[イベント,コラム]2022.8.16

平和酒造 髙木加奈子さんが考える日本オリジナルのビアスタイルとは?「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅Vol.5」レポート

毎月ゲストを招いて「どんなビールにジャパニーズスタイルの可能性があるのか」を探るオンラインイベント「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅」。7月は「RED ALE」がビールのオリンピックと称されるWORLD BEER CUP 2022で金賞を受賞した平和酒造(ブランド名:HEIWA CRAFT)の髙木加奈子さんを招いて開催された。

ブルワーであり、南部杜氏の資格を所有する髙木さんが考える「日本オリジナルのビアスタイル」とは何なのか。イベントの進行役を務めた筆者がまとめ、レポートしていく。

原料で可能性を感じるのは米。もっとビールに落とし込めれば可能性はある

髙木さんが勤める平和酒造は、日本酒、ビール以外にも梅酒や蒸留酒を造っている。様々なお酒造りに関わっている中で、どのようなところにオリジナル性が生まれる可能性があるのかを聞いてみた。

「ビールは、麦芽を乾燥させますし、ホップもペレットに加工するので産地に関係なく造ることができるお酒です。それに対してワインや梅酒は原料の性質上、産地から遠い土地に運んで造るのが難しいです。そう考えると、その土地でしか造ることが難しい原料は独自性を生みやすいのではないでしょうか」と考えを示す。

さらに過去に出演者の考えを聞いた上で米に可能性を感じると言う。「ゆずや山椒などは日本らしさを感じることができて海外からの認知度も高い原料だと思いますが、その中でも米は日本を代表する原料だと思います」と髙木さんは話す。

しかし、米や清酒酵母を使用するビールは多くあるが、「軽い味にすることを目的としているものが多く、ビールに米の特徴をうまく落とし込めていないと感じている」と言う。日本特有と言える米や清酒酵母をビールにうまく融合させたものが多く出てくると日本オリジナルのビアスタイルとして確立していく可能性があると考えを述べる。

髙木さんの考えについて、ファシリテーターを務め、自身も日本酒のエッセンスを取り入れたビールに日本オリジナルのビアスタイルの可能性を感じているCRAFT BEER BASEの谷和さんも「海外のブルワリーで造られる日本を意識したビールは、米や清酒酵母を使用したものが多いです。それだけ認知もされている原料だと思います」と話す。

ここ数年をみても日本酒の要素を取り入れるため清酒酵母や米麹を使用したビールが増えてきている印象がある。今はまだ造り手も飲み手も興味の部分が大きいため、酒ビールとして日本酒とビールの要素がバランスよく成熟していくと発展していくと思っている。

平和酒造の髙木加奈子さん【画像提供/髙木加奈子さん】

トライ&エラーを繰り返すことで新しいビアスタイルが生まれる

今回も新しいビアスタイルが確立までの過程として、どのような流れがあるだろうかという議論が交わされた。その中で「なるほど」と思ったのが以下の内容だ。

「Hazy IPAが登場してくる前に小麦麦芽を使用したホワイトIPAが登場しました。ホワイトIPA自体は、Hazy IPAのように世界的に大人気なることはありませんでした。これは推測ですが、トライ&エラーを繰り返して小麦麦芽を使用したIPAをブラッシュアップしていった結果、Hazy IPAにたどり着いたのではないでしょうか」

最初からヒットしなくても「面白いかも」と興味をもった人たちがトライ&エラーを繰り返すことで新しい形が構築されていく見込みがあると言う。過去をみるとポーターからスタウトが誕生している。

谷さんも「挑戦を繰り返すことで形になってくるものがあると思う」と同調する。原型となるビールが時代や新しい製法、地域に合った形に発展して独自のビアスタイルとして確立していていく流れは可能性が最もあるのかもしれない。

自分がデザインした香りや風味を最大限に生かす方法として火入れを行う

南部杜氏でもある髙木さん。ビールに日本酒の製法を取り入れてできるものがあるのかを聞いてみた。

「ドライホッピングした日本酒『紀土 KID Takagi’s フュージョンサケ』や樽熟成ビールで必ず行っているのが瓶火入れ(熱処理)です。瓶詰め後密栓した日本酒を熱湯につけて65℃から70℃程度まで昇温させた状態で2分ほど温度を保持した後急速に冷やす瓶燗急冷という手法だと香味はあまり落ちません」

ご存じの通り、火入れの目的は、殺菌と酵素たんぱく質を変性させて働きを止めることだ。これにより品質を安定させやすくなるのだ。しかし、樽熟成ビールの場合、糖分も高いので微生物も働きやすくなる。管理される環境によっては意図していなかった香りや風味が生まれてくる可能性がある。そこがプラスに働くと樽熟成ビールの魅力になるのだが、髙木さんは「デザインした香りや風味で止めたいので火入れをしています」と言う。

また、日本は納豆菌やカビ菌が多く活発な環境のため、納豆菌やカビ菌由来のフレーバーが付きやすくなる懸念があると話す。それを防ぐため、樽による香りや風味の違いはあっても、火入れを行うことで微生物の働きによる不必要な味を無くすことが可能になると説明してくれた。

「製品を安定させる意味もありますが、自分がデザインしたキャラクターを最大限に生かす方法として火入れは使える製法ではないかと考えています」と髙木さん。

谷さんは「ランビックのように商品の味わいの経年変化を楽しむビールもありますが、日本の気候や環境を加味すると海外の手法をそのまま取り入れるだけでなく、樽熟成ビールであれども『この味に決める』という方針で火入れを取り入れ商品化することは有効な手法ではないかと思います」と話す。

CRAFT BEER BASEでは、麹を使用したビールに挑戦していると言う。「間違えると麹菌に汚染される可能性があるので注意が必要ですが、造り方次第で新しい形のビールなると思っています。発酵時以後にタンクに投入する方法で麹を使用する場合、火入れはかなり有効かもしれません」と期待を込めていた。

CRAFT BEER BASEの谷さん。

火入れが新しいビアスタイルの確立にどのように使用されていくかはわからない。しかし、生ビール主体の中で見直す部分もあると感じた。醸造方法をアレンジしていくことで生まれてくるものもあるのかもしれない。今後は、造り方からフォーカスした議論も聞いてみたいと思った回だった。

次回の開催は、2022年8月29日(月)21時から。ゲストはくめざくら大山ブルワリー(ブランド名:大山Gビール)の岩田秀樹さんをお迎えする。同ブルワリーの母体は久米桜酒造であり、今回同様にビール以外の視点からの話が期待される。

このオンラインイベントは無料で参加できるので関心のある方は参加してほしい。イベントの情報は「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅」のFacebookページを中心に告知します。

CRAFT BEER BASE ウェブサイト

平和酒造 ウェブサイト

また、今回のイベントを音声にまとめたものをPodcastでも配信しています。参加できなかった方、聴いてみてください。

CRAFT BEER BASE平和酒造日本オリジナルのビアスタイルを探る旅谷和髙木加奈子

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

(一社)日本ビアジャーナリスト協会 発信メディア一覧

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この記事を書いたひと

こぐねえ(木暮 亮)

ビールコンシェルジュ

『日本にも美味しいビールがたくさんある!』をモットーに応援活動を行っている。実際に現地へ足を運び、ビールの味だけではなく、ブルワーのビールへの想いを聴き、伝えている。飲んだ日本のビールは4000種類以上(もう数え切れません)。また、ビールイベントにてブルワリーのサポート活動にも積極的に参加し、ジャーナリストの立場以外からもビール業界を応援している。

当HPにて、「ブルワリーレポート」「うちの逸品いかがですか?」「Beerに惹かれたものたち」「ビール誕生秘話」「飲める!買える!酒屋さんを巡って」などを連載中。

●音声配信アプリstand.fmで、ビールに恋するRadioを配信中
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【メディア出演】
<TV>
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<ラジオ>
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●JAPAN FM NETWORK系列「OH!HAPPY MORNING」
<雑誌>
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<Web>
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