[コラム]2023.1.1

新年あけましておめでとうございます。
藤原ヒロユキが今想うこと

京都府与謝野町

新年あけましておめでとうございます。

今年も、一般社団法人日本ビアジャーナリスト協会のメンバーをよろしくお願いいたします。

2022年、ビール業界にとっては長引くコロナ禍に続き、ロシアのウクライナへの侵攻や円安などによる原料や機材の高騰や不足など厳しい問題がありました。
今年2023年はどんな年になるのでしょう?

クラビ連発足

去年(2022年)の4月23日には『日本クラフトビール業界団体連絡協議会』通称『クラビ連』が発足しました。

『全国地ビール醸造者協議会(JBA)』、『日本地ビール協会(CBA)』、『日本ビアジャーナリスト協会(JBJA)』の3団体がそれぞれの立場や活動を継続しつつ、連絡を取り合うことでクラフトビール業界を盛り上げていこうという趣旨で集まりました。

当面の活動としては、醸造に関する「教育コンテンツ:学ビア(U200)醸造技術オンラインセミナー」の開催を予定しています。

また、2025年春にはクラフトビール発足30周年を記念する「Beer Expo 2025」を開催することも決まっており、そのロゴマークも決まりました。

クラフトビールの定義とは

この『クラビ連』ですが、それぞれの団体の考え方やポリシーは、各団体の構成員や今までの活動によって微妙に違っている部分があります。

そのひとつが「クラフトビールの定義」です。

JBA、CBAの「クラフトビールの定義」に関しては、各団体のサイトでご確認いただきたいと思いますが、JBJAの代表として私の考えを述べておきます。

まず、「クラフトビール」とは「1960年代にアメリカで始まったビア・ムーブメント」です。

この件は2015年9月25日の記事に書いていますので、ここで改めて詳しくは述べませんが、簡単にまとめると「伝統的なビールの知識や技術」と「醸造家の創造力や表現力」が噛み合って生まれるビールであり、「作品と呼ぶに値する芸術=アートである」と考えています。

そしてそれは、「24時間365日四六時中ビールのことが頭から離れないビールおたくのブルワーにしか造ることができないビール」です。

「クラフトビール」=「小規模」ではない

このように、クラフトビールは造られている醸造所の規模とは関係なく、造り手の気持ち、思い入れ、そして心意気によるところが大きいものです。

先日、雑誌の対談で日本テキーラ協会会長の林生馬氏とお話したのですが、そこで興味深い事例を伺いました。

メキシコのメスカル(アガベから造る蒸留酒)は小規模で昔ながらの製法にこだわった定義を決めてしまったために生産者がエクスパンションできず、利益が出ず困窮しているとのことでした。

クラフトビールも同じようなことが起こらないことを願っています。

1回の仕込み量や年間の仕込み量で「クラフトか否か」を論議することは業界の拡大を自ら限定しているにすぎません。

「小規模ビールメーカーの造るビール」=「クラフトビール」なのか?

クラフトビールの定義を語ると必ず出てくるのが「大手ビールメーカーの造るビールはクラフトビールと呼べるのか?」という問題です。

大手ビールメーカのクラフトビール業界参入を否定的かつ批判的に語る方はいまだに多いように感じます。

では逆に「小規模ビールメーカーの造るビールはすべてクラフトビールと呼べるのか?」という問いの答えは「Yes!」なのでしょうか?

現在、日本には600を超える小規模醸造所があります。そのなかには、「伝統的なビールの知識や技術」と「醸造家の創造性や表現力」が見受けられないものもあります。

問題は大手との比較ではなく小規模醸造所のビールの味の底上げではないでしょうか?

小規模にこだわりすぎることは果たして業界の発展になるのでしょうか?

クラフトビール発祥国で現在もトップランナーであるアメリカの「小規模」の定義は「年間70万キロリットル以下の醸造」です。

70万キロリットルとは、キリンビールのビール部門(発泡酒、新ジャンルを除く)の生産量とほぼ同じです。小規模とはどのような規模を指しているのでしょうか?

小規模=クラフトなのでしょうか?

原料の国産化が求められている

クラフトビールの底上げとともになし得ていかなければならないことが「原料の国産化」です。
麦芽、ホップ、酵母の国産化が必要です。

クラフトビール業界のトップランナーたちは世界に通用するビールを造れるようになりました。
しかし、残念ながら世界に誇れる【ビアスタイル】を創るところにまでは至っていません。

その原因のひとつが、原料のほとんどが海外産だということにあると考えられます。

アメリカンスタイルが世界に影響を与えたのはアメリカンホップの鮮烈なキャラクターによるものです。

日本らしいビール創りは国産原料とともに構築されるに違いありません。

ホップの国産化は徐々に広がっており、とても期待できることです。

質の悪い原料から良いビールは造れない

とはいえ、ここでも問題が起こってきています。
醸造所の数が増えていることがビール全体の質の向上に繋がっていない、むしろ低下しているといった先ほどの現象と同じことが起きはじめているのです。

先日、ある醸造家から「近くでホップを育てている方が「使ってほしい」と持ち込まれたんですが、とても使えるようなホップではなかったのでお断りしました。ホップの形をしただけの、香りのない草です」という話を聞きました。

そして、さらに問題なのがそのようなホップでも、目利きのできないブルワーは平気で使ってビールを造ってしまうということです。

地元で採れたから、今年のニューハーベストだから、地域の方がみんなで頑張ったから、耕作放棄地が活用されたからといったニュース性やストーリーから質の悪いホップも使ってしまうブルワーがいます。

事情はあるのでしょうが、質の悪いホップから良いビールは造れないことを肝に銘じたいものです。

ニューハーベストから日常の定番へ

ホップ農家や醸造家がホップの品質に頓着しないことやホップの目利きができないのは、本当に良いホップに接する機会が少なかったからに他なりません。

日本でもフレッシュホップフェストが毎年行われています。これはとても素晴らしいことであり、今後も続けていきたいと考えています。

しかし、年に1回ではブルワーも消費者も国産の生ホップの良さを体に覚えこむには回数が少なすぎるのです。

ニューハーベストの国産ホップだけでなく、ブルワーは定番の商品として国産ホップを使ったビール造りを年間通して行い、消費者は日常的に飲むようになることが望ましいと考えられます。

そのために、私も活動に協力する日本産ホップ推進委員会では、日本産ホップを使用したビールを成分分析して、ブルワー同士で官能評価会を行っています。積極的な参加を今年も呼びかけたいと思っています。

インプット、そしてアウトプット

さて、元旦早々から口うるさいご挨拶になってしまいましたが、ダメ出しばかりしているわけではありません。むしろ、なんとかしたいと考えているのです。

そのためにこれからも情報を収集し勉強していきたいと思っています。そしてその情報を共有し、業界全体で躍進したいと願っています。

私をはじめJBJAの会員は常にインプットを続け、そこで得た情報や知識をアウトプットし続けたいと日々活動を重ねています。

2023年は、2025年の「日本のクラフトビール生誕30周年記念」に向けてのまずは第1歩となる年にしたいと思います。

それにはみなさんのお力が必要です。
引き続きJBJAをよろしくお願いいたします。

Enjoy! Beer!

2023年1月1日 京都与謝野にて

(一社)日本ビアジャーナリスト協会
代表 藤原ヒロユキ

クラビ連クラフトビールの定義藤原ヒロユキ

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

藤原 ヒロユキ

ビール評論家・イラストレーター

ビアジャーナリスト・ビール評論家・イラストレーター

1958年、大阪生まれ。大阪教育大学卒業後、中学教員を経てフリーのイラストレーターに。ビールを中心とした食文化に造詣が深く、一般社団法人日本ビアジャーナリスト協会代表として各種メディアで活躍中。ビールに関する各種資格を取得、国際ビアジャッジとしてワールドビアカップ、グレートアメリカンビアフェスティバル、チェコ・ターボルビアフェスなどの審査員も務める。ビアジャーナリストアカデミー学長。著書「知識ゼロからのビール入門」(幻冬舎刊)は台湾でも翻訳・出版されたベストセラー。近著「BEER HAND BOOK」(ステレオサウンド刊)、「ビールはゆっくり飲みなさい」(日経出版社)が大好評発売中。

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