日本のクラフトビールに缶商品が増えてきたのはなぜ?
2021年9月21日より缶商品の発売をはじめた伊勢角屋麦酒。彼らをはじめ、ここ数年で日本の小規模ブルワリーでも缶商品の展開をするところが増えてきました。缶製品を展開するメリットは、どんなことがあるのでしょうか。樽のシェアリングサービスと醸造所を管理するシステムで「ITで21世紀のビールをつくる」を掲げるBest Beer Japan株式会社のCEOピーター・ローゼンバーグさんに話を聞きました。
導入コストや小型化などで導入しやすくなってきた
――:アメリカでは、すでに缶商品が多いです。ここ数年、日本でも缶商品を展開するブルワリーが増えてきました。どんな理由があるのでしょうか。
ピーター:導入するコストが下がってきたことが大きいと思います。
――:具体的にはどんなところが下がってきたのでしょうか。
ピーター:これまでは、缶詰め機の価格が高かったのですが、海外の設備が日本に入ってきて選択肢が増えたことで値段が下がってきました。
――:缶詰め機は高いという話は、よくブルワリーさんから聞きます。
ピーター:それと缶詰機の小型化と缶の最小購入数が少なくなっていることもあるでしょう。
――:これまでの缶詰機は大きくて設置スペースの問題もありました。それと空き缶を保管する場所の問題もあります。
ピーター:そうですね。こうした課題が解消されてきて導入しやすくなったのだと思います。私は機械を置くスペースがないとか、ブリューパブだけで販売するスタイルでないなら導入するメリットがあると思います。
――:なるほど。
ピーター:以前は缶の販売ロット数が最小ロットで5万個とか7万個でしたけど、最近はもっと少ないロット数で販売する会社もあります。それと共同で購入するブルワリーもあります。缶を導入するハードルは段々下がってきています。Best Beer Japanでは、缶詰め機導入に際して、投資収支シミュレーションが行えるExcelファイルを無料で提供しています。導入を検討されている方は、ご相談ください。
輸送コストダウンや光による劣化、陳列のしやすさなどメリットの方が大きい
――:設備面で導入しやすくなってきたことは、ここまでのお話でわかりました。その他の面で缶を導入するメリットはどんなことがあると考えていますか。
ピーター:物流コストですね。缶は瓶より軽くて重ねることができるから運送料金を抑えることができます。瓶は割れてしまうリスクがあるので梱包する必要がありますし、破損した場合のコストも含めて総合的に判断すると缶の方がコスト面で有利です。
――:どのくらいの差が出ますか。
ピーター:私たちの調査では原価で見た場合、ECサイトでの運送費・梱包費は330ml瓶が1本あたり175円。それに対して350ml缶は1本当たり142円です。
――:1本あたり33円のコストカットになります。
ピーター:他の項目を含めたシミュレーションでは、原価が330ml瓶の手動充填機は438~518円、330ml瓶の充電動填機は373~454円です。それに対して350ml缶の電動充填機は313~385円です。瓶の手動充填機と缶の電動充填機だと1本あたり125円以上のコストが削減できます。
――:単純な計算になりますが、1回の仕込み量が500Lのところだと約18万円以上の差が出る。これは大きな差ですね。
ピーター:はい。人件費などの諸経費によって変わってきますが、年間50回仕込むと約900万円の差になります。これだけの資金があれば色々なことができます。
――:そうですね。コスト以外のメリットはありますか。
ピーター:他には紫外線による品質劣化を防げること、お店に置いてもらいやすいこと、ブランディングに有利な点があると思います。
――:缶は光を通さないので、紫外線による劣化を防げるというのは昔から言われています。
ピーター:そうですね。缶は、お店の照明や冷蔵庫の蛍光灯の光による劣化を防げます。
――:お店に置いてもらいやすいというのはどういうことでしょうか。
ピーター:瓶はブルワリーでサイズのバリエーションがあるけど、簡単に重なることができないのが一番の原因だと思います。コンビニやスーパーなどは自分たちの商品棚を合う商品を選ぶ必要が出てきます。
――:そうなると入荷したいビールが選べない可能性がありますね。
ピーター:はい。これはお店にとって面倒なことです。缶ならば大きさは同じなので、自分たちのお店のコンセプトに合うビールを選びやすいです。
――:売り場スペースにもよりますが、同じ大きさで揃えられるので色々なビールを置くことができます。
ピーター:コンビニやスーパーで販売されることで、熱心なビールファンではない人の目に触れやすくなり、これまで飲んでいなかった人が購入して飲む可能性が高くなります。販売場所の増加は、ファンを増やすきっかけとして期待できます。もちろん、熱心なファンも購入しやすくなりますね。
――:購入できる場所が増えるのは嬉しいです。もう1つのブランディングは、瓶よりも缶の方がラベルを貼るスペースが広いので様々な情報を載せることができるということでしょうか。
ピーター:おっしゃる通りです。アメリカのブルワリーは、ブランディングにかなり力を入れています。あるブルワリーでは、同じビールでも毎回デザインを変更します。自分たちのビールをアピールするのに有効的に使っています。
――:海外ブルワリーのデザインは個性的なものが多く、部屋の飾りとして使えそうなものも多いです。
ピーター:日本でも新しいブルワリーは、缶を選ぶところが増えてきていますね。東京のVERTEREは、500ml缶を展開しています。お話を聞くとラベルに力を入れていて、購入者がSNSに写真を投稿してくれて、ブランド宣伝効果があるということでした。彼らのデザインを気に入って、タップルームに足を運んでくれている方もいます。
――:デザインからブルワリーに興味をもってもらうというのは良いですね。
ピーター:良いですよね。
――:ハードルが下がってきてメリットが大きくなっているということですが、デメリットはないのでしょうか。
ピーター:デメリットでいうと溶存酸素量(詳細はこちら )を調整できるかという課題があります。機械の性能も影響して、まだ酸化の原因となる溶存酸素の量を調節するのが難しい面があります。解決には作業をする人の技術も必要です。さらに溶存酸素を測定する機械も導入すると、さらにコストが増えて費用負担が大きくなります。
――:しかし、品質を考えると大事なところですよね。
ピーター:そうですね。でもクリアできない問題ではないと思います。技術の向上でカバーできると思います。
――:Y.MARKET BREWINGさんもビールの量を増やして缶の中で酸素が触れる量を少なくして対応しています。今後、機械の性能が良くなれば解決しやすくなるのはないでしょうか。この他に缶製品が増えてくのに課題はありますか。
ピーター:缶詰め機の価格が下がってきていますが、安価なものではありません。日本の小規模ブルワリーの年間平均利益は700万円くらいと言われています。設備に投資して回収するまで数年がかかるので、実際には補助金を利用したり金融機関に借入をしたりするのが一般的です。収支を算出して導入が現実的なのか判断しなくてはいけません。
――:自分たちの経営に合った設備を選択することが大事ですね。
ブルワリー業務の効率化をサポート
――:今回は缶製品についていろいろお話を聞かせていただきありがとうございました。Best Beer Japanでは、ブルワリー業務をサポートするサービスを展開しているということで最後に教えてもらってもいいですか。
ピーター:私たちの会社のサービスは、大きく分けると3つあります。1つ目が月末の酒税の申請といったブルワリーの帳面を自動化できる管理システム。2つ目が受注管理など自動化できる業務用のECサイトで、納品書や請求書を1クリックで発行できます。3つ目が運送費を半分にすることができる樽のシェアリングサービス「レン樽」です。
――:樽のシェアリングサービスというのはどういうものなのでしょうか。
ピーター:ブルワリーは樽を私たちから取り寄せて飲食店に送るだけなので、回収を考える必要がなくなります。空樽を置いておかなくていいのでブルワリーのスペースを確保できますし、樽を購入する予算を浮かすことができるサービスです。
――いいですね。
ピーター:何と言っても樽を管理する手間がなくなるので仕事の効率が上がります。樽への投資分を発酵タンクや人件費など他に回せる選択肢を増やすことができます。
――:樽の管理は大変と聞きます。よく樽が足りなくて、飲食店に返送を促す投稿を見ます。
ピーター:「レン樽」を利用すれば、必要な分だけ取り寄せて使えます。飲食店に送った後のことは考えなくていいのでストレスが無くなります。興味のある人はBest Beer Japanのウェブサイトを見てください。
缶製品導入やBest Beer Japanのサービスについての相談は、Best Beer Japanウェブページからお願いします。
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