森田正文さんが考える日本オリジナルのビアスタイルとは? 日本オリジナルのビアスタイルを探る旅Vol.12レポート
月に1度ゲストを招いて日本オリジナルのビアスタイルの可能性を探るオンラインイベント「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅」。2023年3月は、ヤッホーブルーイング醸造責任者の森田正文(通称 もーりー)さんを招いて開催した。
日本を代表する小規模ブルワリーでビール醸造を担っているもーりーさんは、どんな可能性を感じているのか。イベントの進行役を務めた筆者がまとめてレポートする。
今はなくても困らない。ただ、あったら良いなとは思う
イベントの冒頭、いつも通り日本オリジナルの有無をもーりーさんに聞いてみた。
「今の時点で日本オリジナルのビアスタイルはないと思っています。でも、その状態が困るかというとそうでもないと感じています。ただ、色々なシチュエーションを考えたときに『あったらいいなぁ』とは思っています」
話を聞いてCRAFT BEER BASEの谷和さんは「海外のビール品評会に行くと、必ずと言っていいほど『日本のオリジナルスタイルは何?』『いま、日本で流行っているビアスタイルは何?』って聞かれます。そうした時に明確に『こうです』と答えられるものがあると良いなって思うんです。特に自分も醸造を始めてから『日本人が日本でビールを造るなら日本オリジナルのビアスタイルがあったら良いな』と思うようになりました」と日本らしい個性をもったビールへの願望が出てきたと言う。
ヤッホーブルーイングでは、約10年前からアメリカ向けにビールを輸出している。開発当初は、「和の素材を使用するみたいな縛りはあった」と言いますが、現在は解釈を広げて『日本らしさ』『日本の技術』を考えて開発している。これまで鰹節や塩漬けした桜の葉を使用したビールを造っていて、「こういう活動は地道に続けていく必要はあるかなと思います」ともーりーさん。
「前略 好みなんてきいてないぜSORRY セッション柚子エール~あら塩仕立て~」では、ゆずと塩を使用するだけではなく、ゆず果皮を塩もみしている。「漬物の技術を取り入れて、浸透圧の変化を利用することで、ゆず果皮の内側に閉じ込められている香り成分を引き出しています」と素材だけではなく技術も取り入れている。
2018年の酒税法改正では、鰹節が副原料として認められるようになった。まさにVol.6に大山ブルワリーの岩田秀樹さんが話していた「時間」「認知」によるものだと思った。
クラフトビールは「One World」の世界観をもつお酒。ジャパニーズスタイルは海外から生まれても良いのでは
最近、海外ブルワリーが日本の素材を使用したビールを造り出していることに注目していると谷さん。
「アメリカではライスラガーや麹ビールなど日本の素材を使用したビールが登場しています。日本らしさを表現したものが海外から発信されるのではなく、日本から発信できるようにしたいです」
谷さんの話を受けてもーりーさんは「2つ思うことがある」と言う。
「海外のブルワーから『日本ってどんなビールを造っているの?』と聞かれた時に、米をポジティブに使用するところだと思っていました。米は海外だとすっきりした味にするために使用する素材という認識です。素材を生かしたビールを造る印象が薄かったので、『米を生かしたビールを造るのは上手だよ』って話しています」
「もう1つは、クラフトビールの世界って国境を越えて仲が良いです。『One World』の世界観のある業界なので国ごとのアイデンティティを強く打ち出さなくても良いかなと思っているところもあります。だからジャパニーズスタイルが海外から出てきても良いと思っています」
もーりーさんは、ローカリズムはあっても良いが、「排他的な考えになってしまうと返って世界を狭めてしまいます。色々な角度から考えていくのが好ましいと思います」と話す。
海外の料理が日本で独自の発展をしたものもある。外から見ているからこそ見える世界もある。日本にいる海外籍のブルワーからも話を聞いてみたい。
大麦を磨いてビールを造ったらどうなるの?
イベントの終盤では今までにない話も飛び出した。それは日本酒の精米技術を取り入れてみたらどうなるのかということだった。
「磨いた麦芽をでんぷんだけ糖化して大麦のもみ殻で濾過すると味は薄くなるけどクリーンで日本食に合う麦汁ができると思うんです」ともーりーさん。
これには谷さんも「どんな風になるのか。実現できるか分かりませんが挑戦してみる価値はありそう」と興味を示し、もーりーさんは「近いうちに実験をしてみよう」と話していたので結果が出たら報告に来てもらおうと思う。
色々と課題はあるが、クリアしていくことでビール醸造の新しい形によるジャパニーズスタイルの確立があるかもしれない。
このオンラインイベントも1年経つが、まだまだ興味深い話が多く飛び出してくる。これもクラフトビールがもつ自由な世界観からだろう。これからもどんな話が聞けるのか楽しみである。
次回の「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅」の開催は2023年4月25日(火)21時から。ゲストはサッポロビールの新井健司さんを迎える。日本で生まれたホップ「ソラチエース」を使用した「サッポロ SORACHI1984」の責任者である新井さんにホップの可能性をはじめ、様々な角度から話を聞いていく。
このオンラインイベントは無料で参加できるので関心のある方は参加してほしい。イベントの情報は「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅」のFacebookページを中心に告知します。
今回のイベントの様子をPodcastで配信している。興味のある方はぜひ聞いてほしい。
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。