いわて蔵ビール佐藤航さんが考える日本オリジナルのビアスタイルとは?「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅Vol.8」レポート
月に1度ゲストを招いて日本オリジナルのビアスタイルの可能性を探るオンラインイベント「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅」。10月はいわて蔵ビールの佐藤航代表取締役社長を招いて開催した。
いわて蔵ビールは、世嬉の一酒造という酒蔵が展開していることもあり、日本酒を意識したビアスタイルに可能性を感じているのか。イベントの進行役を務めた筆者がまとめてレポートする。
地のものを使用するだけではオリジナルにはならない
いわて蔵ビールと言えば「三陸牡蠣のスタウト」や「ジャパニーズスパイスエール山椒」など地元の食材を使用した商品を多く開発してきた。イベントの序盤、CRAFT BEER BASEの谷和さんから地域の素材を使用したビールに日本オリジナルのビアスタイルの可能性を感じているのか質問があった。
これに対して佐藤さんは次のように回答。
「日本酒は地酒と言って地元のものを使用して、自分たちの味をつくっています。ビールは色々な副原料を使用することができるので、地域の素材や食材を使用すればオリジナル性は出せると思います。私たちも岩手や東北らしさを表現したビールを造りたいと思い、地元の原料を使用したビールを多く手掛けるようになりました。しかし、それがオリジナルビアスタイルになるのかと言うと違うと考えています」
佐藤さんは地域のものを使用するだけではなく、日本に昔からある技術や理論を用いて表現することが重要ではないかと言う。
「山椒は柑橘系の香りをもちます。『ジャパニーズスパイスエール山椒』の開発当初は、当時流行っていたアメリカンペールエールを意識して造りました。最初は模倣でもいいと思っていますが、山椒を使用すれば日本らしいかと言うと違うと思います。それだけなら他の国の方が造っても同じです。そこから試行錯誤して日本の独自性を生み出していかないとオリジナルビアスタイルまで昇華させることは難しいでしょう」
実際に後藤工場長と何年も何回もレシピを変更して良いものになるように改良を重ねて今の形に辿り着いた。「時間をかけて地道に底上げをしていくことで浸透していくと思う」と語り、世界に発信をしていく意識をもつことが重要だと話す。その結果として、ファンも日本のクラフトビールを誇りに感じることができるのではないかと言う。
これまでもビアスタイルとして確立していくためには長い時間が必要という話は出てきた。今回、佐藤さんも時間が必要という話があった。
CRAFT BEER BASEの谷和さんは、「時代ともに文化や流行も変化します。変化に対応することもポイントになるのでしょうか」と佐藤さんに問うと、「あると思います。『ジャパニーズスパイスエール山椒』は、はじめは和食に合わせるために山椒はほのかに効かせる程度でした。その後、洋食にも合わせることも考えてしっかり効かせるように強めに変更しました。現在は、国内用と輸出用のレシピはほぼ同じですが、昔は国内用と輸出用でレシピを変えて対応していました」と佐藤さんは経験を語る。
新しいビアスタイルが定着するまでに試行錯誤を繰り返して時間がかかることは、Far Yeast Brewingの山田さんや大山Gビールの岩田さんも話していた。
こうした流れをからみると「ジャパニーズスパイスエール山椒」は時間をかけて定着したビールの代表的な存在ではないだろうか。
地域ごとの「日本らしさ」を出すことも日本オリジナルへの道?
今回、佐藤さんの話の中で度々出てきた言葉がある。
「岩手らしさ」と「東北らしさ」。
「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅」の中で必ずと言っていいほど出てくるのが感じるのが地域性だ。地域の素材を使用したり、食文化に合った味わいのビールを造ったりすることで将来的にオリジナルのビアスタイルが生まれる可能性があるという話が毎回のように出てくる。
しかし、地域の特徴は異なっていてまとまりはない。谷さんも「日本らしさと言っても地域ごとに違うので1つにまとまらないと思う」と言うように、1つにまとめようとするよりも地域色を明確にしていく方がオリジナル性も見つけやすくアピールもしやすくなるのではないかと思った。
「地元の食があって、地元の人たちが楽しんでいる。さらに外の地域の人も集まり輪が広がることで自分たちが誇れるものが見えてきますし、外部からの考えが交ざることで新しいものも生まれやすくなると思います。だから食や文化との繋がりは大事だと思います」と谷さんは言い、佐藤さんも「アイデンティティって、視点が変わると変化してくると思います。みんなで取り組んでいった方が日本らしさをアピールしやすくなるのではいでしょうか」と話す。
例えば東北スタイルIPAや関西スタイルピルスナーといったように、よりローカルなビアスタイルがあり、それが「ジャパニーズスタイル」カテゴリーという括りになってもいいのではないかと佐藤さんの話を聞いていて思えた。
積極的にほかのお酒造りの考え方を取り入れて新しいビールを造ってみたい
終盤にはイベントの主旨から少し外れるが、谷さんが世嬉の一酒造で現在進行している日本酒の醸造所建設について触れる場面があった。
「四季醸造(1年を通して醸造をすること)やビール醸造に使用する設備を導入することで良い影響があるのでしょうか」
この問いかけに対して佐藤さんは、「ブルワーと杜氏の経験値の積み上がり方を見ていると、365日仕込みができるブルワーの方が早く成長しています。また、副原料に様々なものを使用できるビールの方がクリエイティブなお酒が生まれやすいです」と回答。新しく始める日本酒づくりにビール造りで培ってきた経験を取り入れて、さらにそこで得た経験をビールづくりに生かしていきたいと言う。
原料だけではなく、製法においても互いの醸造方法を学び合うことで新しい考え方が生まれる期待がある。特に日本酒は日本特有の醸造方法である。これまでのゲストの話を聞いていても他のお酒よりも日本らしさを醸し出せる可能性がありそうである。どんな形でビール醸造に還元されるのか楽しみである。
今回は地域性を生かして日本オリジナルに発展させていくのかを考える時間になった。その土地でしか出せない特徴をもつビールが生まれて人気が出る。それが他の地域へ広がり1つのビアスタイルとして確立していく。時間が必要だが地域のビールを追うのが一層楽しみになった。
次回の「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅」の開催は2022年12月。これまでを谷さんと振り返りを行う。通常はなかなか参加者からの意見や感想をイベントの中で反映することができていないが、次回は参加者からの感想も交えて日本オリジナルのビアスタイルを探ってみたい。
このオンラインイベントは無料で参加できるので関心のある方は参加してほしい。イベントの情報は「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅」のFacebookページを中心に告知します。
また、今回のイベントを音声にまとめたものをPodcastでも配信しています。参加できなかった方、聴いてみてください。
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。