[コラム]2023.4.24

「Hood to Fuji」オレゴンホップ教育・センソリーセッションレポート

日本とアメリカオレゴン州のブルワリーがコラボレーションしたビールイベント「Hood to Fuji」。4月16日〜17日の2日間、渋谷ストリームで開催されました。

イベント前日には醸造家向けのホップセミナーを開催。会場には100名近くが集まり、オレゴン州のホップ栽培から使用方法までを学びました。

今回はセミナーのポイントをまとめてお伝えします。

国主導でホップ開発に取り組んでいる

オレゴン州は、ホップ栽培の盛んな地域です。その理由をオレゴン州立大学のリンジー・ルーバタムさんは以下のように話します。

・ホップ栽培は1870年代からスタート。

・現在のアメリカのホップ栽培の割合は、ワシントン州73%、アイダホ州16%、オレゴン州11%と北西部に集中している。

・農務省がオレゴン州でホップの開発・研究プログラムを立ち上げて、現在も続いている。

・オレゴン州のホップ栽培はウィラメットバレーで行われている。海からの距離や年間降水量、温度などドイツの気候と似ている。この地域は、雨や洪水により土壌の栄養分が良い。

ホップ栽培に適した地域という理由以外にも国が率先してホップの研究・開発に取り組んでいるので盛んになっていると言うことでした。

セミナーの進行役は「お州酒」のレッドギレンさん。「Hood to Fuji」ではオレゴン州側のまとめ役でもある。

ホップ栽培で重要なこと

ホップ栽培が盛んなオレゴン州。Sodbuster Farms主任農学者のアブナー・モンドラゴンさんは、ホップを育てていくうえでのポイントを次のように話していました。

・病気に気を付けて品種を選択している。

・栽培途中で、ツルや花からサンプルを取ってストレスがどのくらいかかっているかを判定する。

・1つの紐に何本のツルを誘引するかを決定する。これは収穫量に関係してくる。

この辺りは日本でも行っているが、ストレス判定など詳細なデータを収集しているホップ栽培者は少ないと思われる。今後、日本でも高品質なホップを栽培し、海外へアピールするためにはデータ化は必須だと感じました。

セミナーに参加するブルワー達。セミナーの最後には多くの質問があり、改めてホップへの関心が高いと感じた。

収穫後と加工方法で重要なこと

Sodbuster Farms代表取締役社長ダッグ・ウェザーズさんとCrosby Hops販売開発&ソージングのブライアン・クロスビーさんからは、収穫後と加工時の品質維持について話がありました。

・ホップは収穫後、75%ある水分量を約60℃で10%まで乾燥させる。

・乾燥は約7時間で終了。その後、冷ましてから休ませて圧縮する。

・圧縮したホップは-2℃で保管。

・現在はコンピューターで管理して行っている。

・品質の良いペレットをつくるためには、作業を素早く、ホップが偏らないように均一に混ぜる。

・粉砕中の温度は49~54℃に保つ。熱と酸素を可能な限り与えない。

・ペレット完成後は、窒素で満たされた二重のマイナーバックで保管。残留酸素は2%以下

・最近は濃縮ペレット(クライオペレット)もつくっている。醸造の作業効率が上がるので使用されるようになっている。

・濃縮ペレットは、-50℃でつくっている。ルプリンが壊れてしまうので、通常よりも丁寧に作業する。

・ペレットは輸送時も冷凍しておくのが良い。

・ブルワリーでの保管も冷凍が良い。

・良い保管状態なら3~5年は品質が保たれる。

「ホップは熱や酸素の影響を受けやすい」。高品質のホップペレットを提供するためには素早い作業と冷凍保存は大事だと何度も話していたのが印象的でした。

ビールや実際に使用しているホップを例に出しながら進行していった。

ビールの完成をイメージして原料を選ぶ

LEVEL BEERのシェーン・ワーターソンさん、MIGRATION BREWINGのマイク・ブレンズさん、CULMINATION BREWINGのトマース・スライターさんからはビールを醸造するポイントについて話がありました。

・つくりたいビールをイメージする。

・使用する原料からどんなフレーバーを得たいのか。ホップからはどんなフレーバーを得たいのかを考える。

・原料は使い過ぎない。欲しいフレーバーを得るために最低限の原料でつくる。特徴を出す使用方法を心がける。

・サブホップはメインホップをサポートするかを考える。

・ホップを比較する時は、同じ麦汁・酵母のもので行う。

・時間が経つとビールのフレーバーがどう変化するのか確認する。

・需要に対応するためにレシピを変更することは恐れない。

・同じ品種でも年ごとに違う。生産者とコミュニケーションをとって教えてもらうようにする。

・最近、オレゴン州では、イソアルファ酸に変化させないため、ワールプール時に麦汁を約80℃まで下げて行っている。これは苦味を付けないこと、香りを揮発させないことが目的。

・成功や失敗を同僚や他のブルワリーと共有する。

複雑なアロマやフレーバーを出すためには、たくさんのホップを使用するものだと思っていた。しかし、狙ったアロマやフレーバーを実現するためには、品種ごとの特性を理解して最低限の原料で造る考えに驚きました。

会場ではホップをはじめとする原料を取り扱う企業のブースも設置。ブルワーたちが熱心に話を聞いていた。

日本国内では、醸造については地域ごとにブルワリーが集まった勉強会や日本産ホップ推進委員会が主導となり、年に数回ホップの勉強会を開催しています。こうした勉強会は品質を向上させ、素晴らしいビールを飲み手に提供するきっかけになります。

さらに海外のブルワリーや原料生産者と情報を定期的に交換できるようになれば、日本のビールシーンはもっとレベルが上がると期待されます。

次の日本開催は2025年の予定です。同じ年にはクラフトビール業界団体連絡協議会が「BEER EXPO」を計画しています。その時は、連携して生産者から飲み手まで一堂に学び合える場があるといいと思います。

最後に貴重な機会を設けてくださいました「Hood to Fuji」関係者の皆様、ありがとうございました。次回の開催も楽しみにしています。

Special Thanks HOP SAIJO

HOOD TO FUJI

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

こぐねえ(木暮 亮)

ビールコンシェルジュ

『日本にも美味しいビールがたくさんある!』をモットーに応援活動を行っている。実際に現地へ足を運び、ビールの味だけではなく、ブルワーのビールへの想いを聴き、伝えている。飲んだ日本のビールは4000種類以上(もう数え切れません)。また、ビールイベントにてブルワリーのサポート活動にも積極的に参加し、ジャーナリストの立場以外からもビール業界を応援している。

当HPにて、「ブルワリーレポート」「うちの逸品いかがですか?」「Beerに惹かれたものたち」「ビール誕生秘話」「飲める!買える!酒屋さんを巡って」などを連載中。

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