ビール樽の返送について 飲食店さんご協力お願いします
「ちょっとお知らせをしてもらえると助かるのですが」
東京に3回目の緊急事態宣言が発令中の頃、東京・昭島のISANA BREWING千田恭弘さんからメッセージが届きました。
何をお知らせするのか。千田さんに聞いてみると「ビール樽の返送方法について」といいます。これを聞いて「なるほど」と思いました。
ビール樽の返送については、これまでも度々、ブルワリーさんがSNSで訴えることがありました。今回、千田さんの飲食店関係者に伝えてほしいという思いを受けて取り上げることにします。
今回は、飲食店さん向けの内容となります。しかし、ビールファンの皆さんも知っておいて損はないものだと思いますので一読していただけると幸いです。
はじめにブルワリーさんから飲食店さんにお願いしたいことは、以下の4点です。
◆返送時にお願いしたいこと
1.ビール樽に直に配送伝票を貼りつけない。紐付きのラベル納入袋(樽にぶら下げる形)や、ラップフィルムを巻いた上に貼るようにしてください。。
2.複数の樽をまとめて返送するときは、PPバンドなどで樽同士を固定する。固定が弱い場合は、ラップフィルムを巻いて固定力を強くしてください。
3.配送業者の集荷時に樽に伝票を直接貼らないよう注意喚起をお願いします。
4.ビール樽の口金部分はキッチンペーパーなどで水分をきれいに吹きとった後、アルコール消毒をして清潔な状態で返却してください。
理由について、千田さんに話を聞きました。
■ブルワリーが菌に侵される可能性がある
――:ビール樽の返送の仕方で、ブルワリー側がどのようなことで困っているか知らない飲食店さんもいると思います。
千田:私がお願いしたい点は2つあります。1つは配送伝票をビール樽に直に貼らないでほしいということです。
――:直に貼ると、どんな問題が生じるのでしょうか。
千田:直に貼ってしまうのときれいに剥がれず糊が残ってしまいます。糊が残った部分にはカビが繁殖します。カビは、ブルワリーやビールの汚染といった衛生的な問題につながります。
――:ビールも飲料です。カビをはじめとする菌の繁殖は防がなければなりません。
千田:そうです。ビール樽の表面は滑らかに見えますが、実際は違います。配送伝票やシールを直に貼ってしまうときれいに剥がれません。そうしたところに菌が繁殖してしまいます。
――:残った部分をきれいにしようとすると余計な手間も増えてしまいますね。
千田:そうですね。他の作業が遅れてしまいます。
――:余計な作業に時間を取られてしまうのは辛いですね。
千田:はい。残った紙や糊をきれいに落とすためにアルコールやアルカリ溶剤を使用します。細かいって言われるかもしれませんが、物品もタダではありません。余計な経費がかかるので地味に痛いです。
――:そうですよね。本来必要じゃないことに物品を使用しないといけなくなるのは痛手だと思います。何か考えている対応方法はありますか。
千田:ビールを送るときに、返送についての注意書きを添付するぐらいでしょうか。
――:注意書きは良いかもしれません。しかし、配送伝票は、配送業者さんが貼ってしまうという話も聞いたことがあります。
千田:そうしたケースもあります。配送業者の方が貼ってしまう場合があるので、集荷の際に「ビール樽に直接、伝票を貼らないでください」と一言、伝えてもらえると助かります。
――:飲食店さんからも注意を促してもらえると助かりますね。
千田:それと2個以上まとめて返送される場合、しっかり樽と樽をPPバンドで結びつけてください。結び方が弱いとバラバラになってしまいます。その時に配送業者の方が個別に伝票を貼ることもあるようです。それでもグラグラするときは、ラップフィルムを巻いて固定してください。
――:そうしたケースもあるのですね。もう1つは何でしょうか。
千田:空になったビール樽の口金部分をきれいにして戻していただきたい。
――:ビールが付いた状態になっているということですか。
千田:そうですね。ビールは糖分を含んでいるので、菌が繁殖しやすいです。菌が繁殖すると悪臭の原因にもなります。
――:悪臭が発生するのは嫌ですね。どのように返却してもらうのがいいのでしょうか。
千田:ビール樽の口については、ペーパータオルでビールをふき取った後に、アルコール消毒をして乾燥させた状態で返却ください。
――:難しい作業ではないですね。
千田:はい。この口金部分はビールが通ります。カビが生えた樽で提供されたビールを飲みたいでしょうか? 売りたいでしょうか?
――:いやです。想像したら気分悪くなってきました。
千田:そうでしょう!
■自分たちで対策するブルワリーもあります
千田さんの話を聞いて、他のブルワリーの対応が気になりました。そこで島根県にある松江ビアへるんの矢野学さんにお話を伺いました。
――:松江ビアへるんでは、返送するビール樽について飲食店さんに呼びかけていることはありますか。
矢野:樽の上部に直に配送伝票などを貼らないよう案内を貼っています。
――:案内文を載せることで、直貼りは減りましたか?
矢野:残念ながら、これだけでは減りませんでした。
――:そのような場合、どのような対応を取られていますか?
矢野:飲食店さんに問題があった場合は、直接お伝えしています。
――:お伝えすることで改善はされますか。
矢野:はい。大抵は対処していただけます。対応していただけない飲食店さんとは、長いお付き合いは難しいと考えています。
――:他に対策をしていることはありますか?
矢野:発送時に樽にラッピングフィルムを巻いて出荷しています。これは配送業者の方が送り状の紛失に備えて樽にシールを貼ってしまうのを防ぐためです。
――:作業時間や物品のコストがかかってしまうと思いますが。
矢野:ラップフィルムは、1樽分でも1円もしない程度です。カッターで切り捨てれば宅急便のシールごと捨てることができます。ラップフィルムに配送伝票を貼るのでビール樽にはシールの糊などは残りません。衛生面やシールをきれいに剥がす手間と比較すると効果的だと思います。
――:ブルワリー自身が対応していく必要もありそうですね。お忙しい中、ありがとうございました。
この他には、直貼りへの対策としてビール樽にチケットホルダーのようなものを取り付けて、その中に配送伝票を入れてもらうところもありました。
ただ、話を聞いて今回の問題は飲食店さんの協力だけで解決することは難しいと思いました。それでも樽の口金部分を洗浄して、直貼りをしないで返送するだけでもブルワリー側の負担は少なくなり楽になると思います。
飲食店さんも忙しいと思いますが、美味しいビールを提供するためのご協力お願いします。
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。