門司港レトロビールは、あえて伝統的なビアスタイルで魅せていく!
第二次世界大戦までは国際貿易の拠点として栄え、神戸港、横浜港とならび三大港と呼ばれていた門司港。現在は、明治から昭和初期にかけて建築された歴史ある建物を生かした観光地となっていて、年間200万人以上の人が訪れる地域です。
この門司港に1998年に誕生したのが門司港レトロビール(現在のブランド名は門司港ビール)です。ヴァイツェンは、全国地ビール醸造者協議会が実施する「全国地ビール品質審査会」で2019年と2021年に最優秀賞を受賞しています。
近年は新醸造所やレストランの移転、缶ビールを発売するなど活発な動きをみせている門司港レトロビール。どんな思いでビール醸造をしているのでしょうか。醸造部部長の峯松幸之助さんに話を聞きました。
目次
創業者がアメリカで飲んだヴァイツェンから始まった物語
「海を眺めながら美味しいビールを飲みたい」
門司港レトロビールの始まりは、創業者がアメリカ・ワシントン州タコマ市にあるEngine house NO.9で飲んだヴァイツェンに感動したことです。「美味しいビールを地元である北九州の港町でも飲めるようにしたい」と1998年に関門海峡が一望できる港のそばにブルワリーをつくり醸造を開始しました。
2018年には醸造規模を拡大するため、約300m離れた場所に新ブルワリーに移転。旧ブルワリーに併設していたレストランも2020年に小倉に移転しています。
2021年には缶ビールの販売を開始。ブランドロゴも新しくなりました。現在のロゴは、ブルワリーを立ち上げるきっかけとなったEngine house NO.9の頭文字にかけています。「E」を右に90度回転させて「M」にみせることで尊敬の気持ちを込めています。
しっかりした香りと味わいのヴァイツェンを中心としたビール造り
創業者がヴァイツェンに感動したことから始まった門司港レトロビール。フラッグシップビールは、もちろんヴァイツェンです。
「創業者の思いもありますが、私たち自身もドイツの郊外で飲んだ小麦の穀物感や酵母由来のエステリーな香りがしっかり感じられるヴァイツェンの美味しさに感動しました。門司港レトロビールのヴァイツェンもしっかりした香りと味わいにしようということで、使用する麦芽比率は小麦麦芽を6割にしています」
その他にもフレッシュな状態を飲んでもらえるよう醸造スケジュールもヴァイツェンを中心とするなど強い思いを持っています。
この他には、ペールエール、ピルスナー、サクラビールの定番ビールと季節ごとに醸造する限定ビールやJリーグギラヴァンツ北九州応援ビールのギラヴァイツェンなどがあります。
現在のラインナップは、基本的にはヨーロッパの伝統的なビアスタイルが多いです。その理由は2つあるといいます。
「1つは創業者が飲んで感動したビールを伝えていきたいことや伝統的なビールを飲んでほしいことがあります」
創造性のあるビールが次々に誕生していく中、原点のビールを知ってほしい思いも込めて、あえて伝統的なビアスタイルを造り続けています。
「もう1つは品質向上です。同じビールを造ることで課題点が明確にしやすくなります。品質の良いビールを造るためには、醸造技術の向上が必要です。色々なビールを造り続けることで学べることもあります。しかし、私たちは高い再現性を意識しながらブラッシュアップしていきたいと考えています」
野球の素振りのように繰り返し醸造することで技術を安定・熟練させることを大事にしています。限定ビールも「定番ビールの製法や品質向上に生かせるものを造っています」と自分たちを体現する定番ビールの品質向上を第一に考えています。
門司港レトロ誕生100年を記念して生まれたサクラビール
伝統的なビールを造っている門司港レトロビール。その中で少し趣きの違うビールがあります。それがサクラビールです。
元々は1912年に九州で創業した帝国麦酒のブランドで、現在、サクラビールの商標権はサッポロビールが所有しています(※)。
※1943年に大日本麦酒(現・アサヒビール、現・サッポロビール、日本麦酒)に統合。1949年、過度経済力集中排除法の適用を受けて、朝日麦酒(現・アサヒビール)と日本麦酒(現・サッポロビール)に分割される。分割後はサッポロビールが商標権を所有しています。
他の会社に所有権のあるビールを発売することになったのはなぜなのでしょうか。
「2011年の『門司港レトロ大正浪漫100年祭』で復刻させる企画からです」。そこからイベント主催者や行政と連携してサッポロビールさんと交渉して、イベント限定で復刻発売することになりました。
復刻にあたり、サッポロビールから成分表を確認させてもらいながら当時をイメージして複数のパターンを醸造。当時のサクラビールを飲んだことがある地元住民に試飲してもらい再現しています。
復刻したサクラビールは好評で、「イベント後も継続して販売してほしい」と要望が寄せられたといいます。その声を受けて、門司港レトロビールはサッポロビールに相談し、2018年より再発売をしています。
2020年からはサッポロビールも限定ビールとして「サッポロ サクラビール」を発売。「サッポロビール様も販売を始めたことで、私たちのビールの認知度も高くなりましたね」と相乗効果があったようです。
飲んでくれる人が喜んでくれる姿を目指して学び続けた冬の時代
門司港レトロビールの醸造開始は1998年。筆者は、この時期にスタートしたブルワリーには必ず聞いていることがあります。それは第1次地ビールブーム終息後、2000年頃から2010年頃の冬の時代をどのように乗り越えてきたかです。当時から門司港レトロビールに携わってきた峯松さんに振り返ってもらいました。
「創業者のビールへの熱意と品質を向上させてきたことでしょうか。正直、厳しい時代でした。それでも腐らずにお客様が『美味しい』と喜んでくれるビールを造り続けてきたことが大きかったと思います」
ビールが売れない時期でしたが、品質を向上させて飲み手を喜ばせるために創業者から「外に勉強にいってきなさい」と積極的に学ぶ機会を与えられたといいます。その中でも広島県にある独立行政法人酒類総合研究所での研修により「今までの失敗の因果関係を知ることができた」ことは大きな財産になったと振り返ります。
厳しい状況の中でも着実に品質を向上させた結果、地元を中心にファンを増やして醸造量も増やすことに成功しました。
缶ビールの導入で、より身近な存在になりたい
近年、小規模ブルワリーでも瓶から缶へ移行しているところが増えています。門司港レトロビールも2021年からの缶ビールを始めています。導入理由は何だったのでしょうか。
「缶ビールへの移行はコロナ禍以前より進めていたもので、物流の遅れもありスタートが遅くなっていました。私たちのいる門司港は観光地でもあります。お土産に買って帰るときに、瓶ですと重たいことや割ってしまうリスクがありました。それと、元々ある瓶詰め機の生産量が低いことも課題でした」
瓶よりも軽く割れる心配がない缶の方が手に取ってもらいやすいメリットがあることが理由です。また、重量が軽くなることで、輸送エネルギーを抑え、環境面への配慮や運送コストを削減することができるといいます。
缶については、「北九州市は製鉄所があり、鉄の町でもあります。現在はアルミ缶を導入していますが、将来的は地元の産業と連携した取り組みとしてスチール缶を導入したいと考えています」と地域産業をアピールしていきたいと話します。
最後にビールファンにメッセージをいただきました。
「これからも地元に愛されるビールを目指したいですね。定番ビールの品質を向上させて、『自分たちの町には素晴らしいビールがあるんだ』と誇りに思ってもらえるビールを造り続けていきたいです。門司には素敵なロケーションや歴史的建造物、焼きカレーなどグルメもあります。ぜひ、海を眺めながらビールを飲みに来てください」
今回、初めて門司港を訪れました。レトロな街並みや海の先に見える本州など素晴らしい景観が楽しめる場所でした。今後は、再び門司港でもタップルームや飲食店を開いてみたいということなので、その時が来たら海を眺めながらヴァイツェンを飲みたいと思います。
流行に目を奪われるのではなく、自分たちが大事にしているビールを確実に育てて地元に根付かせていく。派手さはなく地道な活動ですが、話を聞いていてローカルブルワリーの真髄を感じました。
2023年には25周年を迎える門司港レトロビール。これからも伝統的なビールで私たちを楽しませてくれるでしょう。
Special Thanks 小郷裕也
門司港ビール Data
<ブルワリー>
住所:福岡県北九州市門司区東港町70
TEL:093-332-5155
FAX:093-330-4575
<レストラン 門司港地ビール工房>
住所:福岡県北九州市小倉北区米町1-3-19
TEL:093-531-5111
※ブルワリーではビールの販売・飲食物の提供は行っていません。
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。