さくらんぼ生産者としてビール作りに係わった感想 (甘味と酸味の考察)
はじめに
昨年に引き続きさくらんぼビールが完成しました。
今回のビールは過去2回と違いビールの苦みとさくらんぼの酸味と甘みの調和が非常に良く、いちばん良い状態に仕上げて頂いた思います。
しかし、甘味に関してもう少しビールの味に最初に出ても良いのではと思い、甘味について調べてみると酸味が関係していた事が解りました。
今回のさくらんぼについて
2022年2月に大雪等の影響によりさくらんぼハウスの半分が倒壊してしまいました。倒壊したハウス(以下路地と言います。)には収穫の遅い「南陽」が主でした。残ったハウスは収穫の速い「佐藤錦」と「南陽」が半々のため、生産の重点をハウスにして、路地は天気を観て収穫する。
そして、ビールに使う「ナポレオン」は路地ものにし、ハウスの「ナポレオン」は花粉付け終了と同時に実を落とす事にしました。しかし、今年は「佐藤錦」の枝切りが不足していたため小ぶりが多く、それを収穫する頃には「南陽」の路地の収穫が始まてしまう状況でした。又、「南陽」の路地の中盤頃には朝霧が数日発生すると言う悪条件が発生し、ハウスの「南陽」に収穫を移行しました。
さくらんぼは、雨や霧に弱く路地産は実が割れてしまったり、ハイボシ菌が付き腐敗します。
その結果、一番収穫の遅い「ナポレオン」は完熟せずに収穫したため甘味が少なく酸味の強い状態で収穫しなければなりませんでした。また、ハイボシ菌による腐敗から思ったより収穫できず、ビール使用量の約半分にしかなりませんでした。そのため、残り半分を補うために、路地の「南陽」とハウスの「佐藤錦」をそれぞれ、40%と10%使い目標を達成しました。
さくらんぼビールについて
今回のさくらんぼビールの味は、「ナポレオン」の酸味は元々強いのですが、「南陽」と「佐藤錦」は非常に甘いため自分の中では甘味があって酸味がありビールの苦みの順をイメージしていました。しかし、現実は酸味があってほのかな甘味があり最後にビールの苦味があるとの結果になりました。ビールのバランスは良いのですが、何故、甘味が最初に来ないという点に疑問を持ち調べてみました。
甘味と酸味について
文献によると、舌の甘みを感じる受容体は15~35℃の温度域で温度が高いほどよく活性化します。そのため、甘みは冷たいものより、常温あたりの方が甘く感じます。
しかし、さくらんぼに含まれている果糖はショ糖を「1」の甘みとすると5℃あたりだと「1.5倍程度」の甘みがあります。温度が上がると共に甘みは減って、60℃あたりになると「0.8倍程度」の甘みに低下してしまいます。それは温度によって果糖の化学式が変化しているからです。 つまり、ビールの適温であると、甘味が一番強く感じられるはずです。
しかし、そうはなっていません。そこで考えられるのは「ナポレオン」の酸味だと思います。
例えば、甘いハチミツを舐めてからレモンを食べると酸っぱく感じる。逆にレモンを食べるときにハチミツをかければ酸味が抑えられ食べやすくなります。
これを味の対比効果と言うそうで、2種類以上異なる味を混合したときに一方または両方の味が強められる現象のことです。どちらか一方の味が強く、それに対して他方の味が弱いときに起こりやすい現象です。同時に味わうと感じる「同時対比」と、続けて食べることで感じる「経時対比」とがあるそうです。
これが、原因だと思いました。つまり、「ナポレオン」の酸味が強い事によって「南陽」と「佐藤錦」の甘味が抑えられた理由です。
結果及び考察
さくらんぼビールの味を決める甘味は酸味の強さによって変化することが解りました。つまり、さくらんぼの収穫の時期や品種や割合によっても味が変わる事が解りました。味を一定にするためには常にそれらの事を考えて出荷しなくてはならないと改めて考えさせられました。
さいごに
私の農業の師匠が「農業は頭を使うから脳業と言う」と常々言ってました。
すでに今年のさくらんぼ作りのための枝切り(良し悪しで実の大きさや収穫量が左右されます。)やハウスの雪下ろし等で大変な日々ですが、また新たに美味しいさくらんぼビール造りのためとりくんでいきたいと思います。
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参考文献および引用サイト:
夏の甘みを楽しむ方法~甘みと温度~
小林食品株式会社
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