コロナ禍でも生産量アップ。秩父麦酒は地元との繋がりを強くして価値を高める
「コロナ禍でもなんとか生産量を伸ばすことができました」
東京や大阪など19の都道府県に発令された緊急事態宣言が解除された10月上旬。コロナ禍の状況を聞きたく埼玉県秩父市の秩父麦酒に足を運びました。そこでヘッドブルワーの丹広大さんから出てきたのが冒頭の言葉です。
「コロナ禍前は樽の販売量が7割」という秩父麦酒。イベントの中止や飲食店が営業の自粛を求められる中、どうやって生産量を伸ばしたのか。そこには丹さんが「秩父」を考え続けてきた行動がありました。
目次
コロナ禍前に見えていた目標の達成
秩父麦酒が醸造を開始したのは2017年10月。「醸造が始まってから1年は色々なことを考える余裕もなく時間が過ぎていきました」と振り返る丹さん。その後も会社を成長させるために醸造量を増やして対応。「自分が思い描いていたビジョンで成長できました」とスタッフも増えて順調に来ることができたと話します。
順調に歩んできた秩父麦酒。当時はどんなことを考えてブルワリーを運営していたのでしょうか。
「ブルワリーを立ち上げるときに自分が造りたいビールだけではなくて、地域の中で『どんな存在になれるか』を考えていました。会社としてどのくらいの量のビールを造れば地域から存在価値のある会社として認めてもらえるのか。そのためには仲間や利益、販売場所がどのくらい必要なのかを意識して事業の計画を立てました」
丹さんが掲げたのは継続して毎月5kl、年間では50~60klのビールを造り、販売をすることでした。
そのような中、2020年2月ごろより新型コロナウイルスの感染が拡大。新型コロナウイルスは、秩父麦酒にどんな影響を与えたのでしょうか。
「新型コロナウイルスの影響は色々ありました。しかし、蔓延していく前に掲げていた事業目標の達成がみえていたので、先を見据えて対応をすることができました」と振り返ります。
コロナ禍前に目標の達成が近かったとはいえ、「コロナ禍になってからは樽の販売量は全体の1割まで落ち込みました」という秩父麦酒。コロナ禍でどんな行動をとったのでしょうか。
動けないことを逆手にとって秩父周辺の素材を使って、地域の魅力を引き出したビールでアピール
「緊急事態宣言の発令などで飲食店でのビールの販売が難しくなりましたが、それで『ビールが売れない』で終わらすわけにはいきません。起業当初は、2人で始めた会社ですが、今では私を含めて6人のスタッフがいます。お酒を販売できない緊急事態宣言下で、私1人でしたら他の事業を始めることなども考えたかもしれません。しかし、一緒に頑張って秩父麦酒のブランドの価値を高めてくれる彼らのことを考えたらビールを造って販売することを止めてはいけないと思いました」
自分たちのビールを売る手を止めない。そこで丹さんが取った行動は、地元との人と関係を強くして地場を固めることでした。
「私たちは自分たちのビールを飲む人が『人の癒しになってほしい』『笑顔になってほしい』と考えています。そして、秩父の土地で愛されるビールを目指しているブルワリーです。暗中模索しながら考えたのが、秩父周辺の素材を使って地元の魅力を引き出したビールを造って販売することでした」
使うのは市場で販売されることがない規格外のフルーツや植物。「使う原料は、市場価格で購入するようにしています。そうすることで取引相手も継続した生産活動をしやすくなります。地域を盛り上げていくためにはwin-winの関係を築いていかないと続いていかないですからね」
行動が制限されるコロナ禍で原点である「秩父の土地で愛されるビール」の実現を目指した丹さん。地元の人たちとのつながりを強くしたビールで、飲んだ人の癒しとなり、笑顔になるビールを造るブルワリーを選びました。
しかし、魅力あるビールを造っても購入する人が増えなければ生産量の増加にはなりません。どうやって購入する人を増やしたのでしょうか。
「コロナ禍で観光客の数は減少しています。人数は少なくなってきますが、訪れた人の購買意欲を強くする仕掛けをつくりました。オリジナルデザインのビールを造り、その場所でしか購入できないビールを販売しました。秩父には車やバイクで訪れる人も多いです。そういう人たちが立ち寄る場所に限定して販売しました。そうすると色んなビールをスタンプラリーの感覚で購入してくれるようになり、結果として生産量を増やすができました」
色々な場所を探しながら購入することは、秩父の魅力を感じてもらいやすくなるほか、取り扱うお店の売り上げの貢献にもなります。お店に「秩父麦酒は人気がある」と認知されれば取り扱う商品を増やしてもらえる可能性が高くなります。秩父麦酒の良さが伝わっていけば取り扱うお店も広がり、取り扱うお店が増えればお客さんも購入しやすくなるという好循環が生まれていきます。
「コロナ禍だから仕方がない」と諦めるのではなく、みんなが笑顔になれる好循環を生む仕組みをつくることで厳しい状況を地域の人たちと一緒に乗り越える方法を考えたと話します。
関わる人が喜ぶ提案をする仕事をしていく
秩父麦酒では、コラボレーションや他業種との連携も積極的に行ってきました。どんなことを意識して行っているのかも聞いてみました。
「関わってくれる人たちを歓喜させる内容を提案することです。それは決して誰にも真似できないとか珍しいものではありません。普通のことでも少し視点を変えるだけでも新しいアイデアが生まれます。そういうことを意識しています」
現在取り組んでいる近隣の寄居町の梅を使用した「寄居ビール 梅」は、最後に残った酒蔵が廃業となり「自分たちの町の酒」が無くなってしまった寄居町の人が「自分たちの町の酒を売りたい」という思いに共感して造ったビールです。しかし、これだけでは普通のご当地ビールです。そこに地元の特産品である梅を使用することで、生産者、酒販店、飲食店など地元の人たちが潤い、活性化する仕組みを提案して寄居町の人たちと造りました。
こうした地域と連携する取り組みを続けていくことで秩父麦酒には多くの依頼が来るようになっています。依頼すべてに対応することはできないが、「必ず1度は話を聞くようにしている」と言います。話を聞く中で「お互いが興味をもてる内容なのか」「飲み手に向けて楽しみを発信できるか」を大事にしていると言い、その次に継続性を考えて、採算は最後に考えると話します。
また、秩父麦酒では、取引をする際に必ずどんな思いで自分たちのビールを扱いたいのかを聞くようにしていると言います。都内で常設など定期的な取引をする飲食店や酒屋の場合は、「担当者の方と直接意見交換もできますし、お客様にビールの説明ができるので自分で配達をしています」と積極的にコミュニケーションをとるようにしています。
コミュニケーションをとることで、売り手や飲み手が自分たちの理解者になり、「彼らが間に入る形でファンをつくってくれます。中には私たち以上に秩父麦酒を語れるお店や人もいます(笑)」とこんなに嬉しいことはないと話します。
こうしたポジティブな対応もコロナで売り上げを伸ばした要因になっているのではないかと思いました。
造りたいビールもいっぱいある。コロナ禍でも状況をみて積極的に動いていく
まだ新型コロナの収束は明確に見えていません。そのような状況下で丹さんは秩父麦酒のこれからをどのように考えているのかを聞いてみました。
「地元の人たちとの関係強化は継続してやっていきます。すべての期待に応えるのは難しいですけど、お互いの魅力がアップすることは積極的にやっていこうと思います。そして、秩父麦酒と関わる人たちが潤うシステムを築いていきたいです」
自分たちだけが得をするのではなく、関わる人も一緒に成長していける関係をつくりたい。人との付き合いを大事にしてきた丹さんらしい答えでした。
「全国でイベントができるようになったら、遠征して出店した先の特産品を仕入れてビールを造ることもしてみたいですね」と交流ができた土地の素材を使用したビールづくりをすることで、その土地を知ってもらう活動も検討しています。
ビールづくりについても聞いてみました。
「自分たちの特徴である『優しい味』『柔らかい味』を保ちつつ、ベースとなるビールの品質を高めていきます。その中で、木樽を使ったチャレンジングなビールも造ってみたいですね」
最後にビールファンにメッセージをもらいました。
「この1年半、新型コロナの影響で人との繋がりが分断されてしまいました。改めて、人と会って乾杯する大事さを感じています。本格的なイベントが再開できるまで時間がまだ必要になると思いますが、少しずつ新しい形のイベントも開催されてきています。私たちも、今できることを取り組んでいきます。限られた環境下ですが、皆様と乾杯ができればと思います。引き続き秩父麦酒をよろしくお願いします」
秩父の熊さんたちの取り組みが新型コロナ収束後に、どんな風に花を咲かすのでしょうか。彼らの活躍をこれからも見守っていきたいと思います。
秩父麦酒のビールとグッズが定期的に届く頒布会やっています!
秩父麦酒 Data
会社名:合同会社 BEAR MEET BEER
住所:埼玉県秩父市下吉田3786-1
※コンタクトはFacebookよりお願いします。
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。