ビールは超高級品だった!明治時代は1本6,000円!?
目次
あなたにとってビールはどんな存在ですか?
仕事終わりに会社の仲間と乾杯する1杯。
自宅でゆったり自分の時間を楽しむ晩酌の1本。
休日に家族でピクニックへ出かけて、芝生の上で飲む1本。
私たちのホッとしたい日常にビールがあるとちょっと嬉しいですよね。
今では大人なら誰でも買うことのできる瓶ビールや缶ビールですが、実はこんなに手軽に楽しめるようになったのは1960年頃からのお話なのです。
それより前はビールはとても高級品でした。
今回は、ビールが日本に入ってきた江戸時代から、現在までの瓶ビールと缶ビールの値段の推移とともに、当時の代表ブランドを見てみたいと思います。
江戸〜明治のビール事情
日本にビールがやってきたのは江戸時代。初めてビールが日本の文献に登場するのは享保9年(1724年)発行の「阿蘭陀(おらんだ)問答」です。
「殊外悪敷物(ことのほかあしきもの)にて何のあちはひも無御座候(ござなくそうろう) 、名はヒイルと申候(もうしそうろう)。」
【現代語訳:思ったよりおいしくなく、何の味わいもない。名前はビールというらしい。】
と否定的に書かれています。
私たちも初めてビールを飲んだ時は
「うわ、苦いなぁ!」
と驚いた人も多いのではないでしょうか。当時の人々もきっと同じ感覚だったんですね。
明治維新によって海外ビールが輸入される
その後は明治維新が起こり、欧米文化とともに多くの海外ビールが日本に輸入されます。現1万円札の顔である福沢諭吉は慶応3年(1867年)発行の「西洋衣食住」で
「其味(そのあじ)至って苦けれど胸隔(きょうかく)を開くために妙なり。」
【現代語訳:その味は苦いけど、(相手と)腹を割って話せるので不思議だ。】
と記しています。「胸隔を開く」とは腹を割って話すという意味です。
福澤諭吉
150年以上前からビールは現代と変わらず、一緒に飲む相手と腹を割って話すことができるコミュニケーションツールになってたんですね。
明治時代の国内ビールの価値
明治時代から日本でもビールの製造が始まりましたが、当時のビールは非常に高級品でした。
かけそば、かけうどんが5厘∼1銭だった時代にビールの大瓶1本は16銭で、今の金額に換算すると約6,000円もしました。
現代でいうとシャンパンくらいでしょうか。庶民には簡単に手が出せませんね。よって、当時は軍人や実業家などお金持ちの飲み物となっていました。
▼当時発売されていた主なビール(明治時代)
明治10年(1877年)発売の「冷製」札幌ビールのラベル
発売元:開拓使麦酒醸造所
出典:歴史紹介|サッポロビール
明治21年(1888年)発売のキリンビールのラベル※瓶は復刻版
発売元:ジャパン・ブルワリー・カンパニー
明治23年(1890年)発売の恵比寿ビールのラベル
発売元:日本麦酒醸造会社
発売元:大阪麦酒会社
そんな中、「日本人とビールの距離を縮めよう」という目標に向けて、当時のビール会社による挑戦が始まります。
明治32年(1899年)には銀座でビール1杯10銭(現代の約1,500円)で飲めるビヤホールが誕生し、多くの庶民がビールの味を体験できるようになります。
大正〜昭和(戦時中)のビール事情
大正時代の中頃には技術の進歩による生産量の増加で、大瓶1本30銭(現代の約1,200円)となります。ビールは装置産業と言われ、大きな設備で生産量が増えれば増えるほど、1本あたりの生産コストが下がります。
▼当時発売されていたビール(大正時代)
大正6年(1917年)のサクラビールのポスター
発売元:帝国麦酒
当時のカブトビールのポスター
発売元:日本麦酒鉱泉株式会社
出典:半田市/カブトビール
失われるビールブランド
昭和に入ると戦争の色が濃くなるにつれて、物資の軍需優先使用に伴う物不足により、ビールも配給制になります。
その際に、全国で最寄りのビール工場から製品を輸送しガソリン代を節約する目的でビールの銘柄が廃止され、「麦酒」という統一ラベルになりました。
当時の人々は自分の好きな銘柄のビールを飲むことが叶わなくなり、この状況は終戦まで続きました。
昭和18年(1943年)戦時中の家庭用ビールラベル
昭和(戦後)〜平成のビール事情
戦争が終わり、昭和30年代に電気冷蔵庫が登場すると、ビールを冷やして多くの家庭で飲まれるようになりました。
日本初の缶ビールが発売
昭和33年(1958年)にはアサヒビールから日本で初めての缶ビールが75円で発売しました。
缶の容量は大瓶633mlの半分ちょっとで、現在と同じ1缶350mlです。大瓶1本の値段は125円(現代の約1,000円)でした。
▼この時代に発売した缶ビール(昭和30年〜40年代)
昭和33年(1958年)発売 缶のアサヒゴールドの広告
昭和34年(1959年)発売 缶のサッポロラガービール
出典:歴史紹介|サッポロビール
昭和35年(1960年)発売 缶のキリンラガービール
昭和42年(1968年)発売 缶のサントリー純生(左)
昭和46年(1971年)には1缶95円(大瓶1本180円)
昭和55年(1980年)に1缶170円(大瓶1本240円)
と経済の成長と生産技術の向上によって、ビールもより現代の価格に近づいていきました。昭和50年時点ではかけそば・うどん1杯よりもビール大瓶1本の値段が安くなってます。この値段だとだんだん手に入れやすい価格帯になってきますね。
平成に入り、平成6年(1994年)にビールより値段が安い発泡酒が誕生。
2000年以降の酒販免許の緩和で、以前はお酒屋さんでしか買えなかったビールもスーパーやコンビニで買えるようになり、平成15年(2003年)には、発泡酒よりもさらに値段が安い新ジャンル(第三のビール)も登場しました。
そして令和の現在とこれから、ビールはもっと身近な存在に
このようにビールは様々な時代の移り変わりとともに、人々の知恵と挑戦があり、令和の現在まで飲み継がれてきました。
今でも各ビール会社は、「日本人(現在は海外も含め)とビールの距離を縮めよう」という明治時代からの挑戦を日々考えて、試行錯誤を繰り返しています。
市場としても昨年の酒税改定で、ビールの値段が下がり、今後も2023年、2026年と段階的に酒税が改定され、ビールの値段が下がっていく見込みです。
そういう意味ではまだまだこの挑戦は現在進行形なのかもしれません。
現在はスーパーなどでビール1本200円前後~買える時代になり、昔よりも私たちの生活において身近な存在になっています。
昔の人にとっては、あこがれの高級品だったビール。100年前の時代に思いを馳せながら、今夜のいつもの1本をいつもよりもちょっと味わって飲んでみてはいかがでしょうか。
【参考文献】
総務省小売物価統計調査
朝日新聞「値段史年表」
大日本麦酒三十年史
サッポロビール120年史
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。