[イベント,コラム]2022.9.3

アクシデントも隠し味?福島県二本松でビール醸造体験!

地元の人との交流を目的に、全国の生産者や酒蔵などを巡るツアーを企画・運営している旅行会社あうたび主催のツアー「持続可能な暮らしと生業 ビール醸造体験と有機農業に触れる旅」に参加しました。
訪れたのは、有機農業を営みながらビール造りもしている「ななくさ農園 ななくさナノブルワリー」です。

ななくさナノブルワリー

ななくさ農園 ななくさナノブルワリーはJR二本松駅から車でおよそ30分、福島県二本松市の山間にあります。ななくさ農園では、キュウリ、ミニトマト、インゲン、ホウレンソウなどの有機野菜を育てており、農閑期となる冬の間、納屋を改造したブルワリーで地元の素材を生かしたビール「ななくさビーヤ」を製造しています。
「ななくさビーヤ」は無濾過・非加熱の瓶内二次発酵。開栓するタイミングで味わいが変わることも楽しむ、まさに自然そのものを受け入れたビールと言えます。

ななくさ農園看板

ユニークで愛らしい看板

二本松市山間風景

ななくさ農園からみた山間の風景

ビール醸造をしているのは、ななくさ農園代表でもある関元弘さん。関さんは農林水産省の官僚でしたが2004年に退職、同僚だった奥さんと二本松市東和地区へ移住し、2006年に「ななくさ農園」を開園、東日本大震災直後の2011年からビール醸造を始めました。
温厚な人柄で、何でもオープンに語ってくれる関さん。そんな関さんの人柄を慕って、ビール醸造や有機農業を学びに来る方もいます。

関元弘さん

仕込み工程を説明する関元弘さん

醸造体験

仕込み作業の流れ

ツアーは大まかに次のような流れで進んでいきます。

麦芽粉砕 → 糖化 → ろ過 → 煮沸 → 冷却 → 酵母添加

この後、発酵や瓶詰め工程もあるのですが、1日で体験できる内容としてはここまでです。

ツアーに参加したのは6月末、参加者は3名でした。本来なら梅雨の季節のはずですが、この日は朝から快晴の猛暑日で、気温36℃の中での醸造体験となりました。仕込みは麦汁の糖化から発酵まで大きな寸胴鍋を使用するのですが、火を使うので空調のない室内も非常に暑くなり、汗を流しながらの作業となりました。

糖化作業

説明を受けながら糖化作業

アクシデントも乗り越え、醸造体験ツアー終了

粉砕した麦芽をお湯に加え、糖化作業を開始した直後のこと。
関さんが、
「ちょっと用事があるから15分ほど離れます。適当に撹拌しておいてください。」
という言葉を残し、奥へ姿を消しました。
残された3名はひたすら汗を流しながら、大きなヘラで撹拌作業を続けます。
「暑くてキツいですね。火が点いてますけど、麦汁の温度このままで大丈夫なんですかね?」
「大きな鍋だと温度がなかなか上がらないのかも知れないですね。」
そんな会話をしながら、交代しつつ撹拌を続けました。

しばらくして関さんが戻ってきましたが、様子を見るなり、
「やばいっ、火を点けっぱなしだった!酵素が失活してしまう!」
と、慌ててバーナーの火を止めました。

麦芽は65~70℃の温度になるとアミラーゼという酵素が働き、麦芽中のデンプンは酵母が食べることのできる糖に分解されます(糖化)。
麦芽の温度が75℃以上になると糖を分解する酵素の働きは止まるのですが、一度でも高温に曝された酵素は冷ましてもその働きを取り戻すことはありません(失活)。

まだ失活していない酵素が残っていることを期待して麦汁を少し冷ましてみましたが、糖度は全く上がらず。ビール仕込みも開始早々ここで終了かと、絶望的になりました。
しかしながら、関さん曰くまだリカバリは出来るとのこと。本来目標としていた糖度には達していませんでしたが、発酵前段階の目標比重から逆算して加水する量を減らせば目標のアルコール度数は得られるようです。ただし、出来上がりの液量は当初の見込みより大幅に減ることになってしまいました。

糖度チェック

糖度計で糖度チェックする参加者

その後、ろ過工程で麦汁の濁りを取り除き、お湯を加えながら煮沸用の寸胴鍋に麦汁を移します。麦汁が溜まったらバーナーに火をつけて煮沸開始。麦汁が沸騰した時点で1回目のホップを投入します。煮沸終了間際にもう一度ホップを入れますが、これは香づけが主な目的となります。麦汁の甘い香りもよいのですが、ホップを入れたことで華やかな香りが製造場に広がります。
煮沸終了後、麦汁を熱交換器で冷ましながら発酵用の寸胴鍋に移すのですが、この日は気温が高かったため煮沸用寸胴鍋にも水をかけて麦汁を冷ましました。最後に酵母を入れて、この日の仕込みは終了です。

アクシデントはありましたが、休憩時間には関さんの作ったビールを試飲しながらビール醸造に関する裏話も聞かせていただき、とても充実した一日となりました。

出来上がったビールの味は?

醸造体験ツアーから1ヵ月ほどたった8月上旬、出来上がったビール(24本)が関さんから送られてきました。

関さんからのコメントは以下のとおり。
「醸造時は私の不手際により、バーナーを点けたままで一気に温度が上がり、糖化時間が30分程度しかとれないというアクシデントがありましたので、麦芽の旨味を十分に引き出すことができず糖化を終えてしまいました。
結果として、取得糖分が減少しただけでなく、2次発酵完了時(7月中旬)には、あっさりした味わいでホップの苦味を強く感じるものでしたが、更に置いた結果、当初よりは持ち直した感じがします。良く冷やしてお飲みになられることをお勧めします。また、2,3か月置くと深みのある味わいになると思います。(個人的見解です)」

ということで、気になる味を早速試してみました。
口当たりはスッキリとしていてドライですが、ホップの苦味と香りはしっかりしています。ビアスタイルとしてはペールエールでしたが、キレの良いペールラガーのような印象を受けました。
アクシデントもあり、美味しくなかったらどうしようという不安はありましたが、意外と暑い夏にぴったりなビールに仕上がったと思います。

完成後のビール

完成後のビール

ツアー参加募集中

今回参加した「持続可能な暮らしと生業 ビール醸造体験と有機農業に触れる旅」ツアーは、2022年9月15日〜12月20日の日程で現在募集中です。
最少催行人員は1名。参加希望日を伝えると、現地確認後に受入の可否について返信がきます。

上手にできても、失敗しても、自分で仕込んだビールは格別な一杯となるはず。大自然の中でビール醸造を体験してみてはいかがでしょうか?

あうたびツアー申込サイト
【日程フリー】持続可能な暮らしと生業 ビール醸造体験と有機農業に触れる旅

 

あうたびななくさナノブルワリーななくさ農園ビール醸造二本松市有機農業福島県醸造体験

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

(一社)日本ビアジャーナリスト協会 発信メディア一覧

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この記事を書いたひと

中村 隆史

ビアジャーナリスト

札幌市出身、 2022年に北海道下川町に移住。
セカンドキャリア制度を活用し、半導体エンジニアから起業型地域おこし協力隊に転身。
豊かな森林に囲まれた人口約3千人の小さな町で、町の人が笑顔で過ごせるブルーパブの開業を目指している。
どんな国の人もビールの前ではみんな笑顔。そんなビールの美味しさ、楽しさ、奥深さを少しでも世の中に伝えられたらという想いで、日々勉強中。
ビアテイスター/日本ビール検定2級/ウイスキー検定2級

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