くっくショーヘイが考える日本オリジナルのビアスタイルとは? 日本オリジナルのビアスタイルを探る旅Vol.10レポート
月に1度ゲストを招いて日本オリジナルのビアスタイルの可能性を探るオンラインイベント「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅」。2023年1月は、フードペアリングインストラクター・ビアジャッジ・ビアジャーナリストのくっくショーヘイさんを招いて開催した。
食事との相性からどんなビアスタイルに日本オリジナルの可能性を感じているのか。イベントの進行役を務めた筆者がまとめてレポートする。
和食に合うビールとは?
今回、主催者であるCRAFT BEER BASE(以下、CBB)の谷和さんが関心をもったのが和食と相性の良いビアスタイル。この問いかけに対して、くっくショーヘイさんは大手ビールメーカーのラガースタイルを挙げた。
「日本で長きにわたり愛されてきたということは、日本の食事に合うからだと思います。その理由として、DMS(硫化ジメチル スイートコーンのような香りと言われる)特有の硫黄系の香りが出汁や根菜類との相性が良いからと考えています。また、ビールには炭酸があり、食べた後にすっきりさせてくれます」
谷さんも「日本の大手ビールメーカーのラガースタイルは、日本人に合うように調査・研究をして進化してきた味です。だからこそ繊細な味と言われる和食にも合うのでしょう。そう考えると香りは強くなくすっきりした味わいのビールが合うのかもしれません」と話す。
しかし、谷さんは「ホップの香りは生魚とは合わない」と言い、刺身や寿司には違うビールを合わせる方が良いと話す。
「生魚の場合は、ヴァイツェンのフェノール香やベルジャンホワイトのスパイシーさの方が相性良いです。島国の日本には相性の良いビアスタイルではないでしょうか。IPAが人気ですが、日本ではヴァイツェンやベルジャンホワイトが人気なのは食事との関係もあるのかなと考えています」とくっくショーヘイさん。
和食と言っても様々な料理がある。過去に出演いただいたゲストの話を思い出しても1つのビアスタイルを日本オリジナルにすることは難しいと感じる。
「今、日本の食事って多国籍になっています。だからこそ『ジャパニーズスタイルとは?』と考えると難しくなっているのでしょうね」とくっくショーヘイさん。
谷さんは「色々な食文化が入ってきているからこそ、今一度、海外の文化を知る必要があると話し、「文化を知ることで理解できることがある」と言います。その一環として、CRAFT BEER BASEではビール、料理、グラスなどを揃えてセミナーを開催。スタッフだけではなく参加者とともに理解を深めている。
流行りや地域性。和食でも色々な要素を理解することで日本らしさを感じられるビアスタイルが複数生まれてくるのかもしれない。
香りやアルコール度数も1つのポイントになる?
様々なお酒に精通しているくっくショーヘイさん。他のお酒の視点からみた新しいビアスタイルの可能性も聞いてみました。
「日本は食文化も豊かですが、お酒文化も豊かです。最近は、レモンサワーが人気ですし、お酒の嗜好が広くなっています。これは私個人の考えなのですが、他のお酒では代用ができないからIPAは人気なのだと思います。だから、他のお酒でもカバーできていない香りや風味をビールで表現できるようになるとオリジナルに近づくのかなと思っています」
確かにIPAにある柑橘系やトロピカルフルーツ系の香りは、日本酒やワインには感じることが少ない。味だけではなく香りにも可能性がある。これまで味に意識を向けていたため、この発想はなかったので新鮮だった。
さらに、「日本酒やワインだとアルコール度数が10%半ば。ウイスキーだと40%を超えます。それに対してビールは5%が多い。アルコール度数が低く、飲みやすいお酒というのは長所だと思います。最近のお酒のトレンドを見ていてもアルコール度数を下げて飲みやすさを強調しているものが増えています」とアルコール度数も1つのポイントになると言います。
「日本酒はアルコール度数が高くて苦手にしています」と谷さん。アルコール度数が低い酒ビールが造られるようになると「日本酒に関心を持つ人を増やせるのではないか」と話す。この意見に対してくっくショーヘイさんも「日本酒の要素を取り入れることは、日本酒への関心も示してもらえる可能性があるので酒造業界にとってもプラスになると思います。幸い、小規模ブルワリーを経営している母体会社には酒造会社が多くあります。土台はあると思うので両方の世界観を広げていけるチャンスではないでしょうか」と同調していた。
樽熟成ビールでは、ワインやウイスキーなどの樽で熟成することで、他のお酒の要素を取り入れている。さらにビールを浸けた樽でウイスキーを熟成させた商品もあり、交流が生まれている。造り方は異なるが、同じことができるのではないだろうか。
麹がもつ香気成分は日本の食事と合いやすい
アルコール度数の話が取り上げられる中、くっくショーヘイさんは「ライトに仕上げることや発酵の視点から米に可能性があると感じています」と話していた。
日本の大手ビールメーカーのラガースタイルには米を使用してスッキリとした味に仕上げている商品もある。もう1つの発酵の視点とはどんなことなのだろうか。
「生魚との相性からです。麹由来の香気成分は、魚の生臭さを打ち消してくれます」
刺身や寿司に合わせやすくなる点から米麹を使用するというのだ。
CBBで麹ビールを造っている谷さんも「日本料理は醤油や味噌を使用します。元々あるビアスタイルは海外発祥なので、そのままではぴったり合うことが少ないです。そこに麹や米を使用すると日本の食事に合いやすくなるのではないかと考えています」と言い、同時に麹を使用した料理と合わせることも考えていきたいと話す。
さらに谷さんは麹ビールと合わせるホップに「味噌と合う」という理由からソラチエースを提案。くっくショーヘイさんも「ソラチエース特有の香りと清酒酵母が醸し出す香りとの相性はいいと思っています」と話していた。
これまでホップについては、日本らしさを感じられるものが生まれるまでに時間が必要という理由から積極的に取り上げられることは少なかった。しかし、ソラチエースは日本生まれのホップ。しかも味噌と合うなら日本らしさをアピールするにはぴったりである。この辺りは今後専門家に聞いてみたい。
今回は食事の面から日本オリジナルのビアスタイルを探ってみた。やはり和食と言っても色々な形があるので、1つのビアスタイルに絞るのは難しいし、1つに絞る必要はないと感じた。どんなシチュエーションで飲むかでも違ってくるだろう。くっくショーヘイさんの話を聞いて、益々オリジナルスタイルの可能性が広がった。
2月はリアルイベントを開催
次回の「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅」は2023年2月19日。初のリアルイベントを開催。会場は大阪のCRAFT BEER BASE MOTHERTREE。ゲストに松江ビアへるんの矢野学さん、平和酒造の髙木加奈子さんを招いて、酒ビールや和食との可能性についてトークセッションを行う予定。
当日は、1階のパブスペースでは酒ビールに合う食事を提供する。実際に合わせてみながら参加者と一緒に意見交換をしていく。なお、トークセッションの参加には予約が必要(参加費1000円。ウェルカムドリンク付き)。詳細は日本オリジナルのビアスタイルを探る旅Facebookページから確認してください。
日本オリジナルのビアスタイルを探る旅 vol.11リアルトークセッション
日時:2023年2月19日(日)14:00~15:30
参加費:1000円(ウェルカムドリンク付き)
ゲスト:松江ビアへるん 矢野学さん 平和酒造ビール醸造責任者兼南部杜氏 高木加奈子さん
※並行して1階レストランエリアでは、ゲストが造る日本オリジナルを感じられるビールラインナップ、和を意識したお食事を一緒に楽しめます。
また、今回のイベントを音声にまとめたものをPodcastでも配信しています。参加できなかった方、聴いてみてください。
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。