地域で愛されるブルワリーを目指して。大阪・茨木市「3TREE BREWERY」3周年記念インタビュー
2020年9月18日に大阪府茨木市にタップルームをオープンし、クラフトビールを製造・販売している醸造所「3TREE BREWERY」が、このたび3周年を迎えました。
9月2日(土)には、茨木市・イバラボ広場にて3周年イベント「BEER FEST 2023」を開催。イベント後、醸造責任者の森凌平さんに、これまでの歩みと、これからについて伺いました。
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ビールの造り手を目指したきっかけは、のぼりべつ地ビール 鬼伝説の「金鬼ペールエール」
森さんは北海道・苫小牧市の出身。京都府の大学に進学し、京都での生活の中でクラフトビールを知ったそうです。その後クラフトビールにハマり飲み歩く中で、のぼりべつ地ビール 鬼伝説の「金鬼ペールエール」に出会います。「初めて飲んだとき衝撃を受け、この味を受け継ぎたい!と、大学卒業後に鬼伝説を手掛ける北海道のわかさいも本舗に入社しました」。
茨木を選んだのは、「まだブルワリーがない」「ビール好きが多い街」のイメージから
茨木といえば、ビール好きな方は「麦音フェスト」が思い浮かぶのではないでしょうか。2012年から始まった音楽とビールの祭典に、来場者として、ときにはボランティアとして、森さんは学生の頃、何度も参加していました。
「とても活気があり、街の人たちが楽しいことやお酒が好きなことが伝わる、すごく好きなイベントです」と森さん。ボランティアスタッフをした際、来場者は一杯目のビールとして大阪のビール、例えば箕面市の「箕面ビール」や高槻市の「國乃長」を選ぶことが多く、”茨木のブルワリーがあればもっと盛り上がるのでは”と感じたそうです。
そして大学卒業後、北海道のわかさいも本舗に入社。ビール造りを4年間学んだのち、妻・尚子さんと「二人でビールに関わる仕事がしたい」と思い、独立。やりたかったのは、1つのテーブルを初めての人同士で囲み、そこでの出会いや会話を楽しめるようなお店だそうです。「北海道は場所にもよりますが、僕が住んでいた苫小牧市や登別市はお店が21時には閉まります。何より車社会なので、一人でふらっと飲みに行くよりは、家で大瓶のお酒を飲むようなイメージ。僕らがやりたいスタイルのビール屋は合わないかなと思いました」。そこで、二人が出会い、学生時代を過ごした関西圏での醸造所立ち上げを検討します。
「まだブルワリーがない街」で「楽しいこと、ビール好きが多い場所」というイメージに合致したのが茨木。わかさいも本舗で造っていた鬼伝説と、古くから伝わる『茨木童子』の民話から生まれた「いばらき童子」が市の観光特任大使という”鬼つながり”にも縁を感じ、2020年3月に夫婦で茨木市に移住。2020年9月18日に醸造所兼タップルームをオープンしました。
こだわりは「設備」と「ドリンカブルな味わい」
醸造所の立地は、阪急茨木市駅から徒歩3分。飲食店などが並ぶ通りにある、2階建てのビルの1階が醸造所、2階がタップルームです。「まずは認知してもらえるよう、駅から近くて人の動きがある場所で始めることにこだわりました」。
そして「うちの設備は他のブルワリーの10分の1のサイズしかないんです。クラフトビールの醸造スペースは約6坪と狭い分、設備にこだわろうと思いました」と森さん。小さいながらも作りがしっかりして、自分の造りたいビールを造れる、アメリカ製のものを採用しました。3年経った今では、自分の身体のように自由自在に扱っているそうです。
2020年といえば、新型コロナウイルス感染症の拡大により、誰もが翻弄された年。森さんも例外にもれず、施工から開業以降も、思うようにいかない日々が続いたそうです。「パンデミックにより、開店に必要な機材の納期が全く読めませんでした。また、コロナ下はパーテーションなどによるソーシャルディスタンスを求められたため、自分たちが思い描くお店に本当になるのか、不安がありました」。
そこから早3年。筆者が初めてお店を訪れた印象は、「同じテーブルの来店客や森夫妻と近い距離で話せる、アットホームなお店」でした。スタンディングテーブル2つとキッチンカウンターがある2階タップルームは、白基調でシンプル&スタイリッシュ、けれどどこか温かみがあり、森夫妻の気さくな雰囲気も相まって心地良い空間となっています。
ドリンカブルで何杯でも飲みたくなる味わいのビールにこだわり、”スタイルには拘らず、自分が今つくりたいものをつくる”。この言葉通り、幅広いスタイルのビールを手掛けています。
3年間で造ったビールは約30種類。定番は「RPG(ペールエール)」、「マルコーブ(セゾン)」
2020年12月から自家醸造ビールを提供開始。3年間で造ったビールは約30種類だそうです。
森さんの核となるスタイルはペールエール。3TREE BREWERYの定番ビールは、鬼伝説の顔であり森さんが一番好きなビールである「金鬼ペールエール」と同じスタイルで、”いつか3TREE BREWERYでも鬼伝説のような最高のペールエールを造りたい”という思いから、その過程をRPGに例え、ビール名を「RPG」に。グレープフルーツのようなアロマと、爽やかな苦味を感じられる、バランスのとれたビールです。
そして妻・尚子さんが好きなスタイルで、こだわりを詰め込んでいるのがもう1つの定番であるセゾン。3TREE BREWERYのファーストパッチでもある「マルコーブ」は、森さんご夫婦の思い入れのある、北海道のパン屋さんの名前を借りたそうです。華やかな香りと、何杯でも飲めそうな心地よい軽さのセゾンは、季節に合わせてレシピを調整しています。
「この他、期間限定ビールは季節に合わせ、夫婦で飲みたいものを話し合って決めています。夏はサワースタイルを軸に、冬は濃色系やハイアルコールなどを中心に造っています」。
9/2(土)に3周年イベント「BEER FEST 2023」を開催!
JR茨木駅、阪急茨木市駅からそれぞれ徒歩約10分。茨木市市役所の前に広がる人工芝の広場は、イベント開始1時間後にはすでに賑わいを見せていました。
3TREE BREWERYのオープン3周年イベントとして開催された「BEER FEST 2023」は、3TREE BREWERYがビールを提供し、大阪府・宇野辺のお弁当屋さん「キッチン花子」と、茨木で本格的なネパール料理を提供する「BARPIPAL」がフードを担当、そして「自転車のエキスパートナー くらしサイクル」主催のDJタイムが場を盛り上げるという内容(16時~21時)。子ども向け縁日の開催もあり、ふらっと通りがかった人でも参加できるようなイベントでした。
「普段から小さなお子様連れのファミリーや80代の方まで、幅広い年齢層、客層にお越しいただいています。ただ3TREE BREWERYの店舗は狭く、2階建ての階段の登り降りもあるため、広く、誰でもが立ち寄りやすい場所で周年イベントをやりたいと考えていました。イバラボ広場での開催は昨年に続き2度め。今年はフードと演出をお任せし、より幅広い年齢層が楽しめるようなイベントを目指しました」。
当日はイベント開催から最後までほぼ列が途絶えることなくビールを提供。鬼伝説とのコラボビール「BACK TO THE 鬼嫁 II」を全国販売に先駆けて開栓。秋限定「秋のおと」も先行開栓し、その他定番ビールや季節限定ビールの最後の1樽を開けるなど、5時間で全11種類を提供しました。明るい時間帯は、レジャーシートを敷いて家族連れで楽しむ方々が、暗くなってからは、DJブースの明かりの周りで大人が楽しむ姿が見られるなど、イベントは大盛況のうちに終わりました。
茨木のローカルブルワリーとしての在り方<廃棄物・缶ビール・茨木麦音フェスト>
「この3年間で、ローカルブルワリーとしての在り方を考えました」と森さん。仕込みで出る麦芽カスは茨木の養鶏場へ飼料として引き取ってもらったり、茨木のお菓子屋さんにサブレとして新たな商品にしてもらったりし、茨木の焙煎所とのコラボコーヒービール造りや、茨木の名産の赤紫蘇を使ったビールを造るなど、街での循環を大切にしてきたそうです。
また、外販はあまりせず、ほぼ全てのビールを自店舗で販売し、茨木で楽しんでもらうことを重要視してきました。
近い将来、缶ビールでの販売を目標にしているといいます。「茨木の人が市外の人に会う際などの手土産に当店の缶ビールを使い、それで当店を知った人が茨木に足を運ぶ。その際当店のビールをお土産に買って帰る。”手土産”から”お土産”に、という言葉を開業前から考えていたので、そんな循環を作れるようになりたいです」。
そして、10/7(土)、8(日)にはついに、”いつか茨木のブルワリーを”と思い描いていた、茨木麦音フェストへの出店を控えています。4年ぶり開催で、森夫妻が茨木に移住してからは初めてです。これまでは来場者・ボランティアとして参加していたイベントへの、ブルワリーとしての帰還に気合は十分!「当日は3TREE BREWERYの看板ビールであるRPG(ペールエール)、マルコーブ(セゾン)、店舗で人気だった限定ビール、そして茨木麦音フェストのためだけに造った、二日間しか飲めない超限定ビールを提供予定です。ぜひ茨木に足を運んでみてください」。
【イベント情報】
茨木麦音フェスト
10/7(土)、8(日)
会場:茨木市中央公園グラウンド(北側・南側)
【店舗情報】
3TREE BREWERY
〒567-0829 大阪府茨木市双葉町3−19
営業時間:
月~金曜 15:00~22:00
土・日・祝日 14:00~22:00
定休日 不定休 ※営業日程はInstagramをご確認ください。
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。