クラフトビール市場の活性化を。キリンビール“第三の柱”「SPRING VALLEY 豊潤<496>」
2015年2月、キリンビールのクラフトビール事業として産声を上げた「スプリングバレーブルワリー(以下、SVB)」のフラッグシップビール「496」。同銘柄とコンセプトを同じくした新商品「SPRING VALLEY 豊潤<496>」が、キリンビールの新たな主力缶商品として3月23日(月)より全国発売を開始します。同社の新しいクラフトビールブランドを背負って立つ、キリンビール新戦略の柱のひとつであることが発表されました。
目次
「SPRING VALLEY 豊潤<496>」
原材料:麦芽、ホップ(4種類)
アルコール度数:6%
缶容量:350ml/500ml
希望小売価格:350ml 273円/500ml 363円(税込)
製造工場:キリンビール横浜工場/取手工場/滋賀工場
3月1日(月)からは、缶商品に先行してSVB直営3店舗(東京・横浜・京都)と「Tap Marché(タップ・ マルシェ)」導入店での提供も開始。併せて、SVB店舗やキリン公式オンラインショップ「DRINX」で提供されるブランドロゴも変更されます。
2月26日に発表された内容を速報として、「SPRING VALLEY 豊潤<496>」と既存の「496(以下、『オリジナル496』)」との違いや、クラフトビール市場におけるキリンビールの狙いなどをお伝えします。
多くの人に受け入れられやすいマイルドな苦味
発表会直前に届いた「SPRING VALLEY 豊潤<496>」を発表前にテイスティングしてみました。オリジナル496と同じ形の専用グラスにビールを注ぐ最中から香りが立ちのぼります。注ぎ終わってから改めて嗅いでみると、オリジナル496に感じていたホップの香りというよりは、酵母由来のエステル香と思しき甘い香りが印象に残りました。
ビールはマイルドな甘味と苦味が渾然となって舌全体を包みます。飲んでいる最中にはホップの香りも苦味も突出してはいないのですが、飲み終わった後には、いずれも柔らかな余韻としてホップの存在を感じることができました。
オリジナル496はアメリカンホップ「ブラボー」の特徴を前面に出していたのに対し、「SPRING VALLEY 豊潤<496>」はそれに比べると穏やか・まろやかな印象があります。というのも、同ビールの開発責任者であるマスタ―ブリュワーの田山智広さんによると、「SPRING VALLEY 豊潤<496>」はオリジナル496の延長線上にある、という位置付けではないからです。
「完全数である496をモチーフに『高度に調和した完璧なバランス』をコンセプトとしている点は、『SPRING VALLEY 豊潤<496>』もオリジナル496も一緒です。ですが、『SPRING VALLEY 豊潤<496>』は味の組み立てや製法をほぼゼロベースから見直しました」(田山さん)
酵母とホップを同時に漬ける「ディップホップ製法」のメリット
「SPRING VALLEY 豊潤<496>」が醸造法でオリジナル496と大きく異なるのは、煮沸中にホップを投入する「レイトホップ」に加え、発酵過程で酵母とホップを同時に投入し、7日間漬け込む「ディップホップ製法」を採用した点だといいます。
酵母とホップを同じタイミングで入れる大きな狙いは「苦味を取り除くこと」。発酵が終わった酵母はタンクの外に取り出されますが、その際、酵母に付着したホップ由来の雑味、苦味、辛味や、強すぎる・疎水性の高い香り成分も一緒に取り除かれます。そうすることで苦味は澄んだものとなり、穏やかながらもしっかり香りの残るビールを造ることが可能になるのです。
「オリジナル496は、ブラボーホップの強い芳香を生かしており、アルコール度数も6.5%と少々高めでバランスをとっています。その個性は好みが分かれるところですが、『SPRING VALLEY 豊潤<496>』は、多くの方に気に入ってもらうことが目的。強い個性というよりは、“安心できるビールど真ん中”のおいしい要素を中心に据えたバランスのとり方を目指しました」(田山さん)
「『SPRING VALLEY 豊潤<496>』はオールマイティで食事に合わせやすい」とマーケティング担当の吉野桜子さん。「ローストしたお肉やピザ・クラッカーなどの穀物、マヨネーズやチーズなどの乳製品などが特におすすめです。甘味のあるバーベキューソースやトマトソース、甘めに味付けしたお肉料理や、バスクチーズケーキのようなスイーツとの相性もいいですね」(吉野さん)
「プレミアムビール」と「クラフトビール」に対する意識の違い
今回はキリンビールの新戦略として、第一の柱を主力製品の「一番搾り」、第二は「本麒麟」、そして「クラフトビール事業」を第三の柱として展開していくことが発表されました。「キリンビールでは、『プレミアムビール』でなく『クラフトビール』で高付加価値に応えようという想いがある」と、吉野さんと田山さんは同社が「プレミアム」でなく「クラフト」という言葉を使う狙いについても言及しています。
「現在のビールラインアップの中で一番おいしいものを、という考え方でなく、ビールの楽しさを改めて知ってほしい。クラフトビールを通して『ビールってこんなにおいしかったんだ』と改めてビールの魅力化をすすめるのが、私たちの夢であり目的です」(吉野さん)
「『クラフトビール』という言葉に正確な定義はありません。キリンでは「スプリングバレーというブランドに込められた150年にわたるストーリー、先人の志、魂を受け継いだ醸造家の想い、それらを具現化したおいしさを味わってもらうことを『クラフトビール』と考えます」(田山さん)
「SPRING VALLEY 豊潤<496>」は、現行のクラフトビールカテゴリーにあるブランド「ブルックリン・ブルワリー」「グランドキリン」らに新しいシリーズとして加わる形になります。これらの差別化はどのように考えているのでしょうか。
「まず『ブルックリン・ブルワリー』は、家庭用や飲食店での展開をしながらも、クラフトビールファンはもちろん、感度の高い方へのアプローチをしています。『グランドキリン』は、クラフトビールの多様性を押し出したシリーズ。たとえばビアスタイルの名前やホップの名前を前面に出すことで、選ぶ楽しさを体験していただいています。
『SPRING VALLEY 豊潤<496>』は、「クラフトビール醸造所」を前面に出したブランド。『グランドキリン』はコンビニやスーパーで気軽に買えるクラフトビールとしてビールファンに支持されていますが、クラフトビールを自宅で飲まない人への認知度を上げたいという課題がありました。『SPRING VALLEY 豊潤<496>』で、広い層をカバーする狙いがあります」(キリンビール 広報部 菅原光湖さん)
1%に満たない国内クラフトビールシェアを、将来的には5%にしたい
国内のビール市場におけるクラフトビールシェアは0.9%(2020年・キリンビール推定)。「『SPRING VALLEY 豊潤<496>の発売で1.4%の規模になります。今後は3%、長期的には5%に持っていきたい。その中で、量販マーケットで手に取りやすい『SPRING VALLEY 豊潤<496>』で家庭でのクラフトビール体験につなげたい考えです」(キリンビール 布施孝之 社長)。
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「SPRING VALLEY 豊潤<496>」の発売後も、オリジナル496を含むSVBの定番ラインアップは直営店3店舗と公式オンラインショップ「DRINX」で引き続き販売されます(*)が、「タップ・マルシェ」用3Lペットボトルでのオリジナル496取り扱いは終了します。
*「Copeland」は終売
3月1日には、SVB3店舗がリニューアルオープン。新しいブランドロゴとともに、ビールの飲み比べが楽しめる「ビアフライト」が「SPRING VALLEY BEER FLIGHT」としてこちらもリニューアル。「SPRING VALLEY豊潤<496>」に合わせた3種類のフードペアリングが楽しめるタパスセットも登場します。
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コロナ禍によってビールを愛飲する人々の環境や行動が大きく変わり、ビールに求められるものにも変化が生じてきたと、筆者も肌で感じています。そんな中での「SPRING VALLEY 豊潤<496>」の登場が、クラフトビール市場のさらなる活性化を担う存在になってほしいと願っています。
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。