[コラム]2022.10.11

ゼロ・ウェイスト宣言の町で楽しむビール&キャンプの旅

暑すぎた夏が終わり、アウトドアにはもってこいの季節になりました。
アウトドアと言えばBBQ。そして、BBQと言えばビールですよね。

今回は、ビールとBBQを楽しむことが地球環境保全にも繋がってしまう、そんなキャンプの旅をご紹介します。

キャンピングカーKamikatz Rollimg Room、左はシャワールームとバスタブ

ゼロ・ウェイスト宣言の上勝町

みなさんは、ゼロ・ウェイストという言葉を聞いたことがありますか?
ゼロ・ウェイストとは、「ごみをどう処理するか」ではなく、「そもそもごみを生み出さないようにしよう」という考え方。

上勝町は徳島市内から車で約1時間、町の大部分が山に覆われた人口約1500人の小さな町です。2003 年に自治体として日本で初めての『ゼロ・ウェイスト(Zero=0、Waste=廃棄物)宣言』を行いました。

今年の8月、私は百貨店の催事でKAMIKATZビールと出会って上勝町のことを知り、ホームページなどでこの町のゼロ・ウェイスト活動について調べました。

ゼロ・ウェイストな社会では
ごみになるものがほとんどなく、
快適でストレスなく暮らしていける。

資源は循環して、
また誰かの暮らしを豊かにし、
美しい地球がいつまでも続いていく。

私たちはそんなゼロ・ウェイストな社会を目指しています。

上勝町では自治体のごみ収集は行わず、生ごみなどはコンポストを利用して各家庭で堆肥化、瓶や缶などのさまざまな「資源」を住民各自が『ごみステーション』に持ち寄ります。
現在、分別しているごみの種類は45種類以上にもなり、リサイクル率は80%を超えているそうです。

ゼロ・ウェイストなビール造り

今回、私が訪れたのはKAMIKATZビールを造っているRISE & WIN Brewing Co.というブルワリー。
こちらでは、上勝町特産の柑橘「柚香(ゆこう)」を絞った後の皮を使ったホワイトや、規格外品の鳴門金時芋を使ったスタウトなど、従来であれば捨てられていた材料を使ったゼロ・ウェイストビールを製造しています。

廃材となった建具を再利用したパッチワークのような窓が印象的

しかし、ビールの醸造過程では大量の麦芽粕が排出されてしまいます。
その一部は家畜の餌や培養土、燃料として再利用されますが、産業廃棄物として処分するのにもコストがかかるため、多くのブルワリーが頭を悩ませていると聞きます。

RISE & WIN Brewing Co.でも、一度の醸造で排出される麦芽粕は600kg以上。
従来はそれを近隣農家に運び、約2ヶ月かけて堆肥化してもらっていたそうですが、労力や手間、時間を考えると持続可能な方法とは言えません。

そこで導入したのが、サイエンスの力を利用した液肥マシン。
ビール醸造の過程で生まれた大量の麦芽粕を微生物で分解して、廃液(酵母やホップの残滓など)とともにビール原料由来の液体肥料に変えるマシンです。

しかも、液肥化にかかる時間はたったの24時間!
こうしてできた液肥は町内のゼロ・ウェイストセンターで無料配布され、農家のみなさんの野菜作りにも一役買っています。

ゼロ・ウェイストセンターの液肥タンクコーナー

さらに、この液肥を使用して、今年の春にはビールの主原料である麦の栽培を行い、収穫した麦を使ってビールを造るというサーキュラーエコノミー(循環型経済)を実践しています。
ビールを作った麦芽粕からできた液肥で、ビールの原料である麦を育てて、またビールを醸造する。
まさに循環型! 考えただけでも、なんだかワクワクしてしまいます。

reRise beer (リライズビール)の誕生

私が訪問したその日、醸造所はビールのボトリングで大忙しで、醸造関係の方たちにお会いすることはできませんでしたが、レストランでビールを飲みながらストアマネージャーの池添亜希さんからお話をお聞きすることができました。

鹿の角がついたタップからビールを注ぐ池添亜希さん

お話する中で、私はブルワリーの母体が臨床検査や食品検査・食品工場の衛生管理・環境分析・コンサルティングなどの事業を展開する、株式会社スペックというサイエンスの会社だということを知りました。

KAMIKATZビールの第2醸造所 STONEWALL HILL CRAFT&SIENCE では、酵母の培養研究なども行っています。
クラフトビールとサイエンスは切っても切れない関係。というより、クラフトビールはサイエンスそのものと言っていいのかもしれません。

山奥の製材所跡をリノベーションしたSTONEWALL HILL CRAFT&SIENCE

「ビール醸造→麦芽粕排出→微生物分解による液肥化→自社農場で麦栽培→ビール醸造」という循環型の仕組みの名称は「reRise(リライズ)」プロジェクト。
reRiseとは、上勝で実現すべき循環型社会の世界を表す造語で「再起・再興」を意味します。

そして、私が訪問した日にボトリングされていたのが、まさにその『reRise beer (リライズビール)』だったのです。
『reRise beer (リライズビール)』が販売されるのはもう少し先になりますが、どんなビールなのか興味津々。楽しみに待ちたいと思います。

ビールとBBQとキャンプの夜

RISE & WIN Brewing Co. BBQ & General Store には、ブルワリー、レストラン、ショップがあり、建物の裏にはBBQガーデン、キャンピングカーの Kamikatz Rollimg Room があります。

ショップでビールを購入して、いよいよBBQスタート!
持参したグラウラー(ビール用マイボトル)にIPAを入れてもらい、ボトルビールも一本購入しましたが、あっという間にグラウラーは空っぽになって、速攻でおかわりしてしまいました。

現在、もっと大容量のグラウラー購入を検討中(笑)

BBQガーデンとキャンピングカーには、食器類・ランタン・BBQコンロはもちろん、冷蔵庫や湯沸かしポットまで完備。必要なものはほぼ揃っているので、手ぶらでBBQとキャンプが楽しめます。

BBQの食材は色とりどりの地元のお野菜、手作りソーセージやベーコン、新鮮な川魚

日が沈み、暗くなってからのお楽しみは焚き火と満天の星空。
ゆらめく炎とパチパチという薪の音に癒やされながら広い夜空を眺めると、天頂には夏の大三角形。この日はお天気にも恵まれて、天の川もよく見えました。

焚き火とキャンピングカーは、とても絵になります

シャワールームには環境に配慮したシャンプーやボディソープがあり、スッキリ気持ちよく汗を流すことができます。
そして、屋根や壁など遮るものが何もない屋外のバスタブで、温かいお湯に浸かって満天の星空を眺める時間はとにかく最高でした。(一応、水着着用です)

キャンピングカーは思っていた以上に快適で、朝までぐっすり。

エアコンも完備。もうひとつ小さなベッドがあります

翌朝、起き抜けにもう一度お風呂へ。
ひんやりした空気の中、少しずつ明るくなっていく空と、徐々に色鮮やかになっていく山を眺めながらのお風呂は、永遠に浸かっていたいくらい気持ち良かったです。

朝のお風呂。気持ちよくて、ついつい長風呂になりました

朝食の材料も冷蔵庫に準備されているので、ベーコンと卵をスキレットで焼いて、パンはトースターへ。飲み物は柚香のジュースと上勝晩茶。
ヨーグルトに入れるグラノーラも、ビールの麦芽粕や上勝晩茶の茶殻を再利用したもの。とても香ばしくて美味しかったです。

鳥のさえずりを聞きながら自然の中でいただく朝食は、お腹も心もゆったりと満たしてくれました。

さいごに

今回の訪問で心に残ったのは「Just Drink, KAMIKATZ Beer」という言葉でした。

エコな生活を頑張ろうとか、難しいことや大変なことをしようと考えなくてもいい。ぐんとハードルを下げて、単に美味しいビールを飲むだけでゼロ・ウェイスト活動に繋がっていく。
それが「Just Drink, KAMIKATZ Beer」という言葉で表現されているのです。

私もごみの捨て方やごみを出さない生活について、今までよりも真剣に考えるようになりました。

自然に囲まれて、美味しいビールを飲んで、知らないうちに地球にやさしい自分になっている。そんな自分がちょっと誇らしく思えたりする。

『ゼロ・ウェイスト宣言の町』徳島県上勝町で楽しむビールとキャンプの旅。
みなさんもぜひ一度、体験してみてはいかがでしょうか。

ゼロ・ウェイストタウン上勝
RISE & WIN Brewing Co.

KAMIKATZキャンプ徳島県

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

高山 治子

ビアジャーナリスト/ジャパンビアソムリエ

静岡県浜松市出身、大阪府大東市在住。
知人がブルワーになったことからクラフトビールにハマり、びあけん・ジャパンビアソムリエ・ビアジャーナリストアカデミー18期と学びを深めながら、ますます沼にどっぷり。
いろんなビールを飲み比べたいけれど、すぐに酔っ払ってしまうのが悩み。
もやしもん第8巻の「ビールは笑顔が一番似合う飲み物なんだよ」という言葉が大好き。

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