ベトナムについて興味があるなら、「333(バーバーバー)」と「ボビナム」を押さえておくべし!
最近、ベトナムが気になって仕方がない。
東南アジアに位置する南シナ海に面した国・ベトナム社会主義共和国(以下、ベトナム)は、日本からも直行便で5~6時間、時差も2時間程度なので旅行先としても選びやすい。
観光スポットやグルメ情報はもちろんだが、私が気になるのはやっぱりビールと格闘技。
今回はベトナム国内でシェア70%以上ともいわれる「333(バーバーバー)」と、ベトナム生まれの総合武術「ボビナム」から、ベトナムという国に触れてみよう。
目次
「333(バーバーバー)」 ベトナムで圧倒的なシェアを誇るビール
「世界主要国のビール消費量」で第9位(2021年)にランクインするベトナムは、実は隠れたビール大国。年間415.9万KLものビールを消費している。
そんなベトナム最大のビールメーカーが「SABECO社(Saigon Beer Alcohol Beverage Corporation)」だ。
SABECO社とは、1875年にサイゴン(現・ホーチミン市)でフランス人が設立した会社。SABECO社のシンボルでもある外装や門は、現存する数少ないフランス植民地時代の建造物である。
「333」は、SABECO社が製造・販売し、ベトナムや日本以外に、アメリカ、オーストラリア、フランス等で発売されているベトナムを代表するビールだ。
「333」は、ドイツ・ハラタウ産の最上のホップを使用し、フランスの伝統的な製法に基づき、ベトナム独自のタッチを加えたビール。
その始まりはフランス植民地時代にある。ドイツのレシピをもとにフランスで造ったビール「33」が、ベトナム国内でも製造されるようになったのだ。
その後、ベトナムは独立し、植民地時代から距離を置くために名称を変更したのが「333」だ。
缶のパッケージ上部には、「Bier」「Bia」「Biere」とドイツ、ベトナム、フランス語でビールを意味する言葉が記され、「333」のロゴの下には、左右にドイツの「アドラー」とフランスの「フルール・ド・リス」が描かれている。
「Triple The Excellense」
3つの卓越した技術と原料が融合されていることを表したパッケージだ。
澄み切った美しいゴールド。泡立ちもよい。華やかな香りが漂い、ほのかに甘味を感じるスッキリした味わい。
日本でも購入しやすい「333」は、ベトナム料理はもちろん、東南アジア料理全般と相性が良い。
ベトナムでは、常温の「333」を氷の入ったグラスに注いで飲むのも一般的。よりスッキリ感が増し、ベトナム気分を味わいたい方にもオススメだ。
「ボビナム」 悲劇の歴史を逆手に取り反映した武道
「ボビナム」とは?
「ボビナム」は、1938年に創始者グェン・ロック氏が生み出した総合武術。フランスの植民地支配を受け抑圧され続けたベトナムで、人々を武術によって心身ともに励まし鍛えることが目的だった。
グェン・ロック氏の後を受け継いだレー・サン氏が、道着やルール、稽古方法など、ボビナムのシステムを確立し、グェン・バン・チュウ氏が戦争中にフランスに移していた基盤をベトナムに戻すとともに世界へと広めた。彼らは「ボビナム」の普及に努めた歴代のグランドマスターとして、その偉業を称えられている。
東洋に伝わる武道や武術と西洋のマーシャルアーツ(格闘技)の技術を研究・分析し、ベトナム人によって練り上げられた個性的かつ合理的な格闘技術こそが「ボビナム」なのである。
マスターフゴ、「ボビナム」との出会い
「ボビナム」を日本に持ち込んだのは、世界初の日本人ボビナムマスターであるマスターフゴだ。富豪富豪夢路の名でプロレスラーやデザイナーとしても活躍している。
1996年のプロレスデビュー以降、世界中で試合を行っていたマスターフゴ。次はベトナムでのプロレス開催を目指していた。しかし当時のベトナムは、プロレスはじめ、観衆を集めヒーローが生まれるようなイベントは、国が認めたもの以外禁止されていた。
どうしたものかと考えたマスターフゴは、2011年にベトナムを訪れ、そのときに開催していた世界大会で「ボビナム」と出会う。驚くほどに正確な動作や目を見張る受け身の技術に、思わずその場で飛び入り参戦を申し出るほどに魅せられたという。
日本へ帰国後、決まっていた仕事を全て消化したマスターフゴは、今度は「ボビナム」を学ぶために再びベトナムへと渡る。
ホーチミン市内の道場に通って一週間。日本から単身ボビナムを学びに来た日本人の噂は、グランドマスターのグェン・バン・チュウ氏の耳にも届いた。そして、グランドマスター直々に指導を受けることとなる。
「夕方からの稽古で複雑な技術をみっちり詰め込まれて、屋台でフォーを食べて寝る。起きたら夕方まで前日の復習をして過ごしていました。」
文字通り「ボビナム漬け」の生活を経て、マスターフゴは日本人初の「マスターライセンス」を受けることとなる。
帰国したマスターフゴは、「一般社団法人 日本ボビナム協会」を設立。日本での「ボビナム」普及に努めている。
ボビナムの稽古は「レー(礼)」に始まり「レー(礼)」に終わる。稽古中の道場には、しなやかで力強い動きとともに、「モッ(1)」「ハイ(2)」「バー(3)」「ボン(4)」「ナム(5)」「サウ(6)」と、ベトナム語の掛け声が響き渡る。
ボビナムの型を見て、「空手に似ている」と感じる日本人は少なくないだろう。マスターフゴは、その違いを独特な言い回しで表現してくれた。
「空手が蕎麦で、柔道がうどんだとしたら、ボビナムはフォー。大きな括りでは同じ武道でも、中身は全く違う。同じ麺類だけど、蕎麦とフォーでは、素材も味わいも全く違うでしょ?」
日本とベトナムを代表する麺料理に例えるあたりが、実にユニークだ。
悲劇の歴史と「ボビナム」
マスターフゴは、「ボビナム」は「悲劇の歴史を逆手に取り反映した武道」であるという。
ベトナムも19世紀までは、日本同様に中国より伝わった漢字を使用していた。フランス植民地時代、西洋の文化を押し付けられるように母国語がアルファベット表記へと変えられたのだ。そんな中、小柄な人が大柄な人を倒す技術として「ボビナム」は生まれた。
しかし、そんな武術の稽古すら宗主国フランスから制限されてしまう。ベトナム人は、密かに稽古を行えるように音を立てないゲリラ戦術を研究。マットも用意できない環境から、受け身の技術は異常なまでに発達した。
激化するベトナム戦争時、国外へ避難するベトナム人の中にはボビナムを身に付けた者も含まれた。そして「ボビナム」は、技の表記がアルファベットだったことがプラスに作用し、世界中に広がっていく。
「ボビナム」と「333」のペアリングはいかが?
「プロレスができなかったベトナムでプロレスをやることができて、ボビナムが知られていない日本にボビナムを持ち込むことができた。こんな幸運なことはないですよ。今の日本は、幼少期からボビナムに触れることができる。これからが楽しみですね。」
マスターフゴはそう話し目を細める。
「幸運」というフレーズが出たことから、「333」が「幸運のビール」と呼ばれる理由についても触れておこう。
ベトナムでは「3」は縁起の悪い数字とされているが、「9」は縁起の良い数字。3つの「3」を全て足すと「9」 になることから、「333」は「幸運のビール」と呼ばれ親しまれている。
見た目に反してお酒は一切飲まないマスターフゴだが、指導員の貞松慶美さん(以下、貞松さん)が「333」について反応してくれた。
貞松さんは、「アジアオリンピック評議会」が主催する国際競技大会で日本人初のメダリストとなり、2022年11月に開催された「第11回 全日本ボビナム選手権」でも複数の金メダルを獲得した日本ボビナム界の第一人者。
大会や修行でベトナムを訪れた際には、行く先々で「333」を飲んでいたそうだ。
「日本ボビナム協会」公式YouTubeチャンネルでは、「よしみ先生のボビナムLesson」が公開中。動画に合わせて、自宅で体を動かすだけでも良い運動になる。そして、運動後のビールが格別なことは、ビールを愛する誰もが知るところだ。
日本とベトナムが「外交関係樹立50周年」を迎える2023年、ベトナム料理と「333」のペアリングだけでなく、「ボビナム」と「333」のペアリングも楽しんでみてはいかがだろうか。
モッハイバーヨー!(1,2,3,乾杯!)
【取材協力】
一般社団法人 日本ボビナム協会
株式会社 池光エンタープライズ
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。