北海道「Brasserie Knot」(ブラッスリー・ノット)訪問記 ~道東でビール文化の定着を目指す
北海道東部の鶴居村に2022年9月、新しいブルワリー「Brasserie Knot(ブラッスリー・ノット)」が誕生しました。「Knot」のビールはすでに全国各地のビアバーで繋がっており、お飲みになった方も多いのではないでしょうか。
札幌在住の筆者が、なかなか訪れづらい「ほぼ」日本最東端のブルワリーを訪問してきました。最新設備も備える先進的なブルワリーでした。
北海道東部・鶴居村にあるブルワリーBrasserie Knot
「Brasserie Knot(ブラッスリー・ノット)」の代表は、植竹大海氏。COEDO BREWERY(埼玉)~うしとらブルワリー(栃木)~忽布古丹醸造(北海道)などでさまざまなビールを造り上げてきたベテランブルワー(醸造家)です。
創業間もないブルワリーのビールが全国のビアバーで飲むことができたのも、ひとえに植竹氏のこれまでの実績と信頼によるものです。
筆者は2021年にクラウドファンディング公募の記事を書きました。立ち上げの背景も書かれていますので、こちらも併せてお読みください。
ブームから文化へ! 日本の未来のブルワーも育くむ醸造所 北海道「Brasserie Knot」(ブラッスリー・ノット)クラウドファンディング進行中
鶴居村は北海道東部。道東の最大都市釧路市から車で1時間ほどのところにあります。
残念ながら、公共交通機関でブルワリーを訪れるには少々難易度が高い場所です。まず、釧路から鶴居村中心部までバスで1時間(1日6本運行)。さらにそこからブルワリーまで5キロほど離れているので、村に1台しかないハイヤーを使わなければなりません。実質的には自動車を使わなければ到達の難しいところにあります。
人の集まる都市部のブルーパブが当たり前となった今、なぜこの土地にブルワリーを造ったのか? 植竹氏に訊ねてみました。
「もちろんこの場所が訪れるのに簡単ではないことはわかっています。でも自分が何度も行ってきたアメリカのブルワリーは、公共交通機関がないところにもたくさん建っていました。ビールを飲むのに便利な環境にブルワリーを造るのではなく、ビール造りに良い環境の中でビールを造りたかったのです」
人が密集しているところよりもビールへの環境を重視するという点では、これまで日本にはあまりなかったタイプのブルワリーとなりそうです。
実際、村はとても穏やかな場所で、特別天然記念物のタンチョウをあちこちで見かけることができました。車を運転するときは、人よりも鹿に気を付けなければならないほどのところです。そんな「チル」な環境で造られるビールは、味わいにも穏やかさが表れているように感じられました。
醸造設備について
ブルワリーは、20年前に廃校となった旧・茂雪裡(もせつり)小学校を利用して造られています。
体育館の中に設備があります。
1仕込で2000リットル。4000リットルの貯酒タンクが10本です。
北海道では、小樽ビールの次に大きな設備となります。
設計はすべて植竹氏が自ら手掛けています。植竹氏は醸造アドバイザーとしてブルワリー開業のコンサルティングも手掛けていて、すでに北海道から九州まで、全国にたくさんの実績があります。
またここは「人材を育てるブルワリー」の側面を持ち、すでに醸造事業を志す何人ものスタッフが働いています。学校の跡地を使っているだけでなく、まさに「ビールの学校」なのです。
設備全体として、身体に負担のかからないユニバーサルデザインになっているのが大きな特徴です。
とくに麦芽をミルで粉砕するとき、そしてその麦芽を仕込槽に運ぶのは大変な重労働で、腰に持病を抱えているブルワーは珍しくありません。ここではチェーンコンベアを採用することで身体に負担がかからない設計になっています。
工場は外部から見学することが可能です。全体を見通せる自由見学通路があり、終端に工場併設直売所「Brasserie Knot Shop」があります。2022年11月26日にオープンしました(営業日時はご確認ください)。グラウラーで樽出しビールを持ち帰ることもできます。
「設備を眺めながら気軽にそのまま飲んでほしいんです。車で来て、ちょっと買っていくスタイル。ガッツリ飲みたい人は、村に泊まっていってもいいし、釧路で飲んでもらえたらいいですね」(植竹氏)
ビールラインナップ
「花鳥風月」にちなんだ4種のラインナップと、地元限定のビールの5種類がレギュラーラインナップです。
「FLOWER」:ベルジャンホワイト
「BIRD」:ペールエール
「WIND」:IPA
「MOON」:ダブルIPA
「DOTO」:ベルジャンIPA ※道東地域限定販売
ラインナップの特徴としては、ラガー系がないことと、ベルジャンホワイトがレギュラーであることです。
「ベルジャンホワイトを造ったのは、苦みが少なく口当たりが柔らかいから”ビールが苦手”な人でも手に取りやすいためです。また、それをレギュラーとしているブルワリーが意外と少ないこともあります。自分も大好きなスタイルです」と植竹氏。
レギュラーラインナップは、まだ「クラフトビール」に不慣れな地元の人の気軽に飲んでもらうことが目的です。もっとも味の強い「MOON」でも苦すぎたりすることはなく、バランス重視の味わいになっています。
このほかに季節ごとにスペシャルティビールを造っていきます。ラガー系のビールや、個性的な味わいのビールはそちらで積極的に造っていくそうです。
今後の展望
植竹氏は、「Knot」を道東に根付いたブルワリーにしていきたいと強く意識しています。
「レギュラーのビールがスタンダードなスタイルが中心で、味わいもバランス重視型というのも、まずはクラフトビールを飲み慣れていない地元の人にたくさん飲んでもらいたい気持ちがあるからです。ブルワリーの設備が大型なのは、手軽に買ってもらいやすい缶を導入したかったからです。地元の人にはふらりとブルワリーに立ち寄って買って帰ってもらいたい。釧路周辺でも20万人は人が住んでいますから、1%のシェアを目指して頑張っていきたいです」
「植竹大海」という全国的に著名なブルワーであることは有利なのかと尋ねると、意外な答えが返ってきました。
「いえいえ、そんなことはないです。すでに優れたスタッフが何人も働いていますし、これからもビール造りをしたい人たちを受け入れ、育てていきたい。人が変わったら味が変わったなどと言われないように、『植竹』というカラーは極力消して、安定した味を造っていきたいです」
日本の端っこ、北海道の東部ではまだ「ビール文化」は未開拓の状態と言わざるを得ません。その「未開の地」でどれだけの成果を出していくのか。全国隅々まで新しいブルワリーができていく中で、この「Knot」は注目すべきモデルケースになることは間違いありません。
Brasserie Knot(ブラッスリー・ノット)Infomation
- 公式ページ: https://brasserieknot.jp/
- Facebook: https://www.facebook.com/Brasserie.Knot
- Twitter: https://twitter.com/brasserieknot
- Instagram: https://www.instagram.com/brasserie_knot/
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