ナイトロビールって何? ISANA BREWING千田恭弘さんに聞いてみた
ナイトロビールをご存じでしょうか。
ナイトロビールと言う言葉を知らなくても「ドラフトギネス」を飲んだことがある人は多いと思います。
きめ細かい泡とクリーミーな口当たり。他のビールにはない魅力がナイトロビールにはあると思っています。
今回、改めてナイトロビールの魅力をお伝えしたく、自社醸造ビールをナイトロバーションとして提供しているISANA BREWINGの千田恭弘さんに話を聞いてきました。
目次
■ナイトロビールとは?
はじめにナイトロビールをご存じではない方もいらっしゃると思いますので説明します。
通常、ビールは樽や瓶、缶に詰める際に二酸化炭素を注入します。一方、一般的なナイトロビールは二酸化炭素と窒素を注入します。
窒素を入れると何が変わるのでしょうか。
「窒素の分子は二酸化炭素の分子より小さいです。小さい窒素の分子が集まることでクリーミーな口当たりになります」
あのクリーミーな泡は窒素によってつくられているのです。
余談ですが、当初「ドラフトギネス」は、クリーミーな泡を提供するために窒素を入れたわけではありませんでした。1940年代、イギリスではラガービールの流行とともに二酸化炭素で加圧してビールを注ぐ方法に変わっていきます。しかし、「ドラフトギネス」は起泡性たんぱく質という成分が多く含まれているため、この方法でビールを注ぐと泡が吹き上げてしまう課題がありました。
そこで使用されたのが窒素です。
「窒素は、二酸化炭素と比べると液体に溶け込まない特徴があります」。液体に溶け込まないで押し出すことで、起泡性たんぱく質が多いギネスでも泡が吹き上がらないで注ぐことが可能になりました。
クリーミーな泡は、はじめから狙ってわけではなく副産物的な存在だったのです。
■ナイトロビールの魅力とは?
「なんといっても泡が液体に変わっていくカスケードショーの美しさとクリーミーな口当たりですね」とナイトロビールの魅力について話す千田さん。
カスケードショーとは、窒素の泡の中をビールの液体が重力で落ちていく現象。「泡が上がっているのではなく、液体が落ちているように見えるので何段も連なった小さな人工の滝を意味するカスケードと呼ばれています」。
カスケードショーは、パイントグラスのようにグラスの壁面が斜めになっているところに液体が落ちることで視覚的に液体が落ちているのを見ることができます。きれいなカスケードショーを見るためにはグラスの形状も重要で「チューリップグラスのように丸みのあるグラスだときれいに見ることができません」とポイントを教えてくれました。
■ナイトロビールは、黒いビールじゃないといけない?
今回、千田さんに聞いてみたいことがありました。それは、ナイトロビールにはスタウトやポーターといった黒色のビールばかりということです。何か理由があるのでしょうか。
「ビールの苦味はボディの強さに関係します。黒い色のビールにはホップをたくさん使用していてIBUが高いものもあります。黒い色のビールを敬遠する人の中には、ボディの重さや焙煎麦芽、ホップの苦味を苦手とする人がいます。ボディや苦味をまろやかにすることを目的に窒素を使用しているのだと思います」
窒素を使用すると、苦味がまろやかになるのは何故なのでしょう。
「窒素は不活性のガスなので液体に溶け込みません。ビールの液体の分子の中に窒素の分子を圧力で思い切り詰め込んでいる状態です。このとき乳化(油や水分のように本来混ざり合わないものが、一時的に均一に混ざり合う状態)された状態になります。
イメージとしては、苦味の強いエスプレッソにフォームミルク(空気を含んだ泡状のミルク)を入れると滑らかになって美味しいカプチーノになる感じです」
乳化現象により苦味が抑えられ、まろやかで飲みやすくなるといいます。
スタウトやポーター以外では、アルコール度数の高いビールはナイトロビールに向いていると千田さん。
「箕面ビールさんの『W-IPA』や松江ビアへるんさんの『おろち』などアルコール度数が高いビールはよく合います。意外となんでも合いますよ(笑)」
■混合ガスと窒素のみではナイトロビールは変わる?
ナイトロビールは、二酸化炭素と窒素の混合ガスで提供されるのが一般的です。しかし、ISANA BREWINGでは窒素のみでナイトロビールを提供しています。
混合ガスと窒素のみでは、どのような違いがあるのでしょうか。
「泡の密度は窒素だけの方が濃いです。その分、混合ガスよりも滑らかな口当たりが楽しめます。混合ガスの方は二酸化炭素の適度な刺激感もあるので、軽い感じの飲み口で飲みやすさがあります」と混合ガスと窒素のみのどちらにも長所と短所があります。
「『ドラフトギネス』は、二酸化炭素と窒素の混合ガスだからこその美味しさがあります。液種によって、適した比率でガスを使うことが大事です」とビールに合った提供方法が重要だといいます。
また、IPAのようにホップが効いたビールのナイトロバージョンは、泡の層が厚くなるので香りを感じにくくなります。その代わり「飲んだ後に口の中で広がるホップの香りは、通常のビールでは味わえない部分です」とナイトロビールならではの魅力を教えてくれました。
■水よりも低い表面張力の口当たりを体験してほしい
ISANA BREWINGでは12タップ中4タップがナイトロビール専用です。そのすべてが窒素のみのナイトロビールです。特に自社醸造ビールは、二酸化炭素を充填した通常バージョンと窒素を充填したナイトロバージョンを飲むことができます。
2021年8月現在、4タップのうち1タップがナイトロコールドブリュー(窒素入り水出しアイスコーヒー)が繋がっています。アイスコーヒーが窒素によりラテのような口当たりが楽しめます。
最後にISANA BREWING流ナイトロビールの楽しみ方を千田さんに聞いてみました。
「今までは、ナイトロビールが提供されたらカスケードショーを鑑賞してからクリーミーな泡を楽しんでいたと思います。私がおすすめする楽しみ方は、提供されたら直ぐに一口飲むことです。そうすることで、とても滑らかな口当たりを体験することができます。
ナイトロビールの乳化された状態の液体は、表面張力が水よりも低いです。すごくサラサラとしています。水よりも表面張力が低い液体を飲むことは日常的にありません。ぜひ、すごく滑らかな口当たりを経験してほしいと思います」
一口飲んだ後でも、カスケードショーは継続されます。カスケードショー中と後では、また違った口当たりを感じました。
ガスを変えて楽しむというのは、ビールならではの楽しみ方だと思います。まだ体験したことがないという方。ぜひ1度、味覚だけではなく視覚や触覚でも楽しめるナイトロビールの世界を味わってみてください。
●参考文献 GUINNESS アイルランドが産んだ黒いビール こゆるぎ次郎/2005年/小学館
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