「奈良醸造」浪岡安則さんが考える日本オリジナルのビアスタイルとは? 「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅Vol.2」レポート
「日本オリジナルのビアスタイルとして成立するビールはどんなものなのか?」
株式会社CRAFT BEER BASEの谷和さんが立ち上げた毎月開催のオンラインイベント「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅」。3月22日に島根ビール株式会社(以下、島根ビール)矢野学さんをゲストに迎えて第1回を開催した。
このイベントの第2回が、4月22日(金)に奈良醸造株式会社(以下、奈良醸造)代表取締役兼醸造責任者の浪岡安則さんをゲストに迎えて開催された。
浪岡さんが考える日本オリジナルのビアスタイルは何なのか。イベントの進行役を務めた筆者がまとめ、レポートしていく。
意識しすぎると動けなくなる。考えに縛られないビールづくり
今回、谷さんが浪岡さんをゲストに決めたのは、奈良を大事にしている奈良醸造のビールから「日本らしさを感じた」こと。
今回、イベントビールとして選ばれたのが「PHILHARMONY」。日本に古くから野生している大和橘という柑橘を使用したビールだ。谷さんは、奈良醸造のビールに「地域を大切にしている」と感じていて、「歴史ある奈良だからこそオリジナルが生まれる可能性があるのではないか」と言う。
それについて浪岡さんは、「奈良は歴史ある町です。しかし、オリジナルをつくるとなると、その長い歴史を紐解いていかないといけません。私は意識しすぎると何もできなくなってしまうので、意識しすぎないように心がけています」と意外な回答が返ってきた。
また、今回のイベント出演に際して、改めて自身のビールづくりを振り返ったと言う。たどり着いた答えは、「新しいビアスタイルをつくり出そうと思ってビールをつくっているわけではない」ということ。「そんなことを考えてしまったら、私は怖くてビールがつくれません」と恐縮されていたのが印象的だった。
「PHILHARMONY」についても、「たまたま近くに『大和橘』という日本に古くからある柑橘を復活させようという試みをされている方がいたから」と、日本オリジナルを意識したものではないと言う。
意識していないことに対して「近くにいるから感じないのでは?」という谷さんの問いに対しても「奈良醸造は2018年からビールをつくり始めています。その当時、奈良にはすでに3つのブルワリーがあって、先輩ブルワリーが『奈良らしさ』を追求している中でスタートしないといけませんでした。先輩方の背中を追いかけるよりもクラフトビールの広がりの中で自分たちらしさを考えた方が縛られずに魅力的なビールをつくることできると思いました」と奈良醸造のスタイルを話す。
日本酒に影響を受けた「UNDERWATER」も自分の関心から生まれたビール
前回の島根ビールでは、日本酒の要素を取り入れた「おろち」が、日本オリジナルのビアスタイルになる可能性があるのではないかという話があった。奈良醸造でも「UNDERWATER」という日本酒の要素を取り入れたビール(酒税上は発泡酒)をつくっている。「UNDERWATER」からはオリジナリティを感じなかったのだろうか。
「『UNDERWATER』は、原料を使わせていただいた油長酒造さんへ蔵見学に行ったときに『この酵母でビールをつくったら面白いのでは?』というやり取りがあって『面白そう』と思っただけで、つくることが決まった後に、『どうやってつくればいいんだ?』って我に返ったくらいです(笑)」と、あくまでもブルワーとしての関心からだったと言う。
「島根ビールの矢野さんも日本オリジナルのビアスタイルをつくろうと思って『おろち』をつくったわけではなく、自分がチャレンジしたいことや地元のオリジナル性が出せるのはないかということでした。矢野さんと浪岡さんの話を聞いていて、独自性のあるものは偶発的に生まれてくるのかなって思いました」と谷さん。
「ビールは副原料を使うなど、製法も自由さがあるお酒です。だからこそ独自性が生まれやすいと思います」という谷さん。その中で、歴史ある伝統的な製法やビアスタイルを大事にしながら、論理的に紐解いて新しいものをつくりあげていく取り組みが大事ではないではないかと語ると、浪岡さんも「要素を分解して、今の技術でもう一度取り込み直すことができれば良いですね」と同調していた。
ベースビールを正しく理解する。それができないと新しいものは構築できない
「私はビアジャッジを務めているので、『新しいビアスタイル』という視点から考えるのかもしれません。だけど、矢野さんや浪岡さんが考えるように自然に重なって1つの形になるものが新しいビアスタイルとして確立するのかなと思いました。ビールをつくるという基本軸を持ちながら、未知のことに挑戦していくことが新しいものを生み出す姿勢として良いのかもしれないですね」
谷さんが言うように、筆者も新しい形をつくることでオリジナルのビアスタイルが誕生すると考えていた。
ちなみに浪岡さんは、ビールのレシピをどんな風につくっているのだろうか。
「好奇心から考えることもありますし、自分が飲みたい味を考えてレシピを組むこともあります」
谷さんも「始まりは、『自分が飲んでみたい』でもいいと思う」と言えば、浪岡さんも「それは大事だと思います。楽しめないと新しいことは生まれないのかなって考えています。自分が飲みたいお酒をつくれるところがクラフトビールの醍醐味だと思っています」と答える。
「確かに普段から何か新しいものを生み出そうとしているわけではなく、自分たちのビールをいかに楽しんで飲んでもらうかを考えています。その中でオリジナリティも出していかないといけない。そして、長く飲まれ続けるビールでないと新しいビアスタイルの構築にはならないと思います。だから身近にあるものって財産なんじゃないかなと思います」と谷さんは自身の考えを示すと、「新しいものを意識してつくることができたら凄いことですけど、狙ってできるものではないです」と浪岡さんは苦笑いで返答していた。
では、既存のものからオリジナルを考えていくとしたら、どんなことが必要なのか。
「ベースとなるビアスタイルをしっかりつくることではないでしょうか。その上で、どうアレンジしていくか。ベースを理解できていないとアレンジをしても『なぜ、この味になったのか』が分からないと思います。音楽に似ているのではないでしょうか。基礎がないと新しい音楽は生み出せませんから」と浪岡さん。
谷さんも「基本を知って忠実につくることができることは重要」と言う。
「再現性がないと新しいビアスタイルの構築にはなりませんね。誰か1人しか造れないものは形として認められないでしょう」と浪岡さん。
ブルワーに認知されて、色々な人につくられるビールになること。確かに多くの人形にしないとビアスタイルとして構築するのは難しい。「多くつくられる」は、新しいビアスタイルの1つのキーワードになりそうだ。
今回、浪岡さんの話を聞いて、「日本オリジナルのビアスタイルはこういうもの」と形ではなく、オリジナルが生まれるために必要なメンタリティが中心だったのは興味深かった。
「型を生み出すために重要なことは何か」
浪岡さんの考えは、ビールに限らず私たちの仕事にも当てはまる。色々考えさせられる内容だった。
次回は、2022年5月24日(火)20時から。ゲストは日本地ビール協会認定シニアビアジャッジの小嶋徹也さんをお迎えする。無料で参加できるオンラインイベントなので関心のある方は参加してほしい。
「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅」の情報はFacebookページを中心に告知します。
また、今回のイベントを音声にまとめたものをPodcastでも配信しています。参加できなかった方、聴いてみてください。
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。