ソラチエースの香りを最大限に引き出した「SORACHI1984」。 発売から4年の軌跡を振り返る
2023年4月9日で発売から丸4年となる「サッポロ SORACHI1984(以下、SORACHI1984)」。日本生まれのホップ「ソラチエース」を100%使用したシングルホップビールです(現在の「SORACHI1984」はアメリカ産ソラチエースも多く使用。上富良野産ソラチエース一部使用)。飲料業界では1000種類の商品が登場しても3つしか生き残らない「千三つ」という言葉があります。商品を長く販売することが難しい中、発売から5年目を迎える「SORACHI1984」。発売からこれまでをSORACHI1984のブリューイングデザイナーの新井健司さんに振り返ってもらいました。
目次
新型コロナウイルスの影響で思った形が描けなかった4年間
「思っていた形にはならなかったですね。個性的な中味ですし、価格も「サッポロ生ビール黒ラベル(以下、黒ラベル)」よりも高い。とにかく最初は飲んでもらうことが大事だと思っていました」
発売1年目の2019年は、商品を知ってもらうために専念して2年目から飲食店での飲用会を通じて認知を広めていく考えだったと言います。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大により計画が大きく崩れてしまいます。
幸い、家飲み需要が高くなったことで缶商品の売り上げは好調に推移。現在は、限定的ではありますが、大手コンビニエンスストアも置かれるようになっています。
そして、2023年はwithコロナの中、「今までよりも飲食店へのアプローチに力を入れていきたい」と話します。
自社で生まれたホップということを知らなかった
新井さんがソラチエースの存在を知ったのは2013~2014年のドイツ留学の時。「その時一緒にいた海外の醸造家たちから『サッポロビールで誕生したホップだね』と言われて初めて存在を知りました」。
当時、海外ではソラチエースの人気が高くなっていた時期。「日本生まれのホップが海外で流行るということは良いものなのだろう」と思ったと振り返り、「そんなホップがあるなら、日本で気軽に飲めるようにしたい」思いを抱くようになります。
「SORACHI1984」の原型となるビール
ドイツから帰国後、商品開発を担当することになった新井さん。ここからソラチエースを使用したビールに取りかかります。その第1弾が2016年8月19日に発売した「Craft Label THAT’S HOP 伝説のSORACHI ACE(以下、伝説のSORACHI ACE)」でした。
「2015年頃は、大手ビールメーカーでもピルスナー以外のビアスタイルに積極的に挑戦し始めた時代でした。サッポロビールも販売をしていましたが、一部のビールファンからは『大手が造ると無個性になるよね』という感想をいただくことがありました。この頃は、個性と飲みやすさの両立を目指していて、狙って味の設定していたのが理解されなくて悔しい気持ちもありました」
「それだったらエッジを効かせつつサッポロビールらしい商品を開発しよう」と生まれたのが「伝説のSORACHI ACE」です。
日本産ホップの価値を周知するために開発した1本1000円のビール
次に新井さんがソラチエースを使用して造ったビールが「伝説のホップ ソラチエース」(2018年5月28日発売)です。
このビールの価格は1本1000円。狙いは何だったのでしょうか。
「この商品は、日本産ホップに注目してほしくて上富良野産ソラチエースにこだわって開発しました。希少な日本産ホップの価値を知ってもらうために、あえて1本1000円という高い価格を設定しました」
「伝説のSORACHI ACE」と「SORACHI1984」はエールタイプですが、「伝説のホップ ソラチエース」はラガータイプのピルスナースタイルでした。これは「科学的に解明しているわけではないのですが、アメリカ産ソラチエースと比較すると日本産ソラチエースは、レモングラスやヒノキと言われる代表的な香りはあるのですが、それ以外が穏やかでシャープな感じなのです」と特徴を生かすためピルスナースタイルを選んだと言います。
徐々に日本産ソラチエースの使用量を増やしている「SORACHI1984」
そして、2019年4月9日に「SORACHI1984」を全国発売します。
実は「SORACHI1984」は「伝説のSORACHI ACE」と中味をほとんど変えていないと言います。その理由について「ソラチエースの魅力を最大限に引き出したビールという基本軸に変わりがないからです」と話します。
変更点は、わずかながら日本産ソラチエースを使用したこと。「あとはソラチエースの個性を最大限引き出せるように工夫したことです。これは醸造スタッフが頑張って実現してくれたので感謝しています」。
発売も平成から令和に変わる直前で、「新しい時代の始まりに沿える新しい個性を持ったビールをタイミング良く出せたかなと思っています」と振り返ります。
アロマやフレーバーが特徴的な「SORACHI1984」。個人的にはラベルに描かれているゴールドのホップも印象的でした。
「ロゴをゴールドのホップにしたのはソラチエースが特別なホップだからです。グリーンにしてしまうと一般的なホップのイメージになってしまいます。差別化を図るためにゴールドにしました。ホップの中に透かしで『A』の文字を入れたところもこだわりですね」
2023年3月下旬には、日本産ソラチエースの使用量を増加し、缶パッケージもリニューアルします。
「ソラチエースの特徴を最大限引き出す軸は完成しているので中味を大きく変えるということはありません。ただ日本産ソラチエースが増えると成分が変わる可能性があるので、醸造プロセスを変化させる必要は出てくるかもしれません。味を変えないために造り方を変えることはあるかもしれません」
缶パッケージについては、「これまでのお客様の反応からホップのロゴと伝説のホップという言葉を大きくしました。後は味言葉を入れたのと、『1984』の文字に黄色のシャドー(影)を付けています」と変更点を話します。
ソラチエースの収穫量の増加にファンの拡大。取り組むことは多い5年目
一歩ずつ着実に販売数、ファンを増やしてきている「SORACHI1984」。5年目はどんな展開を考えているのでしょうか。
「2020年から増やしているソラチエースの栽培量はさらに増やしていきます。ここまで確実に栽培量と収穫量が増えていています。2023年からは上富良野以外の契約農家さんでも栽培を始めます」
目標である日本産ソラチエース100%の「SORACHI1984」の通年販売。国内のホップ生産量が減少傾向にある中、簡単なことではありませんが夢の実現に向けて新しい歩みが始まります。
さらに「人やモノを通じて認知を広めたいと考えています。2023年は料理分野との関係に力を入れていて、イタリアンとエスニックにアプローチをしています。後は野外シアターやミニシアターといった映画分野や文系ジャンルの方たちと一緒にやりたいと思っています」と語ります。
「黒ラベル」や「ヱビス」のように大きく広告展開をしているブランドではないため、好きになってくれる人の目に留まる戦略が大事になってきます。2023年はイベントが本格的に再開する話も聞きます。
「応援してくれる人が増えてきている実感もあります。色々なところで接点をつくり、ブランドの認知を広めていきたいです。『サッポロラガービール(通称赤星)』だって何十年かけて今の人気と地位を築きました。それに比べたら『SORACHI1984』は歴史が浅いです。課題は多いですけど試行錯誤しながらやっていきます」と意気込みを語っていました。
飲用者との接点として新しい試みも考えていると言います。
「今年も楽しんでもらえる仕掛けをしていきたいと思います。その1つとして、ファンの人たちとの繋がりをもっと強くしていきたいですね。今年はミッションアンバサダーの仕組みを『SORACHI MEMBERS』と変更して新しいファンの方たちとの絆を強くしていきます。それと『SORACHI BASE』という、『SORACHI1984』好きが集まるブランド公式の認定店を拡大していきます。そこを中心にファンが集い、ファンが広がっていく流れをつくっていきたいです」
★SORACHI MEMBERSの申し込みはこちら
商品の中味や世界観を愛してくれる人を増やす。ロングセラー商品となっていくためには欠かせない取り組みだと思います。5年目という1つの節目となる年にどれだけ認知を広めて愛飲者を増やしていけるか。日本産ソラチエースの栽培量を増やし、使用量を増やしていく長い道のりもあります。これからも新井さんをはじめ、サッポロビールの取り組みに注目していきたいと思います。
●SORACHI1984 商品概要
原材料:麦芽(ドイツ、フランス、デンマーク、カナダ、オーストラリア、日本など)、ホップ(ソラチエースホップ100%使用(米国産使用、上富良野産一部使用))
アルコール度数:5.5%
純アルコール量:100mlあたり4.4g。350ml缶あたり15.4g
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。