人生ストーリーをビールにするブランド「HOPPIN’ GARAGE」【ビール誕生秘話14本目】
「デザートとしても成り立つビールをつくりたい!」
「ボードゲームがより盛り上がるビールをつくりたい!」
世の中の「こんなビールつくりたい!」という想いから新しいビールを生み出すブランド「HOPPIN’ GARAGE」をご存じでしょうか?
「できたらいいな。を、つくろう。」を合言葉にサッポロビール株式会社(以下、サッポロビール)が2018年から始めているものです。
なぜ、サッポロビールは世の中の「ビールをつくりたい!」という想いに注目したのでしょうか。ブランド担当者である新規事業開拓室の土代裕也さんに話を聞きました。
目次
■その人の人生を表現するビールを共につくる「ストーリーブリューイング」という考え
「HOPPIN’ GARAGE」では、「ビールをつくりたい!」という想いをもとにしたビールづくりを「ストーリーブリューイング」と呼んでいます。その理由を聞きました。
「私たちは2018年の活動当初からビールのアイデア応募を開始し、600以上の『こんなビールをつくりたい!』という想いに触れてきました。
『つくりたい!』という気持ちには、単純な思いつきもあれば、そう思う背景にその人の情熱や軌跡が滲み出ているものがあると気づきました。我々が世の中に届けたいものは後者であり、我々が心動かされた情熱や軌跡を総称して『人生ストーリー』と呼ぶことにしました。その魅力あふれる『人生ストーリー』をもとにしたビールづくりを、サッポロビールの新製法として名付けたのが『ストーリーブリューイング』です」
これまで「ストーリーブリューイング」で造られたビールは約10種類。その中で土代さんが大切していることがあります。
それは「共創」です。
「お話を聞くと私たちでは思いつかないアイデアや、その背景にある世の中を切り取り方や物事の考え方など、本当に多様性に溢れていて、いつも多くの刺激を受けます。ビールづくりは免許制のため、ある特定の人や団体しかつくることが許されていません。
つまり価値を生み出す起点となる創造性の出所が特定されている状況です。我々が培ってきた醸造技術と世の中にあふれる創造性と掛け合わせて新しい価値を生みだし、世の中に提供していく。そんなダイレクトな循環を生み出す仕組みがあると『お酒と人の未来』はもっと楽しくなると思ったのです。
また、このプロセスは我々自身にも新しい創造性を与えてくれるため、長い目で見てサッポロビールにとっても大きな財産になると考え、『共創』という姿勢を大切にしています」
経験は大きな財産になる半面、リスクを回避する力が強く働いてしまうことがあります。同じ環境にいる者同士で長く続けるのではなく、違う環境にいる人たちとも創り上げることで新しい価値が生まれると考えた土代さん。
ビールを通じて創造性を発揮したいと考える人たちに「ビールを通じて表現する場をつくっていくことも私たちの重要な役割です」と語ります。
しかし、「想い」という形がないものをビールで表現することは難しいと思います。しかも購入者の共感を得ることは、もっと難しいのではないでしょうか。
「すごく難しいと思います。その人が歩んできた人生ストーリーそのものをビールにするので、醸造家の創造性が試されるブランドです。そのために醸造家を含めて話をじっくり聞かせていただきます。しっかりイメージをつくったうえでビールにしていきます」
入念にヒアリングをすることで、その人も気づいていない「想い」をビールや缶パッケージに表現することを意識して造っていると話します。
■「正解は1つじゃなくていい」から生まれた企画
「HOPPIN’ GARAGE」を始めようと思ったきっかけは2つあると言います。
「私たちは、ひとりひとりの心を動かす物語で、『お酒と人との未来』を創る酒類ブランドカンパニーを目指しています。この言葉には、ただ商品を売るのではなく、もっとお酒と人との楽しく豊かな関係を届けるという思いを込められています。その一つとして『共創によるビールづくり』という未来があった方がいいと思ったのです。
もう1つは、2015年にサッポロビールでユーザー参加型プロジェクト『百人ビール・ラボ』での体験です。それまで営業や商品開発に携わってきて、初めて飲み手の方たちと触れ合う機会がありました。たくさんの人と話をして、色んなアイデアを持っていていることを知りました。そこで皆さんが自分の想いをビールにしたいということを肌で感じました」
自身が勤務するサッポロビールのビジョンとビールファンの様々な思いや考え方に触れたことが「HOPPIN’ GARAGE」を生むきっかけになったと言います。
「未来の正解は1つではなくていい」と様々な思いがあっていいと考えるようになった土代さん。そして、熱をもった人たちの想いを形にできるようにしたいと会社に企画を提案します。
しかし、前例のない企画です。実際に動き出すまでは多くの壁を乗り越える必要があったと言います。
「直属の上司から社長まで承認が必要な方に対して、直に話を聞いてもらいました。また、高頻度でビールをつくることになるので、サッポロビールとしてのブランドクオリティを保ちつつも、社内バリューチェーンの負荷をさげられるよう、開発から販売までのプロセスを独自の形で考案しました」
短い期間の経済合理性だけで評価されないように活動の意義や目的について関係部署を幾度と訪れ繰り返し説明をする日々を過ごした土代さん。途中、理解を得られないことに「自分がやっていることは正しいのか」と悩み辛かったと振り返ります。
「当時、通常の商品開発を担当していましたし、過去には営業職の経験もありました。企画に反対する方の意図や考えはよく理解できました。賛成と反対の考えが頭の中で巡り、このまま進めるべきか悩むこともありました。
しかし、『百人ビール・ラボ』を通して共創の原体験があり、その価値や社会的な意味を信じられる人間は社内に自分しかいないという勝手な使命感と、社内に1人くらい明後日の方向を向いて動いている人間がいてもいいのではないかと割り切ってやり続けました」
新しい価値を多くの人に届けたい。強い思いが「HOPPIN’GARAGE」を生み出しました。
■理解を深めて、認知度を上げていく
ブランドを立ち上げてから2年半が経過。「HOPPIN’ GARAGE」の思いを届けるためには、まだ多くの課題があると言います。その1つに認知度を土代さんは挙げます。
「今までにないブランドなので、いかに関心をもってもらえるか試行錯誤しています。ビールになる人たちのストーリーはとても魅力的です。『どうしたら多くの人たちに届けられるのか』を日々奮闘しています」
魅力的なストーリーをビールとして表現しても知って飲んでもらわないと伝わらない。そのためにブランドムービーやオリジナル冊子、ラジオなどでひたむきに自分たちの思いを伝えています。
今は、オンライン販売限定で販売していますが、スーパーやコンビニエンスストアなどで販売できるようになると多くの人に知ってもらえる機会となるのではないでしょうか。
「今のところスーパーやコンビニエンスストアで販売する計画はありません(笑)。でも、多くの人に知ってもらう方法として、将来的に検討してみたいですね」
「HOPPIN’ GARAGE」のポップな缶パッケージは売り場を華やかにしますし、何よりも新しいファンを獲得できるきっかけになると思います。
最後にこれから挑戦してみたいことも聞いてみました。
「ラジオの収録を都内の醸造所で行っています。収録した醸造所のスペースをお借りしてお披露目会をやりたいです。それと私たちと収録した醸造所で別々に同じ人のビールを造ってみたいです。それぞれ話の捉え方も違うし、表現の仕方も違うと思います。様々な角度から表現して多くの人に伝える試みをしてみたいですね」
ストーリーをより伝えやすくするため、表現の幅を広げて想いを濃く伝えていきたいと話します。
「ビールは醸造免許や設備面などの課題もあり、今は限られた人しか造ることができません。私たちは恵まれた環境にいると思っています。だからこそ、ビールで何かを表現したい人やビール醸造に関わりたい人の未来をストーリーブリューイングと言う形でサポートしていきたいと思います」
自分の思いをビールにする。ビールが好きな人ならば1度は頭に描いたことがあるかもしれません。自分の想いを描いたビールが他の人に飲まれる。これは素敵な体験だと思います。
「HOPPIN’ GARAGE」は、想いを共に創ることができる場です。「皆さんの想いをビールで表現してほしい」と土代さん。
次のビールは、あなたの想いかもしれません。
◆HOPPIN’GARAGE 概要
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。