【TOSACO】コロナ禍にビールで豊かな食卓を【四国麦酒遍路 第5番泡所】
今回の泡所、TOSACOビールを製造販売する高知カンパーニュブルワリー(代表:瀬戸口信弥氏、以下、瀬戸口さん)は、高知市内から車で30分、ベッドタウンが広がる起伏の無い穏やかな香美市土佐山田地区の市街地に2017年に誕生しました。
※ブルワリー詳細は、日本ビアジャーナリスト協会の2019年の記事参照(https://www.jbja.jp/archives/26763)
日本屈指の降水量と日照時間を誇る高知県は野菜や果実などの農産物に溢れています。
東西に長く伸びる香美市は高知県の市で唯一海に接しておらず、その多くの市域が山岳地帯ですが、農産物の生産は盛んな土地柄。瀬戸口さんは、そんな地元の山の幸である良質な柚子や、高知県内の豊富な特産物 (スパイス、ハーブ、フルーツなど) を使い、地域に根差した個性的で瑞々しいビールを醸してきました。
高知カンパーニュブルワリーは『石見式』という名前の一風変わった設備を使用しています。クラフトビールにハマった人なら聞いたことがあるかもしれません。初期投資を非常に低く抑えられる画期的な醸造設備の通称です。
瀬戸口さんが起業前にビール醸造の研修場所に選んだのは、島根県江津市にある石見麦酒。その代表山口氏が考案した、ビニールと冷蔵庫を使った小規模(150L)の発酵システムは、参入障壁が低い反面、良質なビールを醸し出すのは中々に大変。瀬戸口さんは、その特性と日々奮闘しながら、品質の向上と安定に取り組んできました。
そしてついに、ビールの審査会、ジャパン・グレートビア・アワーズ2019において「和醸ケルシュ」が金賞を、インターナショナル・ビアカップ2019において「こめホワイトエール」が銀賞を受賞します。更に、コロナ禍の中、ジャパン・グレートビア・アワーズ2021 ハーブおよびスパイスビール部門で「かやの森ヘイジーエール」が再び金賞を受賞したのです。
コロナ禍の逆風を推進力に
コロナ禍の中、見事石見式で二度目の金賞を受賞したTOSACOビール。
その誕生は、勿論日々研鑽を重ねてきた醸造技術が活かされているのは間違いありませんが、他に何か受賞の秘訣のようなものがありますか?と訊ねると、瀬戸口さんの口から意外な言葉が出てきました。
「コロナ禍の向かい風の中で必死に前に進んだおかげでもあります」
2018年4月の初出荷から2年、順調に成長してきたブルワリーに昨年予期せぬ災厄が襲いかかります。今も世界で猛威を振るう新型コロナウイルスです。
人々の生活は一変し、特に飲食観光業界は枷をはめられ、真綿で首を絞められるように活動を抑制されています。気がつけばお酒や飲み手までが悪者となり、日本のブルワリーも大きな痛手を受け、今尚苦しんでいます。
TOSACOビールにとっても例外ではなく、2020年3月~5月には出荷高が前年比50%以下に落ち込み、かなりのダメージを受けたとのこと。
しかし、ピンチはチャンス。
瀬戸口さんはこの機会にもう一度原点に立ち返り、地元に目を向けることに再度ギアを上げて注力したのです。
元々県内には素晴らしいビールの素材が沢山あります。少量多品種に強い石見式の特性を生かし、矢継ぎ早に地域限定のコラボレーションを仕掛けます。四万十ぶしゅかん(四万十市)、日高村フルーツトマト(日高村)、ブランド米「土佐天空の郷」(本山町農業公社)、中土佐町特産のいちご(道の駅なかとさ)など、限定を強みに成果を挙げていきます。
そんな折動き出したのが、榧(かや)とのコラボレーション。そうです、新たな金賞ビールの種が発芽したのです。
榧(かや)って何?
榧は、高さ25m、直径2m程まで育ち、寿命は1000年にも及ぶイチイ科の常緑針葉高木。
直径1.1mの成木になるのに300年を要するほど成長の遅い榧の木は、硬く弾力のある材質、美しい照りと紋様、虫除けにもなる芳香、耐朽性・保存性の高さから、碁盤、まな板、箸、家具、線香などに高級木材として活用されてきました。しかし、その長い生育期間から植樹が進まず、我が国の榧は絶滅の危機に瀕しているとのこと。
そんな榧に成る実との出会いは、老舗の酒屋さんが切っ掛けでした。
強い思いが繋げる縁
『鬼田酒店』
酒処土佐の地酒や各地の選りすぐりの日本酒、焼酎、ワインを扱う老舗の酒販店。TOSACOビールも積極的に取り扱っていました。ある時、店主の鬼田さんと瀬戸口さんがビールの話をしていた時、榧の実というキーワードが出たそうです。実は、鬼田酒店のすぐ近くに『高知前川種苗』という大きな園芸店があり、そこが運営する榧工房かやの森と縁があった鬼田さん。アーモンドにも似た榧の実がビールの原料に面白いんじゃないかと直感で感じたそう。
高知前川種苗の会長、前川穎司氏(以下、前川さん)は、趣味の囲碁が高じて碁盤の材料である榧の美しさに惚れ込み、絶滅しそうな榧の将来を憂い、高知と徳島の山中に30万本もの植樹をしたほど榧に惚れ込んだ方。その植樹された榧の森が香美市の山中にあるという奇跡。
瀬戸口さん、鬼田さん、前川さんが繋がることで、誰も醸したことの無いビールの醸造物語が動き始めます。
誕生!かやの森ヘイジーエール
素晴らしい素材を手に入れたら、あとはブルワーである瀬戸口さんの舞台。
その後、試作を重ねること約1年。試行錯誤の末、榧の良さである「森林を思わせる爽やかな香り」を引き出すことに成功。霧がかった榧の森に、爽やかな木香が漂う光景をビールで表現するため、濁りのあるヘイジーというスタイルを選択したそう。
折しも、ヘイジースタイルが人気を博している昨今。時代が求めていたのかもしれません。
この貴重なビール、筆者も鬼田酒販で購入して飲んでみました。
ビール名: TOSACO かやの森ヘイジーエール
ビアスタイル: ハーブおよびスパイスビール
アルコール度数: 5%
見た目は濁りのある深い黄色
甘味のある柑橘系アロマを突き抜けて
銀杏のようなコクのある香りを仄かに感じる
それが榧の実なのかもしれない
口に含むと柑橘と糖蜜っぽい甘味
次にマンゴーっぽいフレーバー
それでいて後味は爽やかで
ほんのり残る榧を思わせる余韻が
まるで森の中で榧と戯れるような
そんな情景が浮かぶビール
独特のクセも感じますが、不快に感じるものではなく、榧の実の個性をしっかり味わえる唯一無二のビールだと思います。
更なる挑戦
地域限定ビールだけではなく、レギュラービールの拡販もブルワリーの重要な課題。
樽と瓶を販売し、これまで高知県内のレストランやスーパーなどを中心に卸していましたが、食卓を豊かにする戦略を更に推し進めるため、瓶ビールの直販をテコ入れしています。
・SNSの積極的な活用
・Noteからの導線新設
・生産者と一体化させたエピソード
・セット売りの拡充
・ビールの縁側への参加、等々
Webを通じてオンラインでファンを作ることで、飲み手からのフィードバックを得て、リアルなブランディングに生かしていきたいとのこと。
食材の宝庫、高知県。であればこそ
「家庭の食卓を豊かにする」
この企業理念を掲げる高知カンパーニュブルワリーにとって、コロナ元年は忘れられない年になることでしょう。
ブルワリーとしてその素材を使う意味は何か?生産者にとってビールにする意味は何か?を問い掛けながら醸されるビールは、一つまた一つ、食卓を囲む人々の顔を笑顔にしていくと信じてやみません。
ブルワリー情報
屋号:合同会社高知カンパーニュブルワリー
ブランド: TOSACO
住所:高知県香美市土佐山田町栄町2-29
(JR土讃線/山田西町駅から徒歩3分)
最寄りの札所:四国霊場第29番札所『国分寺』
ブルワリーから4㎞/徒歩50分/0.8パイント分
※体重60㎏、時速5㎞、1パイント473ml190kcal換算
Web: https://tosaco-brewing.com/
Facebook: https://m.facebook.com/campagne.brewing
Instagram: https://instagram.com/tosaco.kochi_campagne_brewery
四国麦酒遍路🍺泡所一覧
第1番泡所:ミロクブルワリー(讃岐国)https://www.jbja.jp/archives/31794
第2番泡所:DD4D BREWING(伊予国)https://www.jbja.jp/archives/31795
第3番泡所:今治街中麦酒(伊予国)https://www.jbja.jp/archives/31796
第4番泡所:Mukai Craft Brewing(土佐国)https://www.jbja.jp/archives/34738
第6番泡所:大三島ブリュワリー(伊予国)https://www.jbja.jp/archives/34740
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。