[イベント]2010.11.15

自分自身が「飲みたい!」ビール

先週、日本のビール環境に関して「世界との差は縮まっていない。むしろ離されつつある」と書いた。
具体的にはなぜ「離されつつある」と感じるのか?

この15年、日本のクラフトビール界はがんばったと思う。切磋琢磨し良いビールを造る技術を身につけた。今、日本のクラフトビールは綺麗で美しくなった。
これはこの15年、絵画で言えば基礎的なデッサンや模写が出来るようになったということだと思う。正確に美しい絵を描けるようになった。
そして、次にしなければならないことは何なのか?
それは自分自身の絵を描くことだろう。
自分自身が「描きたい!」、自分自身が「飲みたい! 造りたい!」というビールを造ることである。

アメリカではウッド&バレル・エイジド・ビール(木樽熟成ビール)、さらにはそこからウッド&バレル・エイジド・サワービールが出来たり、アメリカン・ベルゴスタイル・エール(アメリカで造られるベルギースタイルエール)などのスタイルが生まれている。
ヨーロッパでは、ベルギーのランビック(自然発酵ビール)にドライホッピングするイタリアのブルワーやビールをワイン樽に詰めて熟成させたりビールに塩を加えるスイスのブルワーもいる。
これらは、ブリュワーがスタイルガイドラインを越えて「造りたい!」というビールを造り、それが多くのファンに受け入れられたからである。そして、他のメーカーも造りたいと感じ銘柄が増えればスタイルとして独立するわけだ。
もちろん、すべての絵がアバンギャルドでなければならないということではない。今もなお延々と古典的な絵画を描き続ける現代の巨匠もいる。そしてそれは楽しみにしているファンもいる。しかし、そこに描かれるモチーフや世界観は現代を映す鏡となっていなければならない。そうでなければ、人気も一過性のもにしかなりえない。

世界は新たなビール造りにトライしている。新たな走法を得てどんどん先に走っている。旧態依然とした走法では、距離は縮められない。
日本のクラフトビールの次のステップは「自分自身の絵を描く」ことであり、「自分自身の走法を手に入れる」ことである。そうすれば先頭集団との距離は縮み、追いつき、抜き去ることも不可能ではない。
日本から新たなビアスタイルが生まれるのを見てみたい。

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

(一社)日本ビアジャーナリスト協会 発信メディア一覧

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この記事を書いたひと

藤原 ヒロユキ

ビール評論家・イラストレーター

ビアジャーナリスト・ビール評論家・イラストレーター

1958年、大阪生まれ。大阪教育大学卒業後、中学教員を経てフリーのイラストレーターに。ビールを中心とした食文化に造詣が深く、一般社団法人日本ビアジャーナリスト協会代表として各種メディアで活躍中。ビールに関する各種資格を取得、国際ビアジャッジとしてワールドビアカップ、グレートアメリカンビアフェスティバル、チェコ・ターボルビアフェスなどの審査員も務める。ビアジャーナリストアカデミー学長。著書「知識ゼロからのビール入門」(幻冬舎刊)は台湾でも翻訳・出版されたベストセラー。近著「BEER HAND BOOK」(ステレオサウンド刊)、「ビールはゆっくり飲みなさい」(日経出版社)が大好評発売中。

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