シニアビアジャッジ小嶋徹也さんが考える日本オリジナルのビアスタイルとは?「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅Vol.3」レポート
月に1度、オンラインで実施している「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅」。第3回は、Craft Beer Association認定シニアビアジャッジ小嶋徹也さんをゲストに迎えて5月24日に開催された。
小嶋さんは、日本オリジナルのビアスタイルをどのように考えているのか。イベントの進行役を務めた筆者がまとめ、レポートしていく。
目次
基準であり、道しるべなのがビアスタイル
今回は世界のビール審査会で審査員を務める小嶋さんがゲストということで、イベント企画者の株式会社CRAFT BEER BASE谷和さんが「はじめにビアスタイルについて説明をしてほしい」と要望。小嶋さんからビアスタイルの説明が行われた。
「ビアスタイルガイドラインが誕生したのは1979年のアメリカと言われています。きっかけはホームブリュワーたちの審査会を開催することになり、カテゴリーを決めることになったことです。カテゴリーを分けるため、基準を設ける必要があったことが始まりとされています。品評するための物差しとして生まれました」
ビールごとの基準を定義したものがビアスタイルだという。
谷さんはビアスタイルを民族衣装と例える。その理由を「民族衣装には型とか文化があって、それを理解して正しくつくるところが似ています。時代とともに型や文化が変化して新しい形になっていく」と語る。
造る側にとって基準となるビアスタイル。基準は、飲む側にとっても重要な指標になると小嶋さんと谷さんはいう。
「ビアスタイルという指標があった方が自分の好きなビールを探しやすくなると思います。ビールは、自分が飲みたいビアスタイルを探していくと、同じフレーバーのビールを手に入れやすいです」と小嶋さん。
確かにビアスタイルを知っていることで、飲食店でメニュー表をみても「これはこんな感じのビール」とイメージを付けることができる。飲み手にとってもビアスタイルの理解は大事だと感じた。
ビアスタイルとして確立するための条件とは?
新しいカテゴリーをつくるときの基準はあるのでしょうか。
「私の中には3つあります。1つがスタイルとしての重要さ。2つ目がたくさん造られているもの、最後が審査会で評価が高いものが可能性としてあると考えています」と小嶋さん。
ここ数年で言えばHazy IPAが当てはまる。「少し前まで存在していなかったビアスタイルです。それが今では世界中のブルワーが醸造することで1つのカテゴリーとして成立するようになりました」と谷さん。
ビアスタイルとして確立するためには、「多くの高品質のビールが商業ベースで販売されるようになると可能性が出てくる」と小嶋さんは話す。
ちなみに日本でも「WORLD BEER CUP」のビアスタイルガイドラインを参考にしながら独自のビアスタイルを決めている。現在、「Craft Beer Association」が作成しているビアスタイルガイドラインでは日本発祥のビアスタイルが4つあるという。
「酒イースト、柚子ビール、節税型発泡酒、その他のビール風味アルコール飲料(新ジャンル)です」。柚子ビール、節税型発泡酒とその他のビール風味アルコール飲料は、日本にしかないカテゴリーだという。
柚子ビールは、以前はフルーツビールカテゴリーに含まれていたが、受賞ビールが増えたことや韓国でも多く醸造されるようになったことからアジアのビールを世界にアピールする意味を込めて新設された。
それではオリジナルビアスタイルを構築していくためには、どんな進め方が理想なのだろうか。
「ブルワーは、新しいビアスタイルを生み出そうと意識してビールを造っている人は少数ではないでしょうか。しかし、理解をしておくことは重要だと考えています。『CRAFT BEER BASE』も醸造部門を設立してビールを造ったことで、ビアスタイルをより深く理解することができるようになりました。ビアスタイルを手本としてビールを造ることは、その国の製法や風土、歴史に触れることにもなります。ビアスタイルを正しく理解してアレンジをしたり構成を組み替えたりすることで多様なビールを造っています」と谷さん。
小嶋さんは、「審査会では基準を満たさないと評価されませんが、日本のアイデンティをビールで表現するのならば、ビアスタイルに縛られる必要はなく自由に造って良いと思います」と話す。
ブルワーたちの創造性に富んだビールの中から「これは自分も造ってみたい」「美味しい」と多く造られるようになり、認知されることが新しいビアスタイルを構築する可能性がありそうだ。
一定の地域で造られるビールが日本オリジナルになる?
これまでの2回では、清酒酵母や麹を原料に使用したビールに注目してきた。「Craft Beer Association」「BREWERS ASSOCIATION」のビアスタイルガイドラインにもある清酒酵母や麹を原料に使用したビールについて小嶋さんの考えを聞いた。
「日本と海外では原料の使い方に対する考えが違う印象があります」と醸造方法が違うのでビールのキャラクターも変わってくるといいます。谷さんも「海外で造られる酒ビールを飲んでみると考え方が違うなと感じます」と同じ考えを示していた。
「日本は日本酒が身近にありすぎて、特別なものを造っている感覚が薄いのかもしれません。土地にあるものを使って自分たちらしさを出すくらいの感覚なのかもしれません」と小嶋さんは推測する。
では、日本古来の原料を使わない日本らしさを持ったビールは生まれないのだろうか。
「あえてクラフトビールではなくて地ビールと言ったときに、その土地の料理と合わせる考え方はあると思います。第1回の松江ビアへるんの矢野さんも話していましたが、原材料だけでオリジナル性を出すのではなく、風土に合うビールという視点からもオリジナル性はつくれるのではないかと考えています」と小嶋さん。しかし、風土に合うビールがビアスタイルとして成立させることは「難しいのではないか」と付け加えていた。
谷さんも「例えば、和食に合わせると言っても地域によって郷土性が違います。1つの括りの中で成立させることは難しいでしょう」と同意見であった。
しかし、海外をみると地域で造られて飲まれていたビールが、時代とともに違う地域でも造って飲まれるようになってビアスタイルとして確立したケースはあります。日本でも同じことが起こる可能性はないのでしょうか。
「確かにドイツは地域で造るビールが違い、それが今ではビアスタイルとして確立しています。イギリスは同じビールを造っても水質が異なるので違うビールになったものがビアスタイルとして確立しました」と谷さん。
長い時間が必要になるだろうが、地域で流行ったビールが他の地域でも人気となり、波紋のように広がることで1つのビアスタイルが確立される可能性はあると思う。
The International Beer Cup 2022では新しいビアスタイルが登場予定
回の終盤では、小嶋さんから大きなニュースが伝えられた。
「今秋、開催予定の『The International Beer Cup(以下、IBC) 2022』では、『Japanese Green Tea Beer』と『Other Tea Beer』の2つ新しいビアスタイルが加わる予定です」
「Japanese Green Tea Beer」は、緑茶やほうじ茶を使用したものが対象で、「Other Tea Beer」は、中国茶や紅茶など茶葉を発酵させたものが対象になるという。そのため、そば茶のようなものは対象外となり、エントリーする場合はスパイス・ハーブ部門またはフリースタイル部門になる。
日本に根付いた文化であるお茶は、世界に日本オリジナルのビアスタイルをアピールできる可能性があるため選ばれた。「IBC」は、世界から審査員が来日して審査が行われる。その中で、注目されれば海外のブルワリーでもお茶ビールが広がり、結果として海外の審査会でもカテゴライズされる可能性が出てくる。今後に期待が持てる「お茶ビール」には注目しておきたい。
今回は、ビアスタイルに沿いながらアレンジしていくこと、新しいビアスタイルの確立には多くのブルワリーで醸造されて造り手にも飲み手にも幅広く認知されること、日本特有の原料や風土にオリジナルビアスタイルが生まれる可能性を感じた。特に日本酒酵母や麹は、これまでのすべてのゲストが可能性を感じており、日本オリジナル確立に最も近い存在ではないかと感じた。
次回の開催は、2022年6月27日(月)20時から。ゲストはキリンビール株式会社マスターブリュワーの田山智広さんをお迎えする。無料で参加できるオンラインイベントなので関心のある方は参加してほしい。
「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅」の情報はFacebookページを中心に告知します。
◆小嶋徹也さん訳書 コンプリート・ビア・コース──真のビア・ギークになるための12講
また、今回のイベントを音声にまとめたものをPodcastでも配信しています。参加できなかった方、聴いてみてください。
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。