コロナに負けない店の秘訣②
関東ではまん延防止等重点措置、緊急事態宣言が広がり、
多くの飲食店は再び20時までの時短営業に突入。
発注していた食材やお酒の行き場がないという声も聞かれます。
そんな中新しく開業した広島のブルワリーと縁があり、インタビューに応じてくださいました。
前回の特集同様、
新型コロナウィルス影響下にある中、飲食店、ビール業界ではどういった取り組みで乗り切られているのかに迫ります。
(コロナに負けない店①はこちら)
尾道ブルワリーオープン
広島の尾道と聞いて皆さんはどんなイメージを持たれますか?
瀬戸内海、レモン、ラーメン、広島風お好み焼き…
広島県JR山陽本線尾道駅から徒歩15分、商店街の中に現れる古そうな建造物と、引き戸。
それがこのお店への入り口です。
HPにも動画を載せられていますが、その引き戸から店舗までさらに20mほどあり、
正直初めての方へのアクセスは良いとは言えません。
尾道ブルワリーは尾道ビール(株)が運営するブリューパブ。
坪数は9坪、席数もカウンター6席&小部屋6席の計12席と、
前記事同様やはり規模も大きいとは言えません。
併設する醸造所も11.3坪です。
一体どんな方がオープンされたのでしょうか。
東京から広島へ、それは再生へ至る道のり
佐々木夫妻がオープンに向けクラウドファンディングを開始したのは2020年のこと。
なんと4日間で100万円を越え、最高のスタートダッシュを切ることができましたが、
ブルワリーを立ち上げるきっかけになったのは仕事の過労で体調を崩したこと、
地方創生への思いが強まったからだそうです。
人生の転機に、ふと以前訪れた、しまなみ海道でのサイクリングで尾道の印象が強く残っていたお二人。
「やったことがないことを新しく始めるなら、好きなビールを造る仕事にしよう」
「東京はすでにブルワリーが多いから別の場所にしよう」
という考えから移住することを決意。縁があった尾道を選びました。
その後醸造は栃木マイクロブルワリーで学ばれ、
足りない部分は書籍で補いつつ、木元酒造さんで醸造体験に参加されたり、大阪サニタリーの座学の講習に参加されたりしました。
これだけでもかなりのバイタリティー。
例えビールが好きと言えど、
それを次の仕事にしようと決断され行動されるのはとても大きなエネルギーが必要なはず。
どのようにしてやり遂げられたのか、その理由と原動力についてもう少し深くお伺いしました。
真理が旅行会社で働いていたこともあり二人でよく旅行に行き、
旅先で「地ビール」を飲むのが楽しみでした。
そんなところからクラフトビールに興味を持つようになり、
ビアバーなどにも行くようになりました。単純にビールを飲むのが好きだったので、
何かを造ろうと思ったときに「ビール」しか思いつかなかったのです。
それに私たちのやりたかった「自分たちが造ったもので地域を盛り上げたい」という想いにクラフトビールはぴったりだと思いました。
私たちは仕事帰りに墨田区にある「ミヤタビール」によく行きました。
こちらのゴールデンエールは無濾過なのに透き通った金色で澄んだ味わいで、
大好きなブルワリーです。
こんなゴールデンエールが造りたいと「しまなみゴールデンエール」を定番にして試行錯誤しながら醸造しています。
ゴールデンエール/ミヤタビール
実際に飲みに行ってみました。
様々なホップによるバージョンが存在するので佐々木夫婦が親しんだのがどのホップを使用したものかはわかりませんでしたが、
自分が頂いたものは飲みやすさが特徴のゴールデンエールというスタイルの中でもかなりホップを利かせたレシピ。
ウィルス感染が落ち着いてからの開業を待たずのオープンは費用、集客面的にもとても大変だったと思いますが、
何故このタイミングで尾道ブルワリーをスタートさせたのでしょうか。
コロナが流行る前から計画は進んでいて、2月には真理は会社を辞めてしまっていたので進むしかなかったというのが正直なところです。
真人の病気で10年ほど鬱々とした生活を送っていたので、
新しい地での再出発は再び生き生きと働ける喜びのほうがコロナの不安よりずっと大きかったですね。
若い頃の1年とこの歳の1年では重さが違いますから、自分たちが元気に体を動かせる時間はそんなに長くはありません。
少しでも早く第二の人生を始めたかったのもあります。
国税局がコロナで忙しくなって醸造免許の交付が遅れたり、
千葉から尾道への引っ越しが予定より遅れたりしましたがその他は予定通りですね。
コロナ渦の創業準備でしたのでいろいろ対策が事前に考えられたのと、
初めての醸造&お店&外販で戸惑うことも多いので、
私たちにとっては抑え気味の集客で逆によかったような気がします。
メディアにもコロナ渦に移住&開業したことで注目していただきました。
お話を聞いて、控えめな姿勢のお二人のお人柄も素敵でしたが、
やりたいことがやれるので気が楽になったという面と、
背水の陣になったという面と両方あったことが伺えます。
ある意味コロナがあったからこそ実現できたのかもしれませんね。
フルーツ、絶景、古蔵のある尾道
広島。実は個人的には未踏の地です。
尾道とは名前は良く聞く土地ですが、どういった場所なのかご紹介します。
◆気候
一年を通して温暖。
◆特産品
レモン以外にも実は柑橘類が大変豊富で、質も良い。
また、佐々木さんのオススメは蓬莱柿(ほうらいし)という品種のイチジク。
皮が薄く甘いのが特徴。
◆地域
尾道ブルワリーのあるしまなみは海を臨む地域。
小さな島々が連なりサイクリングロードが人気のレジャー。
また、ネコ好きの間では「猫の街」と呼ばれるほどネコが多い街で、
その中の「猫の細道」は聖地と呼ばれる位置付けなほど。
◆人柄
佐々木さん曰く、尾道の方は
「いい意味で出しゃばらないお節介」で、
尾道を盛り上げたいと思っている方が多く様々な場面で手を差し伸べてくださるのだそうです。
尾道は北前船で栄えた港町だったせいか、外部から入ってくるものに寛容で、
佐々木さん達もよそ者扱いは一切されず逆に応援してくださっているとのこと。
尾道の方々の人柄が伝わってくるエピソードがあります。
物件探しに難航している中、たまたま立ち寄ったバーのマスターから
「借主を探している大家さんがいる」とわざわざ千葉にいる佐々木さんたちに連絡がありました。
尾道まで見に行ってみると、
そこにあったのは扉と、その先にある…埃だらけの古びた土蔵。
元々ガラス問屋の蔵だったらしいこの場所にお二人は一目惚れして、
「ここだ!」と思ったようです。
ただ古い蔵をビール工場にするのは衛生管理上問題点が多く相当の苦労が…笑
それでも尾道で出会った方達と縁が広まっていき前述の
「尾道ブランディング」というチームを立ち上げることとなり、
仲間と力を合わせブルワリーは形となったわけです。
1894年築の古蔵はリノベーションされ、思わず誰かに話したくなる仕上がりに!
日本中探してもこんなやりとりから生まれた醸造所は他にはないでしょう!
尾道が育てた素材を活かしたビール
ここまで聞くと、ビールへの興味が高まりますよね。
尾道ブルワリーでは地元の様々な柑橘類をビールに取り入れています。
弊社のコンセプトは副原料に尾道産の何かを使ったこだわりのビール、
尾道産のレモンや柑橘類などを入れた「メイドイン尾道」のビールを造っています。
自分たちが後味すっきりのさっぱりしたビールが好きなので、
造るビールもお代わりしたくなるようなさっぱりしたビールになるよう心がけています。
幸運にも、好評で品薄な定番3種を実際に飲める機会があったので飲み比べてみました。
・尾道IPA
ビールビジネスの中で売り上げのポイント商品となってくるIPAですが、
口いっぱいに広がる自然でクリーミー&シルキーな炭酸が気持ちいい!
地元のみかんを使用しているせいか、軽いレモンアロマが漂うよう。
しかし今流行の柑橘香が押し寄せるタイプではなく、
香ばしいモルトをしっかり味わえる上品なバランスです。
毎日飲むならこういうIPA、という所感。
・尾道エール
定番品であり顔となる基本の商品がこちら。
地元のレモンを使用したペールエールで、やはり炭酸はきめ細かくクリーミー。
ビールでありながらフルーツの恩恵でしょうか、
レモン、サイダー、石鹸など鼻をくすぐるアロマが感じられるため、
まるで子どもの頃初めてラムネを飲んだ時のように、夢中で口に運んでしまいます。
・しまなみゴールデンエール
地元のみかんを使用していますがフルーツの印象は控えめ。
佐々木夫妻の人生を変えた上記のミヤタビールと比較すると、
ボディが軽いため優しいながらも苦く感じますが、どこか瓜やメロンの皮のニュアンスもよぎります。
時間が経っても崩れないバランスが素晴らしい。
ビール以外にも尾道ブルワリーでは地元の食材にこだわっています。
◆完熟ドライ蓬莱柿&クリームチーズ
日持ちがしないので県外にはあまり出回らない特産イチジク、蓬莱柿(ほうらいし)とクリームチーズの文句なしの組み合わせ。
ほのかな酸味と上品な甘味で「イチジクってこんなにおいしいんだと初めて思いました」とは佐々木夫妻のお言葉。
◆まるか食品のイカ天 瀬戸内レモン味
尾道はイカ天発祥の地。旨みが増すため、尾道では焼きそばやお好み焼きにイカ天を入れるんだそうです。
「イカ天 瀬戸内レモン味」は首都圏でも人気なので見かけた方もいらっしゃるのでは?
◆尾道ホルモンジャーキー
広島名物ホルモン揚げの「せんじがら」を、油で揚げずにホルモンから出る油だけで炒った古来製法の一品。仕上がりの柔らかさが違います!
現在尾道ブルワリー独占販売。
コロナ下でも負けない秘訣
大手でも苦戦しているこの苦境の中、
尾道ブルワリーには20〜30代の若い方もいれば熟年ご夫婦、子供連れのご家族、
おひとりさまと様々な層の方が来店されているそうです。
◎入口でのアルコール消毒
◎カウンターにはアクリルのパーテーション設置
◎窓を開放
◎電解除菌水を噴霧して空間を除菌
◎空気清浄機導入
◎テーブルや飲み比べ用トレーは使用する度にアルコール消毒
◎お金の受け渡しはキャッシュトレーを使用
を店舗で実施。お客様も快く応じてくださってるそうです。
ここまで聞いて、尾道ブルワリーは何故軌道に乗れたのか、
ポイントを振り返ってみました。
・ご家族連れもいらっしゃっている点からも、
安心して利用できる飲食店として地元の方に評価されていること
・古い蔵を再利用するアイディアと挑戦する姿勢に多くの方に共感が得られたこと
・競合が少ない地域を選択したこと、特産品にこだわっていること
・クラウドファンディングの導入と、その達成スピードからも見えてくる佐々木夫妻の人柄が醸し出す雰囲気、人の和
これらが広告となり、さらなるリピーターを呼んだのではないでしょうか。
小さくても負けない店舗にはコンテンツ以外にも魅力が多いことがわかります。
今後はさらに、お車の方向け&環境面からリユース可能であるアイテム、
グラウラーをもっと普及させたいと語ってくださいました。
他にもホップ育成にも興味があるとか…!
最後にメッセージをお二人から頂戴しました。
ほとんど知り合いもいない尾道で尾道ブルワリーを開業できたのも、
たくさんの人の支援があったから。
そもそも尾道への移住も人とのつながりができたからで、
今後もつながりを大切にしていきたいです。
尾道でビールを造ることに意義があると思っているので、「メイドイン尾道」のビールで尾道の観光の一端を担っていきたいです。
未踏の地でありながら、親戚ができたかのような温かさに触れたインタビューでした。
開業したばかりなので供給が追いついてないとのことですが、
追いつき次第ショップにもまたビールが追加されます。
ぜひ皆様も尾道のビールを手にとってみてください。
https://onomichibrewery.stores.jp/
尾道ブルワリー
【TEL】0848(38)2710
【instagram】https://www.instagram.com/onomichibrewery_/
【HP】https://onomichibeer.com/
【住所】広島県尾道市久保1-2-24
協力:アンドウミク(広島在住フリーライター)
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。