スプリングバレー シルクエール<白>の評判は? 〜「ビアスタイルは何?」から「日本らしいビールって何?」へ〜
目次
スプリングバレー シルクエール<白>新発売
2022年9月「スプリングバレー シルクエール<白>」が発売された。
スプリングバレーはキリンビールのクラフトビールブランドで、すでに「スプリングバレー豊潤<496>」が発売されている。「シルクエール<白>」はその第2弾である。
『ビールの色は何色?』という質問の答えが『黄金色』という日本において、あえて<白>というネーミングをつけたからには、「ホワイトビール」という【ビアスタイル】を意識しているに違いない。
ビアスタイルって何?
ビールには【スタイル】というものが存在する。
ビールにあまり興味がない方でも、黄金色のビール以外に真っ暗なビールがあることぐらいはご存知であろう。
世界に数多あるビールを、発祥の地域や歴史を元に色や香りや味わいやアルコール度数などの違いでカテゴライズすると、100以上の【ビアスタイル】に区分でき、ビアスタイルガイドラインというルールブックのようなものが存在するのだ。
白ビールとは?
そんなビアスタイルのなかで、明確に「白」という名前を持っているのはドイツ発祥の【ヴァイス/ヴァイツェン】とベルギー発祥の【ヴィット/ホワイトエール】である。
ヴァイスはドイツ語、ヴィットはオランダ語*の「白」を表す言葉であり、この両者は文字通り<白ビール>にほかならない。※ベルギー北部はオランダ語圏
なぜ白くなる?
さて、そんな白ビールだが「黄金色であるはずのビールが、なぜ白いの?」という疑問が生じるに違いない。
厳密にいえば、白ビールは白くない。
正確には「くすみのある麦わら色」なのである。
ではなぜ<白>と呼ばれるのか?
それは小麦を使っているからだ。一般的なビールは大麦で造られるのだが、白ビールは大麦だけでなく小麦も使われている。
小麦に含まれるタンパク質がビールに”くすみ”を与え、「白っぽく」なるため<白>と呼ばれている。(無ろ過による酵母のくすみも白っぽさを強調している)
<白ビール>の2大巨塔、ヴァイスとヴィットの特徴は?
世界的な<白ビール>の2大巨塔、ヴァイスとヴィット。その特徴はどのようなものか……。
スタイルガイドラインによると、ヴァイスはバナナのようなエステル香やクローブを思わせるフェノール香が印象的で、ヴィットはオレンジピールとコリアンダーの香りと共にヨーグルトのような酸味を感じる。
外観はどちらも白濁しており、泡は豊か。苦味は弱めとある。
スプリングバレー シルクエール<白>はヴァイスなのか、ヴィットなのか?
それでは、「スプリングバレー シルクエール<白>」はヴァイスとヴィット、どちらのカテゴリーに属するのか?
フェノールを感じはするが、ヴァイスのスタイルガイドラインに照らし合わせるとエステルは弱めである。苦味は強くないものの、ヴァイスのスタイルガイドラインの示す範囲(IBU10~15)よりは高いと感じる。
オレンジピールやコリアンダーのキャラクターはまったくないのでヴィットではない。
つまり、どちらのビアスタイルにおいても”ストライクゾーンのド真ん中”ではないのだ。
ビールは、スタイルガイドラインに縛られなくてはならないのか?
ビアスタイルを知り、活用することは重要である。
ビールを造る側にとって、ビアスタイルはビール学の基礎と言っていい。必ず勉強しておくべきものであり、醸造家=ブルワーはビアスタイルを熟知していなければならない。
それを踏まえたうえで、私は問いたい。
ビールは、スタイルガイドラインに縛られなくてはならないのか?
基礎を学んだ先に必要なものは?
私は、ブルワーにとって醸造の基礎知識と技術はデッサンのようなものであり、ビアスタイルの熟知は絵画史の把握のようなものだと思っている。
ビール造りを「絵を描くこと」になぞらえる私の癖が正しいのか否かは別としても、クラフトが工芸的という意味であり、その先にアート=芸術的があるとすれば、基礎知識や技術を習得し、絵画史を熟知した先は、【自分自身の絵を描く】ことではないだろうか?
それが真のアルチザンであり、アーティストではないのか? もちろん、印象派を踏襲したい画家もいるだろう。しかし、そこにはその画家ならではの感性、さらには時代背景や日本という国のアイデンティティも加味されるべきではないだろうか?
いつまでも西洋絵画の模写や模倣を繰り返していて良いのだろうか?
アメリカでポップアートが流行れば日本でもポップアート、アクションペインティングの人気が高まればアクションペインティング。そこに「日本らしい解釈や提案」はあったのだろうか?
古くは浮世絵、現在においてはANIMEやMANGAが世界で評価されていったように、海外の模倣ではない表現が求められるのではないだろうか?
ジャパニーズスタイル・〇〇ビールを創るフェーズ
絵画史が時代とともに書き足されているように、スタイルガイドラインも、毎年修正されたり新たなカテゴリーが加えられたりしている。さらに、スタイルガイドラインとは別に新たなビアスタイルの提案もなされている。
例えば、今大流行のヘイジーIPAは2017年以前のスタイルガイドラインには載っていなかったし、コールドIPAやイタリアン・ピルスナー、メキシカン・ラガーといった「スタイルガイドラインにはまだ定義付けされていない」ビールも目にするようになった。
歴史が塗り替えられていくようにビアスタイルも進化していく生き物なのである。
私は、スプリングバレーブルワリー シルクエール<白>から漂う上品なフェノール香と後口に残る程よい苦味の余韻の中に【日本人好みの<白>ビール】とは何か? という醸造家の提案と表現を見せてもらった気がする。
日本の風土、巡る四季、豊かな食材と繊細な料理、そして、長年育んできた国民性がもたらすさじ加減とバランス感覚。様々な要素が織りなす「日本好み」とは?
重箱の隅をつつき「このビールのスタイルは何?」にこだわるよりも、スタイルガイドラインを熟知したうえで、スタイルガイドラインに新たな名を連ねるような【ジャパニーズスタイル・〇〇ビール】を創ることが、日本のクラフトビール業界に求められていることではないだろうか?
スプリングバレーブルワリー シルクエール<白>を飲み、私は「そのフェーズが始まった」と感じている。
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