業界全体で築き上げていかなければなりません」
テクノロジーの活用、クラフトビールの認知度拡大。そのためにブルワリー、料飲店、ビールファンなど「ビールコミュニティの人たちと一緒に魅力を伝えていきたい」と長谷川さん。
クラフトビールの業界では、まだテクノロジーを活用できていないところもある。上手に利用することでクラフトビールの魅力や認知度が拡大していくのではないだろうか。
CRAFT Xがどのように業界に関わっていくのか。2年目の挑戦が始まっている。
MOON-X株式会社 Data
※2020.12.7 一部加筆しました。
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。