[コラム]2023.5.22

新井健司さんが考える日本オリジナルのビアスタイルとは? 日本オリジナルのビアスタイルを探る旅Vol.13レポート

月に1度ゲストを招いて日本オリジナルのビアスタイルの可能性を探るオンラインイベント「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅」。2023年4月は、サッポロビール「サッポロ SORACHI1984」ブリューイングデザイナーの新井健司さんを招いて開催した。

日本生まれのホップであるソラチエースを使用したビールをデザインした新井さんは、ホップにどんな可能性を感じているのか。イベントの進行役を務めた筆者がまとめてレポートする。

※今回の新井さんの話は個人の見解によるものです。

主役も脇役も務めることができる唯一無二のホップ

イベントは、CRAFT BEER BASEの谷さんからソラチエースの特長を聞くところから始まった。

「他にはない香りが1番の魅力だと思います。いま、流行っている柑橘類をイメージさせるホップの要素を持ちつつ、全体の余韻をつくることができるホップです。主役もできるし、脇役も果たせる唯一無二の存在だと考えています」

ソラチエースには、他のホップにはあまり含まれていないゲラン酸がキー成分となっている。しかもソラチエースの香りはゲラン酸だけではなく、その他のホップの香気成分が組み合さることで形成されることが分かっている。こうした理由から、主役も脇役も務めることができるホップなのだ。

ソラチエースの研究についてはこちらを参照ください。

その香りの中から谷さんは、「独特な香りを持っている中で、檜温泉に行くと感じる香りや日本酒の杉樽のような香りを感じる和を連想させるホップです。単独で使っても個性が発揮できる」とイメージを語った。

この意見に対して「珍しい意見」と新井さん。「ソラチエースはシングルホップで使うと考える人の方が少ない印象です。私見ですが、出汁のような存在で、ビールの余韻が良くなり、味に深みが増すので味のベースラインが上がるんですよ。海外ではこういう使い方が多いです」と話す。

既存のホップもテロワールで新しい魅力をもつ可能性

和の要素を感じると話した谷さん。これについて新井さんは「明確なことはわからないです。でも、ホップ博士の村上敦司さん(元キリンビール)が、MURAKAMI SEVENもどことなく日本的な要素を感じると話していました。ソラチエースも日本産とアメリカ産は違いがあります。レモングラスやヒノキと言った代表的な香りは変わらないのですが、日本産の方が繊細な感じです。育てられた土地や気候によって変化する部分はあると思います」と答えていた。

日本の土地や気候に合った品種の開発はもちろん、海外産のホップも日本で育てられていくことで変化が生じてくるかもしれない。新種や変化が日本オリジナルとなるのかはわからないが、新井さんの話を聞いていて可能性はあると感じた。

そのためにもホップの研究ができる場所を増やす必要もあるだろう。研究機関が増えれば、多くの研究が進み、日本のホップ産業の発展につながるはずだ。

そんな中、「研究で明確にしていく必要性はあります。ただ、あえて追求しすぎずに浪漫の世界で語るのも楽しいかもしれません」という考えは面白いと思った。

ソラチエースと和食のペアリング

今回、新井さんをゲストに招いた理由の1つに、第10回のくっくショーヘーさんの回で取り上げられた「ソラチエースを使ったビールは和食に合うのではないか?」という疑問からだった。

「日本食には色々な料理があります。その中でも魚料理に合うビールに興味をもっています」。これまでCRAFT BEER BASEでも魚料理を意識して麹を使用したビールを醸造している。今後は麹ビールに使用するホップにソラチエースを使用して「どのような香りや味になるのか挑戦してみたい」と谷さんは展望を語る。

和食に合うビールについて新井さんは、「ソラチエースを使用したビールって、なぜか和食と合うんです。これはディル(魚のハーブと例えられる香り)に近い成分があるからです。だから生魚を食べる日本の食事にも合うのだと思います」と考えを話す。

更に新井さんは、「わさびとマンゴーとの相性が良いんです。わさびは単体でも良いですし、醤油と合わせても良いです」とお勧めのペアリングを言うと、谷さんは「木の芽が良いですね」と各々が勧める組み合わせを話していた。「明確な理由はわからないので不思議なんですけどね」と感覚的なものだが2人とも和食には合う認識のようだ。特に谷さんは、「ソラチエースは料理との相性が良いので次々にペアリングが浮かんでくる」と話していた。

恐らく今後の研究によってソラチエースが和食との相性が良いのかは解明されてくるだろう。

ソラチエースから色々なホップに焦点が当たる回になると予想していたが、ソラチエースがもつ魅力だけで話が展開されることになった。信州早生をはじめソラチエース以外にも日本生まれのホップはある。新井さんの所属するサッポロビールでは、フラノマジカルやフラノスペシャル、リトルスターなど様々なホップを開発している。次にホップに焦点を当てる時は、日本生まれのホップを総合的にみた視点から話を聞いてみたい。

次回の「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅」の開催は2023年5月31日(水)21時から。ゲストはビアツーリズム研究家、「クラフトビールCLUB」パーソナリティの風間佳成さんを迎える。旅という視点からどんな話題が飛び出すのか。これまでとは毛色が異なる方向性なので楽しみだ。

このオンラインイベントは無料で参加できるので関心のある方は参加してほしい。イベントの情報は「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅」のFacebookページを中心に告知します。

今回のイベントの様子をPodcastで配信している。興味のある方はぜひ聞いてほしい。

 

新井健司日本オリジナルのビアスタイルを探る旅谷和

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

(一社)日本ビアジャーナリスト協会 発信メディア一覧

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この記事を書いたひと

こぐねえ(木暮 亮)

ビールコンシェルジュ

『日本にも美味しいビールがたくさんある!』をモットーに応援活動を行っている。実際に現地へ足を運び、ビールの味だけではなく、ブルワーのビールへの想いを聴き、伝えている。飲んだ日本のビールは4000種類以上(もう数え切れません)。また、ビールイベントにてブルワリーのサポート活動にも積極的に参加し、ジャーナリストの立場以外からもビール業界を応援している。

当HPにて、「ブルワリーレポート」「うちの逸品いかがですか?」「Beerに惹かれたものたち」「ビール誕生秘話」「飲める!買える!酒屋さんを巡って」などを連載中。

●音声配信アプリstand.fmで、ビールに恋するRadioを配信中
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<Web>
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