[コラム]2023.9.12

ラベルで読み解くローカリティ — ベルギーのフランス語とクラフトビールの関係について —

皆さんは、ベルギーで話されるフランス語の中には、フランスをはじめとする他のフランス語圏地域では使われない独特の語彙や表現が少なからず存在することはご存知でしょうか!?ベルギービールを通しても、このようなベルギー独特の言葉や表現を知ることができます!本記事では、ベルギーのクラフトビールを3つ紹介しつつ、それらの商品ラベルで目にすることができるベルギー独特のフランス語表現や語彙について解説します

1897(ランビック+セゾン)「 アン・シュトゥームミングス × カンティヨン」

1897(ランビック+セゾン)「 アン・シュトゥームミングス× カンティヨン」

まずご紹介するのは、EN STOEMELINGS(アン・シュトゥームミングス)CANTILLON(カンティヨン)のコラボビールである1897,  Mille huit sont nonante-set (ミル・ユウィットソン・ノナントュセットゥ)。ブリュワリーの名前に使われているEn stoemelingsという表現は、「こっそりと」という意味を表します。この表現はstomというオランダ語の単語に由来しています。一般的なフランス語では、En douce(アン・ドゥース)、またはEn cachette(アン・キャシェットゥ)という表現が該当します。さらに、ベルギーのフランス語では、数字の読み方に関しても一部で独特の読み方をします。そのため、このビールの商品名も一般的なフランス語では、Mille huit sont quatre-vingt-dix-set(ミル・ヌフソン・キャトルヴァン・ディズュセットゥ)と発音するのに対し、ベルギーでは、Mille huit sont nonante-set(ミル・ユウィットソン・ノナントュセットゥ)という読み方をします!

※このような数字の読み方はベルギー以外にも、ベルギーの旧植民地であるコンゴ民主共和国、ブルンジ、ルワンダのほか、スイスでもされています。

ティッシュ(ブロンド)「ノン・プテートル!」

ティッシュ(ブロンド)「ノン・プテートル!」

次にご紹介するのは、NON PEUT-ÊTRE !(ノン・プテートル)Tichke(ティッシュ)というビールです。ブリュワリー名であるNon, peut-êtreを日本語に直訳すると「いいえ、おそらく」という意味になりますが、ベルギーのフランス語では「はい、もちろん」という意味を指す表現として機能しています。一般的なフランス語では、Oui, bien sûr (ウィ、ビアン・シュール)という表現が使われます。さらに、商品名として使われているTichke(ティッシュ)という言葉は、「小さな男性器」や「悪ガキ」、さらには「親しい友人」を意味するベルギー独特の男性名詞の俗語です。

※フランス語の名詞は全て男性名詞か女性名詞に分類されます。また、Tichkeの一般的なフランス語での表現に関しましては、卑猥であるほか、罵り言葉としての意味合いも持つため、今回は割愛いたします。

ダーク・ブロール・サワー(サワー&ワイルドエール)「ジャニヌ」

ダーク・ブロール・サワー(サワー&ワイルドエール)「ジャニヌ」

最後にご紹介するのは、JANINE(ジャニヌ)DARK BROL SOUR(ダーク・ブロール・サワー)というビールですジャニヌは、マイクロブリュワリーCo Hop, Brussels Cooperative Brewpub(コー・ホップ、ブラッセルズ・コーペラティヴ・ブリューパブ)を共同運営する4つのクラフトビールメーカーのうちの一つです。商品名であるダーク・ブロール・サワーには、Brol(ブロール)というベルギーのフランス語独特の男性名詞の単語が使われています。この単語は、「乱雑した状態」もしくは「無秩序状態」を意味しています。一般的なフランス語での類義語は、Désordre(デゾルドル)という男性名詞の単語が該当します。

コー・ホップのタップルームで飲めるビールの一覧(撮影日 2023/3/10)

※2023年9月現在、このビールは醸造されていないので、過去にタップルームで撮影した画像を使用しています。商品のラベルデザインはこちらのリンクから確認できます。

まとめ

このように、私たちが日頃何気なく手に取っているクラフトビールの商品ラベルには、その生産地域独特の言葉や表現が書かれている場合があります。もちろんベルギーのみならず、日本も含めた世界中の様々なクラフトビールメーカーの醸造所名や商品名にも、生産地域の方言や俗語、独特の表現等を用いているものが数多く存在します。是非、地ビールを味わう際には、商品ラベルを通して生産地域の言葉や文化に触れることで、旅した気分を味わってみてください!

※今回紹介した3つのベルギービールは、2023年9月現在日本に正規輸入はされていませんが、現地のスーパーやビール専門店、通販サイト等で購入することができます!

出典

Bienfait, Pauline (2022) 10 expressions de nos voisins les Belges à connaître, L’ illustré , le 10 juillet 2022,  https://www.illustre.ch/magazine/10-expressions-de-nos-voisins-les-belges-a-connaitre-391197, [2023/9/12 閲覧] .

 

アン・シュトゥームミングスカンティヨンコー・ホップジャニヌノン・プテートル!フランス語ベルギーベルギービール

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

安彦良紀 (Kazuki Abiko)

ビアジャーナリスト/ JSA認定ワインエキスパート/ WSET Level3 Award in Wines

1996年生まれ、福島県出身。ブリュッセル自由大学(ULB) 博士課程在学中。2023年度日本ビアジャーナリスト協会新人賞受賞。
インスタグラム@bierebelgequejaime114でも、飲んだクラフトビールの記録およびベルギーや他のヨーロッパ諸国で訪れたバーや醸造所の情報を発信中。

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