[イベント,コラム]2023.10.17

ビールイベントの、その先へ

コロナ禍も一段落し、最近は週末ごとに各所でビールイベントが開催されている。非常に喜ばしいことだ。残暑がまだ厳しかった9月、雰囲気の異なる3つのイベントに参加してきた。

KOMAE BEER FESTA

9月10日(日)は「KOMAE BEER FESTA」に行ってきた。このイベントは、私は今回が初めての参加だったが、今年で10周年とのことだ。11のブルワリーを中心に、他の飲食店なども含めて22のブースがあり、多くが地元や近隣からの出店だ。このようなローカルなイベントは東京近郊では最近とみに増えてきた。それだけブルワリーの数も増えたということだろう。

このビールイベントの他にも、狛江駅を中心として徒歩数分以内の複数の会場で、子供向けの屋台や音楽ライブなど複数のイベントが行われており、それらを統合して「狛江フェスティバル」と称している。残暑の非常に厳しい日曜日の午後だったが、主に地元らしき人たちでおおいに盛り上がっていた。

古くからの寺社の祭礼にも似た盛り上がり方で、地元の人たちの毎年の楽しみになっているような雰囲気だった。それまでクラフトビールに縁が無かった人が、たまたま見たクラフトビールを「ちょっと高いけど、ちょっと変わったビール」として、初めて口にするケースもあるだろう。それでいい、と思う。このような場で初めてクラフトビールを体験する人を増やすことは、わが国のビール文化の裾野を広げるために必要だと思う。

ベルギービールウィークエンド

9月16日(土)は、六本木で開催されていた「ベルギービールウィークエンド」へと足を運んだ。元々はベルギーのブリュッセルで開催されていたビールイベント。それを模して日本で初めて開催されたのが2010年のこと。現在では日本の主要都市で年に数回開催されている、日本有数のビールイベントである。私は3年前に初めて参加し、今回が2回目であった。

最大の特徴はベルギービールに特化しているという点であるが、もう一つ特徴的なのはそのシステムである。最初に3500円(当日価格)で「スターターセット」(オリジナルグラス1個と飲食用コイン10枚)を購入する。オリジナルグラスは小さめのチューリップ型で、これにビールをサービングしてもらう。ビールは銘柄によってコインが3~5枚で、ビールを提供するブースでは現金などの決済は行わない仕組みだ。

このシステムが、このイベントの雰囲気づくりに大いに貢献していると感じる。まず誰もが最初にスターターセットを購入する必要があるため、本当にベルギービールを楽しみたいという人たちが多く集まる。ブースでサービングする人にとっても、決済はコインの枚数を確認するだけなので、オペレーションがシンプルになる。その分、お客さんとのコミュニケーションにも余裕を持てる。結果として、ゆったりとベルギービールを楽しむ環境が出来上がるのだ。私の印象では「大人な」イベントである。

けやきひろば ビール祭り

そして9月18日(月・祝)は「けやきひろばビール祭り」へ行ってきた。こちらも2009年から行われている、日本有数のビールイベントである。例年は年二回の開催で、春は屋外のけやきひろば、秋は屋内のコミュニティアリーナで行われる。コロナ禍による中断があったが、昨年の春から再び開催されている。再開直後は出店数や来場者数がやや寂しい感じだったが、今回は元通りの盛り上がりを見せていた。

出店しているブルワリーも全国から集まり、クラフトビールの老舗から最近オープンしたブルワリーまで様々である。新しいブルワリーの中にも審査会で入賞するような実力を持ったところもあり、群雄割拠の我が国のクラフトビール界の縮図のようだ。

会場はアクセスの良い立地であり、入退場も自由。イベントのシステムもオーソドックスで、普通にビールや料理を店舗ごとに自由に購入できる。客層も非常に幅広く、コアなクラフトビールファンから初めてクラフトビールを試しに来たような人、家族連れも多く見かけた。私は昨年にこのイベントで、「ビールコンシェルジュ」として来場者へビールの案内を行う仕事をさせてもらったが、「何から飲んだらいいかわからない」というような声もいくつか聞いた。

客席も多様なスタイルで、自由に使えるスタンディングのテーブル席やレジャーシートを広げられるピクニックエリア、有料のテーブル席やキャンプスタイルで楽しめるエリアなど。他にもイベントとして、ビールに関するセミナー、音楽ライブ、ガチャポンコーナーに占いコーナー、そしてお土産ビールにグッズ販売と、多様な楽しみ方ができる。ここではじめてクラフトビールに触れる人も多いだろう。そんな人たちに楽しんでもらい、クラフトビールを好きになってほしいという意図が感じられる。

ビールイベントの先にあるもの

3つのイベントを通して感じたのは、やはりビールという飲み物の持つポテンシャルの高さである。広い場所で、大勢の人たちと、楽しく飲む。それにふさわしいのは、やはりビールが一番ではないかと改めて思う。ローカルなイベントで地域の活性化に貢献する、こだわりを持ったイベントでコアなファンを引きつける、オープンで敷居の低いイベントでビールファンの間口を広げる。スタイルの違いはあれど、それぞれのイベントは人々にビールの楽しみ方を提案し、人と人をつなげる役割を果たしている。

そして、わが国におけるビールイベントは、単にビール好きが集まるお祭りから、一歩先へと進みつつあるように感じる。ビールイベントにかかわる人達が、どうやってビールを通して人々の日常の暮らしを豊かにできるのかを考えて形にしている。最近のビールイベントを見ていると、そんな風に私には感じられるのである。

私が以前にドイツを旅した時の風景を思い出す。暖かい春の平日の昼間、カフェやレストランのテラス席では、老人たちが集まって、地元のブルワリーのビールをゆっくりと会話しながら楽しんでいた。私はその光景を非常にうらやましく感じた。ビールが生活を豊かにするとは、この景色だと思った。わが国におけるビールイベントの積み重ねが、私たちの日常生活に美味しいビールを浸透させてゆき、毎日の生活が少し豊かなものになる。少しずつでも、わが国でビールがそのような存在になってゆくことを願ってやまない。

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※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

津田 敏秀

ビアジャーナリスト

1972年、東京都出身。獨協大学外国語学部ドイツ語学科卒業。
外食チェーン企業に15年間勤務の後、独立。串揚げとクラフトビールの店を7年間経営。今までの経験を活かし、飲食店の経営に関する記事を得意とする。
好きなビールはケルシュ。趣味は乗り鉄。

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