世界一となったブルワーの始まりは興味からだった【Beerに惹かれたものたち19人目 HARVESTMOON園田智子編】
「ピルスナーの受賞は想像していなかったので、心から驚きました」
2022年5月5日(現地時間)、アメリカ合衆国ミネソタ州ミネアポリス。新型コロナウイルスの蔓延により4年ぶりの開催となったWORLD BEER CUP 2022ドルトムンダー/エクスポートまたはジャーマンスタイルオクトーバーフェスト部門(84エントリー)で、千葉県浦安市にあるHARVESTMOONが金賞受賞の快挙を成し遂げました。
このビールのレシピを設計・醸造を担当しているのが、今回の主役ブルワリー長の園田智子さんです。2000年の醸造開始から22年で成し遂げた快挙。園田さんは、どんなことを考えてビールと向き合い続けてきたのでしょうか。
「ビールって自分で造ることができるの?」から始まったブルワー人生
園田さんがブルワーを職業としたのは、醸造開始の2000年から4年遡った1996年。当時、在籍していた株式会社オリエンタルランドがイクスピアリの開発開始と同時期にブルワリー事業が決まり、社内のブルワー公募に応募して採用されたところからキャリアが始まりました。
お酒を飲むことは好きだったという園田さん。1994年の小規模ブルワリー解禁は知っていましたが、当時はビールに特別な感情は持っていなかったといいます。「公募を見たときにビールって自分で造ることができるの?」と思い、挑戦を決意します。
最初は、園田さんを含めてビール造りについて何も知らない2人でスタート。幸いにも準備期間を長くとることができたため、国内外のブルワリーやビール文化を視察して知識や技術を学んでいきます。そのときに出会ったダークラガーやアルト、GUINNESSなど濃色系ビールを飲んで感動した経験から造ったのがシュバルツです。
HARVESTMOONとともにゼロからスタートした園田さんのブルワー人生。その後、ビールを正しく理解するためにCRAFT BEER ASSOCIATIONのマスタービアジャッジ取得や積極的なビール審査会への出品、さらにブルワー同士の交流を深めながら醸造技術を研鑽し、「ビール界のオリンピック」と呼ばれるWORLD BEER CUPで金賞を受賞するまでになりました。
※WORLD BEER CUP2022の受賞風景。ピルスナー受賞発表は1:07:00ごろ。園田さん表彰場面は1:09:30ごろ
ビールだけを造ればいいわけじゃない。コミュニケーションは大事な能力
何もないところから走り続けてきた園田さん。22年のキャリアを通じてブルワーという仕事をどのように感じているのでしょうか。
「何もないところからのスタートでしたので、醸造設備の操作やメンテンナンスを覚えるのが大変だったとか力仕事が想像以上だったとか大変なことは色々ありました。でも、この仕事に対する好奇心の方が強かったのでブルワーを辞めようと思ったことは1度もなかったですね」
ブルワーは専門的な職業です。必要な能力はあるのでしょうか。
「醸造に関する知識を深めていくのは当然ですが、私たちが造るものは飲料です。衛生面に気を配ることは重要です。他には、ブルワリーは製造業なので、次に何をするのか決まっています。仕事をしていく中で何を優先させて準備をするのか。そういう意識を持って進めることができるかは重要です」
これまで多くのブルワーさんに話を聞いてきた中で、必ず出てくるのは衛生面と仕事の効率化。ビールは体の中に入るものなので、雑菌に汚染されることが無いようにしないといけません。園田さんも品質の良いビールを造るために、ちょっとした汚れも丁寧に清掃できる意識が大事だと話します。
そして、多岐に渡る業務をスムーズに進めるために考えること。これはブルワーの仕事に限ったことではありませんが、スタッフ間のコミュニケーションをこまめにとり、業務効率を上げていく意識が必要になってきます。特に小規模ブルワリーでは、少人数で運営しているところが多いです。報連相を的確に行うことは、お互いにストレスを小さくするうえで「とても大事」と話します。
ブルワリー長として部署をまとめる役割も担う園田さん。どのようにしてブルワーのスキルを向上させていったのかを聞いてみました。
「機械のトラブルなど臨機応変に対応できないといけないことが多いです。マニュアル通りにいかないときは、積極的に他のブルワリーの先輩方に聞いて教わりました。受け身の姿勢では成長できないので、分からないことは自分から積極的に動いて解決できるようにしてきました」
文献やインターネットの資料が少ない時代。他のブルワーに相談をしながら対応してきた園田さん。「成長していくために疑問に思ったことは自ら動いて対応できる姿勢は重要だと思います」といいます。
飲み手の気持ちが理解できるブルワーでありたい
多くの経験を積んできた中で、普段から心がけていることはあるのでしょうか。
「飲み手としての気持ちを忘れないことですね。ブルワーは、自分が飲みたいビールを造りがちです。しかし、私たちは『このビールは飲む人にとって心から喜んでもらえるビールなのか』と考える必要があると思っています」
飲む人の視点で考えることが大事。その気持ちを持ち続けるために園田さんは、1人の飲み手としてビアパブに足を運び、ビールを楽しんだり周りのお客さんの反応を観察したりしています。
「ピルスナー1つとってもそれぞれ主張があります」。ブルワーやブルワリーの個性が表れるアートな面もあるビールの世界で、飲む人の気持ちに沿ったビールを意識しているところにプロフェッショナルを感じました。
「仕事を通じてブルワーや異業種の人たちと出会うことで見聞を広めることができる。これは大きな財産です」と園田さん。シャイニングアークス東京ベイ浦安(2022年6月30日活動終了し、新チームへ移行)のチームビールや毎年秋に北海道余市町で栽培されたホップを使用して造るフレッシュホップビールなど多くの出会いをビールで形にしています。
今回、お話を聞いていて、課題に対して正直に丁寧に向き合い取り組む姿勢が大事だなと改めて感じました。これからも様々な出会いを通じて、私たちを魅了するビールを造り続けてくれると思います。益々の活躍を期待しています!
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