[コラム,ブルワー]2022.4.22

【川口・荒川サンセットIPA】『映画 翔んで埼玉』の名言「口が埼玉になる」を真面目にビールで考える④

“ビール醸造所のあった街” 埼玉県川口市

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1989年当時の『サッポロビール埼玉工場』(画像提供:サッポロビール株式会社)

かつて川口市は、埼玉県で唯一、“ビール醸造所のある街”だった。

現在の川口市並木町周辺に、『日本麦酒鉱泉東京工場』が建設されたのが1923年。
1933年には合併により『大日本麦酒川口工場』へと変わり、1949年には、大日本麦酒株式会社が日本麦酒株式会社(現・サッポロビール)と朝日麦酒株式会社(現・アサヒビール)の2社に分割されたことにより、『日本麦酒川口工場』となる。
そして、1987年に『サッポロビール埼玉工場』に名称が変更された。

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川口市・リボンシティ内のマンホール

『サッポロビール埼玉工場』が閉鎖されたのは2003年9月8日。
『日本麦酒鉱泉東京工場』が建設されてから、実に80年の月日が経っていた。

川口市のシンボルの1つでもあった『サッポロビール埼玉工場』が閉鎖してから10数年の間、川口市は“ビール醸造所のある街”から、“ビール醸造所のあった街”になってしまった。
川口市にビール醸造所があった名残が、『サッポロビール埼玉工場』跡地に建設された『リボンシティ』の中には残っている。

川口ブルワリー “ビール醸造所のあった街”から、再び“ビール醸造所のある街”へ

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川口市には4つのブルワリーがある

川口ブルワリー
星野製作所(麦)
GROW BREW HOUSE
ぬとりブルーイング
2022年4月現在、川口市には4つのビール醸造所が稼働している。
ひとつの市町村内にあるビール醸造所の数としては、所沢市と並んで埼玉県内最多を誇る。

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川口ブルワリー

中でも先陣を切り、2016年に醸造を開始したのが『川口ブルワリー』だ。
川口市には、江戸時代後期より麦味噌造りが盛んに行われてきた歴史がある。
味噌造りもビール造りも、同じ“醸造”。
「川口市を再び醸造文化のある街にしたい」
そんな想いをもって『川口ブルワリー』はスタートした。

定番ビール【荒川サンセットIPA】

夕焼けと【荒川サンセットIPA】

『川口ブルワリー』には、【川口御成道(おなりみち)エール】【荒川サンセットIPA】【WhiteLilyヴァイツェン】の3つの定番ビールがある。
どれも素晴らしいが、私にとって印象深いビールが【荒川サンセットIPA】だ。
初めて飲んだときから、どこか懐かしさを覚えた。

今回は、何故【荒川サンセットIPA】に懐かしさを覚えたのか考察してみよう。

荒川の夕暮れと子どもの頃の思い出《色》

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夕焼けに染まった【荒川サンセットIPA】

以前は『川口ブルワリー』でしか飲めなかったビールだが、2021年5月からは瓶の販売も開始している。
“サンセット”とは、“夕暮れ”や“日没”を意味する言葉。
私は夕暮れ時の荒川河川敷で【荒川サンセットIPA】を飲み、懐かしさを覚えた理由を探ってみることにした。

少しずつ赤みを帯びてくる空の下、私は荒川河川敷を見下ろす土手の上で【荒川サンセットIPA】をグラスに注いだ。
液色は“赤茶色”。
その名の通り、夕暮れ時の空をイメージしたような美しい色だ。
夕暮れの空を見ると、過去を思い出す人が多いという。
もしかしたら、その液色が、私に懐かしさを感じさせたのかもしれない。

空は赤みが強くなっていく。
河川敷でサッカーや野球を楽しむ子ども達も、そろそろ帰宅の時間が近いようだ。
自転車に乗り、元気に土手を駆け上がってくる。
気がつけば私は、その小学生の姿に、野球少年だった小学生の頃の自分を重ねていた。

荒川の夕暮れと子どもの頃の思い出《甘味》

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原材料は麦芽、ホップ、ハチミツ

【荒川サンセットIPA】からは、柑橘類の香りやホップの苦味の中に、優しい甘味を感じる。
モルトの甘味だろうか。
原材料をみてみると、そこには「ハチミツ」とある。
醸造長の五島 脩さんに話を伺うと、「ハチミツの使用量は、味にはほとんど影響ない程度」とのことだった。
しかし、懐かしさを覚えた要素の一つではありそうだ。

繰り返しになるが、私は生活のすべてを野球に費やす小学生時代を過ごした。
当然、週末は朝から夕暮れまで野球漬け。
そんな週末の疲れを癒してくれたのが、保護者の方々が用意してくれた「レモンの蜂蜜漬け」だ。
甘酸っぱい「レモンの蜂蜜漬け」を、昼休憩と1日の終わりに食べた。
ただ食べるだけでなく、麦茶に入れて飲むことを好んだ。。
大きなウォータージャグで大量に用意してくれていた麦茶も、夕暮れ時には残り少なくなっている。
当然、麦の味が濃く、苦みや渋みも強くなっている。
そこに「レモンの蜂蜜漬け」を入れると、苦みと甘味が混ざり合い、香りも良くなるのだ。
私はその飲み方が大好きで、疲れた夕暮れ時に飲むドリンクの定番だった。

もちろん、現在の私は「レモンの蜂蜜漬け入り麦茶」よりビールを好む。
夕暮れを迎える前からビールを欲する大人になることを、小学生だった私は知る由もない。

【荒川サンセットIPA】は「口がノスタルジーになるビール」

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日が沈むにつれ、ノスタルジーな気分になる

私は「口が埼玉になるビール」を探求している身として、【荒川サンセットIPA】にもその可能性を感じた。
埼玉県には海はないが、県内各地に川が流れる“川の国埼玉”である。
河川敷も多い。
きっと、私と同じような“夕暮れ時の記憶”を持つ方もたくさんいることだろう。

まだ冷たい風が吹く夕暮れ時の荒川河川敷で【荒川サンセットIPA】を飲むことで、目の前のことに熱中し、毎日が刺激的だった子どもの頃を思い出した。
私が初めて【荒川サンセットIPA】を飲んだときから感じていた“懐かしさ”は、このことだったに違いない。
【荒川サンセットIPA】は、「口がノスタルジーになるビール」だ。

 

余談ではあるが、土手の上、【荒川サンセットIPA】を飲みつつ荒川に沈む夕日を眺めていた私に、元気に土手を駆け上がってきた小学生は言った。
「おじさん、何しているの?何かあったの?」
私の返答を待つことなく去っていく小学生。
少年よ、心配いらない。
君も楽しいだろうが、大人も最高に楽しいぞ!

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※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

南原 卓也

ビアジャーナリスト/樽生アドバイザー

埼玉県にある“日本一面積の小さい市”で生まれ育ったビール好き。
サントリー樽生アドバイザー、業務用酒販店の営業を経て、埼玉とお酒を伝えるライターになりました。

【日本ビアジャーナリスト協会】2021年新人賞 受賞
【日本ビアジャーナリスト協会】2022年最優秀執筆賞 受賞

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